第130話 歴史的なハンバーグ


 フラフープスキルでも手に入れたんじゃないだろうか……。

 ついそんなことを考えてしまうほどに、ユグドラシルさんのフラフープテクニックが進化している……。


 とまぁ、なんだかまじまじと眺めてしまったけれど、フラフープを回す幼女を舐め回すように見つめるのは、あんまりよくないことな気がする。


 それよりも、ちょっと気になったんだけど――


「ユグドラシルさんはダンジョンへ行って……そこにいた人たちに話しかけられませんでしたか?」


「うむ。何人かに話しかけられたのう」


「ダンジョンのことを聞かれたかと思うのですが……?」


 なにせあのダンジョンには、ユグドラシルさんのメッセージが刻まれている。……まぁ刻まれているというより、僕らが勝手に刻んだんだけど。


「確かにいろいろ聞かれたのう」


「ですよね……。それで、ユグドラシルさんはなんと?」


「『うむ』と答えた」


「『うむ』と……」


 万能すぎる……。

 ユグドラシルさんの『うむ』が、万能すぎてこわい。


「まぁ、『今は何も話せん』と、一応伝えたが」


「そうですか……。あのメッセージはご覧になりましたか?」


「うむ。確かにあれならば、コアを破壊されることもないじゃろうが……」


「すみません。さきほど話した通り、不殺モンスターは費用が高すぎて……そのせいでコアの守備まで手が回らなかったんです。どうしようもなくなって、ユグドラシルさんに守ってもらおうと……」


「わざわざそんなことをせんでも、コアなどそうそう壊されるものではなかろうに……」


「知らなかったんですよ……」


 あの自称ナビゲーターが悪い……。


「あ、それじゃあメッセージを消しましょうか。あのメッセージのせいで、ユグドラシルさんがダンジョンを作ったのだと勘違いしてしまう人も多いと思うんですよ」


「そうかもしれんのう――いや、何が『勘違いしてしまう人』じゃ、お主が勘違いするように仕向けたんじゃろうが」


「す、すみません……。じゃあ、今からでも消しますね」


「いや、今更じゃろ……。構わん。あれがあることで、ダンジョンコアはより安全になるはずじゃ、そのままにしておくがよい」


「そうですか……。すみません、ありがとうございます」


 なし崩し的に、メッセージを認めさせてしまった……。


 これで村人――というより、下手したら全エルフが、アレクナナカッコカリダンジョンはユグドラシルさんが作ったものだと認識してしまうかもしれない。

 僕のせいで、ユグドラシルさんが頭のおかしなダンジョンを作ったのだと思われてしまう。非常に申し訳ない。


「さて、これで大体解決したじゃろうか?」


「そうですね、お手数おかけしました」


 ユグドラシルさんの言う通り、これで『ユグドラシルさんごめんなさいリスト』は大体解決できたはずだ。というか、結局ユグドラシルさん本人に解決してもらった。


「もう他に隠していることはないじゃろうな?」


「ないですないです」


 たぶん。


「そうか、ならよい」


 そうつぶやいて、再び両膝りょうひざでフラフープを回し始めるユグドラシルさん。


 どんな操作をしているのか僕にはわからないが、膝の位置で回されていたフラフープが、徐々に上へと移動を始めた。

 膝から腰、胸、首とフラフープは回りながら移動していき、最終的にユグドラシルさんが頭の上に伸ばした右手を軸に、フラフープが回っている。


 なんだその動き……。

 なんかもう、ただ腰で回すだけじゃないんだな。新体操だか大道芸じみてきた。エクストリームスポーツかなにかだろうか。

 もはやあれだな、フラフープトリックだな。ユグドラシルさんが、クールなフラフープトリックをメイクしている。


「ところでアレク……アレク?」


「あ、はい。なんでしょう?」


 いかんいかん、またしても幼女がフラフープを回す姿に魅了されていた。

 ……まぁここまできたら、魅了されてもいいんじゃないかと思えてきたけど。なんかもう素直にすごいし、見ていて楽しいし。


「何やらナナが、夕食を用意すると言っておったが?」


「はい、ハンバーグを作ってくれるそうです」


「ハンバーグ……。お主が前世で食べていた料理なのじゃろう?」


「そうですね。前世では一般的なお肉料理でした」


 ナナさんが前世も含めた僕の記憶を受け継いでいることは、すでに説明している。

 ナナさんに確認したところ、『話していい』とのことだったので、ユグドラシルさんが来てからすぐに説明した。


「一般的な料理か、お主は作れんのか?」


「僕ですか? いえ、僕は前世で料理とかしなかったので、作り方がわからないです」


 残念ながらレシピも作り方もわからない。

 まぁ料理得意な母に、『肉を細かくして、焼く』とでも伝えれば、ハンバーグくらいは作れたのかもしれないけどね。


 しかし、以前そんな曖昧な説明でお願いしたプリン作りで、僕は母から不信感をもたれてしまった。

 あのときはたしか、『木工スキルのインスピレーション』で誤魔化したんだっけ? ……よく誤魔化せたな。


 とにかく、自分でも作ることもできないし、母にお願いするのも躊躇ためらわれた。

 なので僕は、今まで前世の料理をこの世界に輸入することは止めていた。


「ふむ。お主がわからんのに、ナナは作れるのか? お主の知識が元なのじゃろう?」


「僕も作り方自体は見たことがあったんですよ。僕は忘れてしまいましたが、ナナさんは覚えているらしいです」


 料理動画とかは好きだったんだよね。前世ではよく動画サイトで見ていた。

 そのときの経験から、ナナさんは料理を作れるらしい。


 そんなふうに前世の知識を覚えているのなら、料理以外でもいろんな知識チートをこなせるかとも思ったけど……他はあんまりらしい。

 どうやら『料理』スキルがうまいこと作用して、料理のレシピだけはそこそこ覚えきれたそうだ。


「ハンバーグ以外もわかるらしいので、僕が前世で食べていた料理を、これからはナナさんが作ってくれるかもしれないですね」


「そうか、それは楽しみじゃのう」


 これからナナさんがどんどん前世の料理を作り、いずれは天才料理人として世界に名を馳せるかもしれない。ちょっとうらやましい。

 前世の料理で現地の人達に舌鼓したつづみを打たせるのが異世界転生者だというのに、結局僕の方はプリンくらいしか作れなかった。


「実はこの世界でハンバーグを食べるのは、僕も初めてなんですよ」


「ほー、そうなのか」


「なので僕も楽しみです。ユグドラシルさんも喜んでいただけるといいのですが」


「うむうむ」


 ハンバーグか……。これを広めるのも、異世界転生者の義務だと僕は思っていた。

 作ったのはナナさんだけど、とりあえず役目は果たせただろう。


 世界で初めてのハンバーグだし、もしかしたら歴史に残るかもしれない。

 歴史的なハンバーグを、みんなで堪能たんのうしようじゃないか。



 ――こうしてこの日、世界初のハンバーグが作られ、食された。


 ちなみにハンバーグの肉は、大ネズミとワームの合いびき肉だった。ワームとは、大きなミミズ型モンスターの名前だ。

 つまりは、ネズミとミミズのハンバーグ……。


 何故だナナさん、もっと他にあっただろう。何故ボアを使わないんだ、ボアでいいじゃないか――僕はナナさんに詰め寄ったが、今日はこれしか肉がなかったらしい。


 ネズミとミミズとか、まるっきりゲテモノ料理だ。これが歴史に残ってしまうんだぞ? ネズミとミミズが、ハンバーグの基本になったらどうするんだ……。


 そういえば、どこぞのハンバーガーショップでは、ミミズの肉が使われているなんて噂があったけど……。

 もしかして、そこら辺を意識したナナさんの小粋こいきなジョークだったんだろうか……?


 ……とりあえず、味は美味しかった。





 next chapter:ずるいずるいずるいー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る