第227話 『パラライズアロー』が完全に入ったのに……
「一応戦闘の準備もしておこうか」
ぴょんぴょんと木から木へ飛び移れるジェレッド君なら、案外無事に逃げ回れそうではある。
とはいえ、うっかり木からすべり落ちるなんてこともあるかもしれない。
それに、こうして隠れている僕がワイルドボアに発見されてしまうこともありえる。準備はしっかりしておこう。
「……あ、そうだ。ちょっと飲んじゃおうかな」
せっかくなので飲もうか。今日はちょっと飲んじゃおうか。――回復薬を、飲んでしまおうか。
チートアイテムの回復薬セット。こんなときくらいしか飲む機会はないだろう。
普段はもったいなくて、まず使うことはない。実戦で使うのも、いつかのハイパー大ネズミ戦以来のことだ。
「ではでは、ここは安定のノーマル回復薬で」
僕はマジックバッグからノーマル回復薬を取り出してフタを開ける。そして、薬をちょこっとだけ摂取した。
十ミリリットル。たった十ミリリットルだけ飲めばいいのだ。それだけで一時間ほど効果が持続する。とりあえず一時間もあれば誰かが助けに来てくれるだろう。
「アレク!」
「うん?」
回復薬を飲み終え、マジックバッグに薬をしまったところで、ジェレッド君から声を掛けられた。
何ごとかと思い、ジェレッド君がいる方を見ると――
ワイルドボアと目が合った。
「あれ……?」
見てる。ワイルドボアが、明らかに僕を見ている……。
隠れているのがバレちゃったのか……。なんだか一人になった途端に発見されてしまったな……。
もしかしたら――レリーナちゃんがいなくなったから?
『隠密』スキルを持っているっぽいレリーナちゃんと二人で隠れていたからバレなくて、いなくなったからバレた? もしかしたらそんなこともありそう。
「それはともかく……大ピンチだ」
僕を敵だと認識したワイルドボアは、木への突進を止め、猛烈な勢いで僕に向かってきた。
「くっそ、『パラライズアロー』!」
とりあえず安定の初手『パラライズアロー』。
動きを止めるべく、僕はワイルドボアに矢を放つが――
効かない!?
「『パラライズアロー』が完全に入ったのに……」
まぁ、矢は硬い毛皮に弾かれてしまったので、完全には入っていない気もするけど……。
それでも麻痺効果は発動したはずだ。だというのに、ワイルドボアはこちらへの突進を止めない。
「ぬぬぬ……『パラライズアロー』!」
ニ発目の『パラライズアロー』。今度は全力で射ってみた。
魔力を込められるだけ込めて、『麻痺れ麻痺れ』と祈りながら放った――全力全開の『パラライズアロー』だ。
「お、効いた。いち、に、さん……。えぇ……」
僕の全力全開『パラライズアロー』は、どうにかワイルドボアの動きを止めることに成功した。
どのくらい止めていられるかを数えてみたのだけど――たったの三秒。三秒しか麻痺効果は持続しなかった。
「全力で射って三秒なのか……そうか、じゃあ仕方ない」
――仕方ないので、僕は全力全開『パラライズアロー』を連射することに決めた。
「『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』」
ふはははは。これがチート回復薬の力だ。
魔力を使えば使った分だけ回復してくれるので、どれだけでもスキルアーツが使える。全弾全力全開で連射することができるのだ。
「『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、光るパラダイスアロー、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『光るパラライズアロー』」
ふと、試しに最近取得したばかりの『光るパラライズアロー』を射ってみようとしたところ――パラダイスアローが暴発した。
慌てて『パラライズアロー』を二発ほど射ち直してから、改めて『光るパラライズアロー』を射出。
『光るパラライズアロー』も、やはり硬い毛皮に弾かれて矢は地面に落ちた。
そして矢が落ちた地面に――もさっと苔が生えた。
それ以外は『パラライズアロー』と同じだ。麻痺時間も三秒しかなかった。
……なんだこれは。満を持して放ったというのに、なんて役に立たない技なんだ。しかも噛むし。
まぁいいさ……。このまま『パラライズアロー』の連射を続けよう。
弾かれてはいるが、まったくのノーダメージってわけでもない。多少の傷も負っている。
射ち続ければ、そのうち倒すことができるかもしれない。それまで延々と削り続けてやる――
「『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、パラダイスアロー、『パラライズアロー』」
ふははははは。豚め、矢が尽きるまで、何百発でも射ち続けてやるぞ――!
◇
矢が尽きそうだ。
まいったな。あと二十本しか矢が残っていない。
途中でトリガーハッピー状態に
というか、そろそろワイルドボア君は負けてくれないだろうか。
しっかり刺さっている矢も結構あるし、かなりダメージは与えていると思うんだけどな……。
さて――残り十五本。
これは、いよいよ弓以外での戦闘を考えなければいけないようだ。
回復薬を飲んでいるので死ぬことはないけれど、あの突撃を実際に受けるかもしれないと思うと結構怖い。
――残り十本。
ここまでだな。
残りの十本は残しておこう。もしかしたら後で弓矢が必要になるかもしれない。なんだったら、『パラライズアロー』は矢切りでも発動するわけだし。
「さぁ、ここからは接近戦だ。……あ、もう結構よろよろしているじゃないか」
数百発の矢を受けただけあって、さすがにワイルドボアもボロボロだ。
これなら案外なんとかなるかもしれない。レリーナちゃんの作ってくれたバリケードも利用しながら、どうにか戦おう。
「いくぞー!」
ひとまず弓をマジックバッグに収納して、代わりにアレクシスハンマー1号を取り出した。
僕はアレクシスハンマー1号を構え、ワイルドボアを待ち受ける。
「……あれ? というか剣の方がいいのかな?」
接近戦では大槌を使うことが多いので、いつものようにアレクシスハンマー1号を取り出してしまった。もしかして、世界樹の剣の方がよかっただろうか?
確かに『剣』スキルは未取得だけど、技量的にはスキル持ちと同レベルらしい僕の剣術。
ならば、剣で戦った方がいいんじゃないだろうか? なにせ僕の剣は世界樹の剣だ。武器性能的には剣の方が上である。
……もしくは、剣や槌で戦うよりも、矢で戦った方がいいかもしれない。
矢切り『パラライズアロー』で応戦しつつ、ワイルドボアに刺さったあの矢を掴むのはどうだろう。あの矢を掴むことさえできれば、直接矢切り『パラライズアロー』を発動できる。掴みさえすれば――
なんだかここへ来て、選択肢がたくさん出てきてしまった……。
あとはなんだ? 何ができる? あとは……タワシか? タワシのチートにかけるか? とりあえず投げつけてみようかな……。
槌か、剣か、矢か、タワシか……。いったいどうしたものか……。
next chapter:ツンデレ幼馴染2
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