第245話 修行パート2
ダンジョンへ向けて、森の中をてくてくと歩く僕とジスレアさん。
どうせ大したモンスターも出ないので、おしゃべりをしながら進んでいた。
……まぁ当然ながら、話題は先ほどの父についてだ。
「すごく喜んでたね」
「そうですねぇ……」
『剣』スキルを無事に取得できたと伝えたところ、父はとても喜んでくれた。それはもう大変な喜びようだった。
というか、喜びすぎて――
「まさか泣くとは……」
「ぽろぽろ泣いてたね」
僕の『剣』スキル取得を知ると、父はひとしきり喜んだあと――
『そうかぁ……。良かったねぇ。アレクは毎日頑張って……頑張ってた、から……』
などと言って、泣き出してしまった。
そんな父の姿に少し驚いたものの、言われてみれば、確かに僕は頑張っていた。
なんだかんだで八年間、ほぼ毎日のように僕は父と朝練をしていた。なかなかの努力だと思う。その努力が、ようやく実を結んだのだ。
そう思ったら、なんだか――
「アレクも泣いてたね」
「…………」
なんだか改めて達成感なんぞに浸ってしまい、さらには父の涙につられて、ついつい僕ももらい泣きしてしまった……。
そんなこんなで、僕達親子は抱き合って、さめざめと泣き始めてしまったのだ……。
「よかったの? 出てきちゃって」
「……大丈夫です。もう十分喜びを分かち合ったので」
もう十分だろう。ジスレアさんに見られていることも忘れ、もう十分すぎるほど喜びを分かち合った。
というわけで、さめざめとしている父を家に残し、僕はジスレアさんと自宅を出発した。
ちなみに父は、今頃ひとりでお酒を飲んでいるはずだ。
『お祝いだし、久しぶりに飲もうかな。なんだかそんな気分なんだ』
そう言って、ワインのフタを開けていた。
父は普段めったにお酒を飲まないし、飲んでも大して変わらない。ほんの少し陽気になるくらいだ。
今日はどうだろう。やっぱりちょっと陽気になっているのだろうか?
あるいはお酒でブーストして、もっと号泣しているかもしれない。
「さぁ行きましょう。なんだか恥ずかしい場面を見られてしまいましたが、修行です修行」
「私としては、良いシーンだと思ったけど」
「そうかもしれませんが、やっぱり僕としては恥ずかしいですよ……。さぁさぁ修行です」
「うん。修行」
切り替えていこう。切り替えて修行だ。
◇
『世界樹様の迷宮』に到着した僕とジスレアさんは、いつものように2-1森フィールドを散策した。
ある程度2-1の草木や動物達を愛でたあとは、3-1平原フィールドへ移動。
3-1では農業を
そして4-1を流れる川のひとつで、僕らはのんびりと釣りを始めた。
なかなかいい感じだ。今のところ、楽しく修行ができている。
だがしかし、唯一残念に思うのは――
「全然釣れないですね」
全然釣れない。
隣のジスレアさんはちょこちょこ釣れているので、魚がいないというわけではないのだ。しかし僕は釣れない。
……やっぱりルアーのせいかな。
現在僕は、木工シリーズ第十四弾『釣り竿』と、第三十二弾『ハンドメイドルアー』を用いて釣りをしているわけだが……このルアーに問題があるような気がする。
釣れないことを道具にせいにするのもどうかと思うが、実際そこらの虫を付けたときは、そこそこ釣れるのだ。
見た目だけなら上手に出来ているルアーだけど、自然の魚からすると、何かしら違和感があるのだろうか?
……いやまぁダンジョンの魚なので、『自然の魚』と呼んでいいのかは謎だけど。
とはいえ、村の中を流れる自然の川で釣りをしたときも同様で、自作ルアーを用いたときは釣れないことが多い。
「なんか違うんでしょうね、形なのか色なのか動き方なのか……」
「あれをやってみたら? あの、ミリアムの人形にしたやつ」
「え? あぁ、リアル系『ニス塗布』ですか」
ふむ、ルアーをリアルにしてみるのか……。なるほど、そうしたらまた何か違うかもしれない。
「じゃあちょっと塗り直してみ――ん? おや?」
「かかった?」
「いえ、これは……根がかりですね」
川底の岩か何かに、針かルアーが引っかかってしまったらしい。
「取れそう?」
「ん、んんー……? いや、どうも無理そうですね。切っちゃいます」
ここは遊泳が禁止されている川で、ちょっとだけ深いのだ。外しに行くのも厳しい。
仕方ないので、釣り糸ごと切ってしまおう。
本来ならば、川に残された糸やルアーや針が、自然環境に
……そんな感じで僕のルアーは、もう何本もダンジョンに吸収されている。
「やっぱり僕の釣り技術がないからなんでしょうか……」
釣りが上手かったら、こんなふうに根がかりも起こさないし、ルアーでもバンバン釣れるのかな……。
あるいは普通の
そこら辺の知識不足や技術不足が、釣れない原因な気もしてきた。
「スキルでもあったら違うんですかね?」
「スキル?」
「釣りスキルとか。そういうスキルってないんでしょうか?」
「んー。『漁業』スキルってのがある」
「漁業……?」
『漁業』スキル……。
なんだかずいぶんとスケールの大きいスキルだな……。釣りと漁業では、だいぶ違うものに思えるのだけど……。
「それは、どんなスキルなのでしょうか?」
「漁業がうまくなるらしい」
「……なるほど」
そりゃまぁそうなんだろうけどさ……。
どんな感じなんだろう? どうしても漁業って聞くと、漁船で海を回遊するイメージが湧いてしまうが……。
「エルフで所持している人は、あんまりいないスキルだと思う」
「まぁ、そうでしょうねぇ……」
森だしね、ここ……。
『漁業』スキルか。……まぁ、僕にはいらんな。
その後、僕は新しいルアーをリアル化して再チャレンジした。
見た目もちょっと派手めにしてみたリアル系ルアー。多少は効果があったのか、見事魚を釣り上げることに成功した。
そして、そのリアル系ルアーも根がかりによってダンジョンへ献上したあとは、普通の餌に切り替えて釣りを続けた。
やはり普通の餌釣りの方がヒット率は高い。
とりあえずそこら辺の虫やらなんやらでいろいろ試していて、ふと面白いことに気が付いた――
「まさか、ヒカリゴケでも魚が釣れるとは……」
なんの気なしに釣り針に『ヒカリゴケ』をかけて川に放り込んでみたところ、案外あっさり魚がかかったのだ。
下手したら、普通の餌よりも食いつきが良い気がする……。
まさか『ヒカリゴケ』に、こんな使い道があったとは……。
「便利そう」
「はぁ、ありがとうございます」
まぁ便利っちゃ便利なのかね……。
といった感じで、今日のジスレアさんとの修行は終わった。
あんまり修行っぽくはなかった気もするけど、『ヒカリゴケ』の新たな活用法も見いだせたので、たぶん良い修行だったと思う。楽しかったし。
next chapter:剣聖と賢者と剣聖と賢者の息子3
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しばらくの間、三日に一度の更新となります。申し訳ございません。
詳しくは、近況ノートをご覧ください。
次回の更新は7月16日となります。よろしくお願いいたしますm(_ _ )m
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