第297話 『ディザスター・ツイスター』


 ディアナちゃんとダンジョンにやってきた。


 なんだか最近は、『とりあえず暇だし、ダンジョンでも行く?』的な流れになることも多い。

 そんなふうに、まるで田舎のイ◯ンっぽくなっている『世界樹様の迷宮』である。


「さてディアナちゃん、とりあえずダンジョンに着いたけど、これからどこに行こうか?」


「んー。ひょうだなー、ろこ行こうか」


 僕の問いかけに、アレクあめを舐めながら考えるディアナちゃん。


 ちなみにアレク飴は、諸事情があって新たに作り直した。

 なるべく細い棒を用意し、先端に飴玉を付けるような形状にしてみた。


 そうして完成した新型アレク飴をディアナちゃんにプレゼントしたのだけど――ディアナちゃんが棒付きキャンディを舐めている姿は、なんだか妙に似合うね……。


「そういえば、浅い階層にはナナさんや大ネズミのモモちゃんがいると思うけど、合流する?」


「ひょれはいいや」


「そっか」


 おそらく現在ダンジョン内では、ナナさんが騎乗したモモちゃんやミコトさんが、一生懸命レベリングに勤しんでいるはずである。

 エルフ、エルフ、ダンジョン、大ネズミ、神のパーティを組もうかと思ったのだけど……ディアナちゃん的に、ひょれはいいらしい。


「というか、さすがにそろそろ飴はやめた方がいいかな?」


 口に咥えていたアレク飴を手に持って、ディアナちゃんがそんなことを聞いてきた。


「まぁねぇ。飴を舐めたままだと、スキルアーツが発動できないからなぁ」


「どうしよっか、まだ舐め終わってないんだけど?」


「捨てていいよ? 飴はすぐ作れるし、土台はただの木だし」


 ダンジョン内に捨てれば、すぐにダンジョンが回収してくれるはずだ。

 なんだったら外に捨ててもいい。ありさんがすぐに回収してくれるはずだ。正確には飴でありニスなのだが、おそらく普通に回収していってくれるだろう。


「簡単に作れるの?」


「ん? まぁ普通に簡単に」


「魔力的にはどうなん?」


「普通の『ニス塗布』よりは使うけど、そこまでじゃないかな」


 リアル系『ニス塗布』の方が必要な魔力量は多いね。


「ふーん。あ、それじゃあここにお供えしてこうか?」


「それはちょっと……」


 ダンジョン入り口に設置された『二代目等身大リアルユグドラシル神像』と、その前のお供え物を見て、ディアナちゃんがそんなことをつぶやいた。


 いや、さすがにそれはやめよう……。世界樹様に食べかけの飴をお供えするのは、さすがにやめておこうディアナちゃん……。



 ◇



 1-3エリアへ到着した。


 結局ディアナちゃんは、アレク飴を舐めながらダンジョンを探索することにしたらしい。

 これからトード狩りを始める予定だが、ディアナちゃんはアレク飴を手に持つことを優先して、弓すら持っていない。

 飴だけでなく、トードをも舐めているディアナちゃんである。


 そうして舐められているトードがやってきたわけだが、ディアナちゃんはアレク飴を口から離し、呪文を唱えた――


「『ディザスター・ツイスター』」


「げこ?」


「いけーい」


「げこ――!」


『ディザスター・ツイスター』――ディアナちゃんが所持する『風魔法』のスキルアーツである。


 ディアナちゃんがスキルによって生み出した小さな竜巻は、トードを飲み込み、ズタズタに引き裂いた。

 なんかもう見ていられないくらいズタズタに引き裂き、あっさりとトードを討伐した。


 そして無事に討伐を達成したミニ竜巻は、ディアナちゃんの近くに戻ってきて、そこで待機を始める。

 ……近くにいられると、ちょっと怖い。


「お疲れディアナちゃん」


「ういういー」


 というわけで、トード狩りの開始だ。

 この調子でサクサクと狩っていき、夏に向けた新作水着をゲットしようという魂胆こんたんである。

 まぁ僕の方は去年の水着でもいいんだけど、ディアナちゃんは新しいのが欲しいんだそうだ。


「さて、ドロップはどうかな?」


「んー。ひょっと微妙ー」


「微妙かぁ。どれどれ?」


 再び飴を舐め始めたディアナちゃんに尋ねたところ、ひょっと微妙らしい。

 どんながらだったのかと僕も確認してみたところ、トード皮にはリンゴの絵が描かれていた。


 ――側面を少しかじられた、リンゴのマークだ。


 ……このマークが僕のダンジョンメニューに付いていたら、ちょっと楽しいかもしれない。

 僕のメニューはスマホサイズだし、スマホ感覚で暇つぶしに使うことも多い。なんだかこのマークとの親和性が、とても高い気がする……。

 とはいえ、あんまり水着には似合わないかもね。


「んー。ディアナちゃんもこれを水着にはしない感じかな? となると、ジェレッドパパさんのところへ?」


「ほうふる」


 ということらしいので、ジェレッドパパに売りつけよう。

 僕達的には必要のないトード皮だが、もしかしたら欲しい人がいるかもしれない。ジェレッドパパのお店にあったら、誰かが購入するかもしれない。

 ジェレパパのホムセンは、そんなトード皮の売買が行われるカードショップ的な活動も始めたのだ。


 ……まぁジェレッドパパが自発的に始めたわけでもなく、いつの間にか始まってしまったシステムなのだけど。


「それじゃあ次に行こうか」


「あーい」


 トード皮をマジックバッグに回収してから、僕達は次の獲物を求めて移動を始めた。

 そして、そのすぐ近くを『ディザスター・ツイスター』も付いてくる。ちょっと怖い。


 それから少し進むと――


「げこ」


「あ、ディアナちゃん、新手だよ?」


「いけいけー」


 ディアナちゃんがアレク飴を指揮棒のようにトードへ向けると、待機中だった『ディザスター・ツイスター』がトードに向かって突進を始めた。

 そしてトードを通過して――またこちらへ戻ってくる。


 一瞬で討伐を達成して、すぐさま戻ってくるミニ竜巻。あんまりその場に停滞し続けると、ドロップ品まで切り刻んでしまう危険性があるのだ。


 というか今倒したトードも、皮という皮が無残に切り刻まれていたと思うのだけど……ドロップ品は綺麗な皮が出現する。なかなかの親切設計である。


「さて、ドロップはどうかな?」


「んー。微妙ー」


「微妙かぁ。どれどれ?」


 どんな柄だったのかと僕も確認してみたところ、トード皮には鳥の絵が描かれていた。


 ――デフォルメされた、青い鳥の絵だ。


「微妙だねぇ……」


 僕はそうつぶやいた。――つぶやいたのだ。


 にしてもパクリが多いなナナさん……。相変わらずのやりたい放題っぷりだ……。


 さておき、とりあえずディアナちゃん的にも微妙だと感じたらしく、このトード皮もホムセン行きになりそうな予感だ。


「それにしても、このミニ竜巻だけど――」


「便利だよ?」


「うん。便利そうだし、強いよね」


 聞くところによると、もっと大きな竜巻を作ることもできるし、数も増やせるらしい。

 たくさん作って、びゅんびゅん飛ばせるという話だ。


 こんな技を使われてしまったら、そりゃあトード如きでは太刀打ちできるはずもない。

 何回やっても何回やってもディアナちゃんを倒せないだろう。


 ……いやはや、やっぱり羨ましいね。

 僕のスキル群だって負けてはいないと思うし、最近の『ニス塗布』なんか、もう本当にチートなんじゃないかってくらいの進化を遂げている。

 それでも、どうしても羨ましいと感じてしまう。


 やっぱり名前がね……。どうにも名前が羨ましくて……。


 現在ディアナちゃんが所持している戦闘系スキルアーツは――


『インファーナル・ヘヴィレイン』

『コキュートス』

『ディザスター・ツイスター』

氷獄ひょうごくの雨』

『天よりりし、螺旋らせんの悪意』

氷嵐ひょうらん


 ……もう羨ましくてたまらない。





 next chapter:世界樹の杖

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