第186話 誠に申し訳ございません

※「第186話 『つち』スキル」の予定でしたが、都合により予定を変更してお送りいたします。誠に申し訳ございません。

―――――――――――――――――――――――――――――――――


「誠に申し訳ございません、ユグドラシルさん!」


「…………ん」


「ユグドラシルさん……?」


「うむ……。おもてを上げよアレク」


「ははー……」


 なんだかユグドラシルさんが、お奉行様ぶぎょうさまみたいなことを言い出した。


 土下座スタイルで平べったくなりながら一生懸命頭を下げていた僕は、ユグドラシルさんの言葉に従い、恐る恐る面を上げる。


「あの……もう大丈夫ですか?」


「何がじゃ?」


「え? いや、何がっていうか……」


 さっきまで、死んだ目で膝を抱えていたので……。


「まぁ確かに少し驚いたが、何も問題はない」


「そうですか……」


 『少し驚いた』って感じでもなかったけどな……。


 ユグドラシルさんがテンション高く僕の部屋に転がり込んできて、ナナさんが戦術的撤退を決めた後、僕はユグドラシルさんに事情を説明した。

 一瞬誤魔化そうかと考えてしまったけれど、正直に全部説明した。


 ――全部正直に話して、裸になって謝ろうとした。

 まぁ、裸は止められたのだけど……そもそも何故裸になろうとしたのか、自分でもよくわからない。


 とにかくそんなわけで、僕は服を着たまま説明して、謝罪をした。


 言っていることがわからない――そんな顔で僕の話を聞いていたユグドラシルさんだったけれど、だんだん理解したのか……その後は膝を抱えてションボリしてしまった。


 怒られるかと思ったのだけど、むしろションボリされる方がきついな……。


「すみませんユグドラシルさん……」


「いや、もうよいのじゃ」


「ですが……」


「そもそもわしからお主に頼んでいたことじゃ。それがうまくいかなかったからといって、お主をしかるのも違うじゃろ」


「ユグドラシルさん……」


 さすがユグドラシルさんだ。理性的で、優しくて、慈愛の心にあふれている……。


「連絡を受けてすぐに駆け付けたというのに、この仕打ち――そう思うと、だんだん腹が立ってきたが、問題はない」


「すみません……」


 連絡してから、まだ数時間しか経ってないからな……。

 なのに、すでに終わっているとか、それは慈愛のユグドラシルさんでも怒るわ……。


「こうしてみると、一番最初が一番のチャンスじゃったのう……」


「一番最初?」


「お主からしたら二回目――いや、三回目か? レベル10のルーレットじゃ」


「えーと……? あ、そうですね、あのときはユグドラシルさんと一緒に寝ていたんでしたっけ」


 確か、初狩り前日に行われたレベル10のルーレットでは、ユグドラシルさんと一緒に寝ていた。


 だけど初狩りのプレッシャーや、良い景品を当てられるかという不安、ユグドラシルさんにずっと見られているという居心地の悪さから、僕は眠りにつくまで時間がかかってしまった。

 その結果、ユグドラシルさんの方が先にスヤスヤと眠ってしまったんだ。


 確かに振り返ってみると、あのときが最大のチャンスだったと思う。

 あのチャンスを逃してから、もう早四年か……。


「次は、いったいいつになるじゃろうか?」


「次のルーレットですか? そうですね、やはりまた二年後になるかと」


「二年か、遠いのう……」


「はぁ……」


 ……遠いの? いや、遠いといえば遠いけど、ユグドラシルさんからしても遠いのだろうか?

 なんかもう悠久ゆうきゅうの時を生きている人じゃないのかな、この人は。


「もうちょっと縮まらんじゃろうか?」


「え?」


「一ヶ月後くらいにならんじゃろうか?」


「えっと……」


 無茶おっしゃる……。

 そりゃあそんなことができたら僕だって嬉しいけど、さすがに一ヶ月は――


「わしがお主に『スーパーパンチ』を繰り返し放てば、すぐにレベルが上がらんか?」


「それはちょっと……」


「回復薬を飲んでおけば、死ぬことはないじゃろ?」


「えぇ……?」


 なんだかユグドラシルさんが怖いことを言い出した。

 やっぱりちょっと怒っているんじゃないだろうか……?


「もしくはあれじゃ、ダンジョンマラソンじゃったか? ダンジョンマラソンを毎日行えば、すぐレベル25まで到達せんじゃろうか?」


「いや、それもちょっと……」


 レベル20に向けてのラストスパートで行ったダンジョンマラソンは、最終的に一週間で終了した。

 マラソン漬けの一週間ではあったが、毎日パーティを変えたり、ダンジョンメニューの時計機能を利用してタイムアタックなんかもしていたので、案外飽きることもなかった。


 だけど、さすがにあれを何ヶ月も続けるのは厳しい。

 下手したら、無限リバーシ地獄以上の地獄な気がする……。


「あの、さすがにそれは……」


「そうか……。まぁそうじゃな、わしが強要するものでもないか……」


「えぇと、もちろん僕としても、なるべく早くレベル25に到達できるように努力するつもりですが……」


「うむ。まぁ、無理のない範囲で努めるがよい」


「はい」


 ということなので、頑張ろう。早くレベルを上げて、次こそは僕の昇天をユグドラシルさんに見てもらおう。


 ……しかしあれだね。レベルを上げるのはもちろんなんだけど、レベルアップの確認や、ユグドラシルさんへの連絡なんかも、もうちょっと確実性を高める方法を模索もさくしてもいいかもしれない。


 どうしたものかな? もういっそ、レベル25が近付いたら僕の家にホームステイしてもらおうか? どうだろう? 無理かな?


 ……いや、やっぱりダメか。なんかいろいろ問題が起きそうな気がする……。

 どんな問題かまでは言わないけど、最終的に僕の身に危険が及びそうな予感がする……。





 next chapter:『つち』スキル

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