第206話 ダンジョン会議


「「『ダンジョンメニュー』」」


「なんかハモりましたね」


「そうだねぇ」


 ダンジョン会議のため、部屋に集合した僕とナナさん。

 とりあえずダンジョンメニューを開いたところ、なんかハモった。


「それよりナナさん。ポイントを見てよ」


「ふむ……確かにポイント的にも問題なさそうですね」


「そうでしょ? というわけで、そろそろ作ろう」


「そうですね。作りましょうか――4-1エリアを」


 もう何十回も開催されたであろうダンジョン会議。

 今日の議題は、4-1についてだ。


「4-1となると、フィールド型のエリアですか?」


「やっぱりそうなるかな」


「2-1も3-1もそうでしたからね」


 2-1も3-1も、巨大なフィールド型のエリアだった。

 これまでの流れを踏襲とうしゅうすると、やはり4-1もフィールド型か。


「2-1は、森フィールドでした」


「うん」


 森フィールド。

 僕が愛してやまない森フィールド。別荘を作ってしまおうかと悩んでいる森フィールド。けどやっぱり大変そうで作っていない森フィールド。


「3-1は、平原フィールドでした」


「うん」


 平原フィールド。

 2-1を森が広がっているだけのフィールドにしてみたので、3-1は平原が広がっているだけのフィールドにしてみた。

 森フィールドと同様に、直径五キロの巨大な円形フィールドだ。本当に何もない、ただっ広い野っ原が広がっている。


「そういえば、昨日見たら野菜がなっていたね」


「はい? 3-1エリアにですか?」


「うん」


「……あぁ、そういえば畑を作って農業を始めた人がいましたね」


 少し前から、そんなことを始めた人がいるのは確認していた。そして、昨日見たらしっかり野菜が育っていた。


「ちゃんと育つんですね……」


「そうみたい」


「少し気になりますね。どんな味がするのでしょう?」


「普通だったよ? 普通に美味しく出来ていたけど」


「おや、マスターはもう食べてみたのですね?」


「ナナさんも食べていたよ?」


「はい?」


 3-1で野菜を育てていた人は知り合いだったので、挨拶したら普通に貰えた。

 帰ってから母に渡したところ、夕食となって現れたのだ。


「昨日の夕食で出たニンジンとタマネギは、ダンジョンで採れたやつだよ?」


「え? シチューのニンジンとタマネギですか?」


「うん」


「あれは、ダンジョンニンジンとダンジョンタマネギだったのですか?」


「そんな名称の品種かどうかはわからないけど、そうだね」


「そうだったのですか、気付かずに食べていました……。というか、調理していました……」


 実際に調理したナナさんが気付かないくらいに、ダンニンとダンタマはしっかり育っていたらしい。


「というか、食べても大丈夫な物なんですよね……?」


「まぁ、たぶん」


「たぶんて」


「育てた人もしっかり毒性のチェックをしていて、自分で食べても大丈夫だったって話だから、そこは大丈夫だと思う」


「そうですか……。できたらその辺りのことは、教えておいてほしかったです」


「あ、うん。ごめん」


 見た目は普通のニンジンとタマネギだったし味も変わらなかったので、今の今まで忘れていた。

 一応母には伝えたんだけど、ナナさんまでは伝わらなかったようだ。


「ナナさん的にはどうだった、味の方は?」


「確かに普通のニンジンとタマネギでしたね。美味しかったです」


「だよね。とりあえずダンジョンでも、普通に野菜が作れるってことはわかったわけだ」


 これで、もしかしたら3-1エリアで野菜や果物を育てる人達が増えるかもしれない。


 僕としては、探索者が平原エリアで何をしていても構わない。何を作ろうが構わないし、なんだったら家を建てて住んでくれても構わないんだ。

 ただまぁ、後々に土地の権利問題とかで揉めないといいなぁ、とは思うけど……。


「だいぶ話が脱線してしまいましたね」


「あー、うん」


 毎回こうやって話が脱線するから、何十回も会議を重ねることになるんだろうな……。


「本題の4-1についてですが、どんなフィールドにするかが問題ですね」


「そうだねぇ」


「山か川か、火山か雪山か、砂漠か海か、もしくは森丘か」


「森丘……」


 森丘は別にいいかな……。なんだか2-1の森フィールドと大して変わらない気がするし。


「どうしますかマスター?」


「うーん……。火山や海だと、急に難易度が上がりすぎじゃない?」


「確かに平原から火山では、かなり落差がありますね」


 火山と海は、まだ早い気がする。なんとなくそんな気がする。


「では、山とかにしますか?」


「山かぁ」


「まぁ山も種類によっては難易度が高いかもしれませんが」


「難易度が高い山って……エベレストとかK2みたいな山? そりゃあそんなに高い山を作ったらね」


 というか、そんなに高い山を作れるのかな?

 ……まぁ、案外あっさり作れそうな気がする。下手したら、コスト的には不殺大ネズミよりも安いような気もする。


「どうします? 作ってみますか?」


「んー。さすがにエベレストはちょっと危険じゃない? 大丈夫かな?」


 あるいは父や母なら、無酸素でひょいひょい登ったり降りたりできそうではあるが……。


「では、高尾山くらいで?」


「高尾山……」


 一応は同じ山だけど、落差がすごい……。

 しかし高尾山か。前世でも人気の山だな。ひょっとすると、ここでも人気が出るかもしれない……?


「エベレストと高尾山。かなり両極端な山だけど、どっちがいいんだろう?」


「どうでしょうね。登山するにしても、だいぶ質が違いますから」


「うん……」


「なんだったら、両方作ればいいのでは?」


「あ、そうか。なるほど」


 そうかそうか、わざわざ一つに絞らなくてもいいんだ。二つ並べて作ってしまえばいいのか。


 ……とはいえ、エベレストと高尾山を並ばせるのは、なんとなく高尾山に悪い気もする。

 隣にエベレストがいたら、高尾山も気後れすることだろう。


 ……真ん中に富士山でも置こうかな。


「もしくは川なんてどうです?」


「川かぁ」


「フィールド上に、たくさん川を流しましょう」


「ふーむ。釣りをしたりBBQとかしたら楽しそうだね」


 この世界に炭はないけどな……。


みずうみなんかを作るのもいいかもしれませんね」


「ふむふむ、水遊びを楽しむためのフィールドか」


 ありかもしれない。それは確かに楽しそうなフィールドだ。

 普通に泳いだりしてもいいし、大きい湖を作ってカヌーとかも面白いかもしれない。


 カヌーなら、たぶん僕でも作れるんじゃないかな?

 湖を作るより、カヌー作りの方が大変そうってのは、なんかちょっと不思議な感覚だけど……。


「さてマスター。とりあえずいくつか判断材料を出してみましたが――」


「うん」


「山と川、どちらにしますか?」


「うーん……」


 難しいな。どっちがいいかな。

 個人的には川の方が楽しそうではあるんだけど、なんとなく高尾山も惹かれるものがある……。


「ナナさんはどっちがいい?」


「そうですねぇ。どちらも楽しそうではありますね」


「うん」


「渓流下り――ラフティングでしたっけ? ちょっとやってみたいです」


「ふむ」


「とはいえ、ハイキングとかも結構好きです」


「ふんふん」


 ナナさん的には、どっちも有りなのか。

 山にするか川にするか。さてさてどうしたものか。


 ……どうでもいいんだけど、次のエリアを決めるダンジョン会議って感じがあんまりしないな。

 なんというか、夏休みにどこへ行くか相談している家族会議っぽい雰囲気がある。





 next chapter:ダンジョン会議2

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る