第128話 ユグドラシルさんごめんなさいリスト
母の言葉に感動したナナさんが泣き出してしまった後――今度は僕がユグドラシルさんに泣きついた。『ユグドラシルさんごめんなさいリスト』の件についてだ。
さすがにユグドラシルさんは、僕とナナさんを
もしも十字軍にこのリストのことが
……まぁかなり自業自得ではあるのだけど、できることなら助けてもらいたい。
というわけで、僕達は改めてユグドラシルさんに泣きついた。
「ふーむ……わかった。ナナはわしの友人ということにしておこう」
「申し訳ありませんユグドラシルさん」
「申し訳ありませんユグドラシル様」
ナナさんと二人で一生懸命お願いしたところ、ユグドラシルさんが了承してくれた。
よかった。これでリストの『ナナさんはユグドラシルさんの友人だと、百人以上に紹介』は、なんとかなった。
というか今更ながら、何を勝手にやっていたんだ僕達は……。
あのときは『ナナさんが村に
「しかし……ローデットにはなんと説明したものかのう」
「ローデットさんですか?」
「うむ。ナナの鑑定で現れた年齢や種族、称号のことじゃ」
ユグドラシルさんがリストを眺めながら、真剣に考え込んでいる。
リストに書いた『ナナさんの不思議なステータスのことは、ユグドラシルさんに直接聞いてどうぞ』のことか……。
なんだかユグドラシルさんは、リストの課題を頑張ってクリアしようとしてくれているらしい。
「えっと、まぁそこはローデットさんに『教えることはできないのじゃ』と伝えるだけでも……」
「そうじゃのう――というか、わしの真似をするな」
「いたたたた」
のじゃ語を真似たことが気に触ったのか、軽めのウッドクローをいただいてしまった。
「そもそものことなのじゃが……ナナよ」
「はい」
「お主は――ダンジョンマスターではないのか?」
「はい?」
ナナさんを上から下まで眺めた後で、そんなことをユグドラシルさんが聞いてきた。
「それは……ナナさんの称号のことですか?」
困惑しているナナさんの代わりに、僕が確認してみる。
「いや、そうではなく……。まぁ称号もそうなのじゃが」
「えぇと、どういうことでしょう?」
「わしは、ダンジョンを管理するダンジョンマスターと会ったことがある。ナナ――お主は以前会ったダンジョンマスターと、どことなく似た雰囲気を感じる」
「んん?」
他のダンジョンマスターと、似た雰囲気?
……似てるの? なんだろう。ダンジョンマスターって、全員おかっぱで前髪ぱっつんなのかな?
というか、ユグドラシルさんは会ったことがあるのか。さすがだ、顔が広い。
「いや、けどナナさんはナビゲーターさんですよ?」
「ナビゲーターってなんじゃ?」
「え? えぇと、案内とか
「ふーむ、ナビゲーターのう……」
そう伝えると、腕を組んで考え込んでしまったユグドラシルさん。
――というか、ナナさんも何やら考え込んでいる。
「ナナさん、どうしたの?」
「申し訳ありませんマスター。……私は、正確にはナビゲーターではありません」
「えぇ……」
違うの……? つい今しがた、わけ知り顔でユグドラシルさんに説明したばかりなのに……。
「どういうことなの……?」
「はい。まず、私はダンジョンコアから生まれたわけですが……」
「うん」
「ダンジョンコアはダンジョンを作る前に――ダンジョンマスターを生むのです。自分の代わりにダンジョンを設計し、管理してくれるダンジョンマスターを」
「うん。……うん?」
ダンジョンマスターって、そうやって生まれるんだ? ダンジョンコア自身が生むのか。
「ですが今回のコアには、すでにマスターがいました」
「えっと……コアがダンジョンマスターを生もうとしたら、すでに僕というダンジョンマスターがいたってこと?」
「そうです」
それは、コアもびっくりだろうな……。
「そのことについてコアがどう考えたのかわかりませんが……とりあえず私も生んだのかと」
「とりあえず……」
とりあえずでナナさんは生まれたのか……。
「えぇとつまり――コアがダンジョンマスターとしてナナさんを生もうとしたけど、何故かすでにダンジョンマスターの僕がいた……けどまぁ、とりあえずナナさんも生んでみた。――ってこと?」
「そうですね」
「え、じゃあナビゲーターってのはなんなの?」
「もうマスターがマスターだったので、私はナビゲーターとして生きていこうかと」
「えぇ……」
なにそれ……。自分で勝手に名乗っていただけなのか……。
「申し訳ありませんマスター。マスターを
「いや、それは別に……」
それは別に構わない。構わないんだけど……『騙すような形』っていうか、ガッツリ『騙していた』だけな気もする。
「けどさ、それなら本来は、ナナさんがダンジョンマスターになるはずだったんだよね……? 僕がその役を奪っちゃったのか……」
「それは……」
そうなんだ……。そうするとナナさんは、自ら引いてくれたわけだ。
下手したら、『どちらが本当のダンジョンマスターか、勝負だ!』的な感じになってもおかしくなかった……。
「ごめんねナナさん」
「いえ、そもそもマスターがルーレットで当てなければ、私の母であるコアも生まれず、私も生まれることはありませんでしたから」
「そっか……。まぁ何にせよ、今までも『自称ナビゲーター』だと思っていたからさ、本当に『自称ナビゲーター』だったとしても、僕は全然構わないよ」
「自称ナビゲーター……」
何故か少し不満そうにするナナさん。もう自他ともに認める自称ナビゲーターでしょうに。
「とにかくさ、これからもよろしくナナさん」
「……はい。ありがとうございますマスター。私ナナ・アンブロティーヴィ・フォン・ラートリウス・D・マクミラン・テテステテス・ヴァネッサ・アコ・マーセリット・エル・ローズマリー・山田は、ナビゲーターとして、娘として、精一杯マスターに尽くします」
「……うん」
なんかナナさんは、事あるごとに娘アピールをねじ込んでくるな……。
それから、いい加減文字数稼ぎをやめるんだナナさん。ちょっと良い場面っぽいから、途中で止められなかったじゃないか。
「えぇと、そういうことみたいですユグドラシルさん」
「ん? うむ」
途中から僕とナナさんの会話に入れなくなって、微妙に手持ち
「なにやら、部屋が広くなって、回しやすくなったのう」
「あぁ、それはよかったです」
実は、そのために棚を作っていた。
今回はこれでもかというほどユグドラシルさんに迷惑をかけてしまったので、謝罪の意味も込めて、何か僕からユグドラシルさんにできることはないかと、いろいろ考えていたのだ。
棚作りは、そのうちの一つ。
よくこの部屋でフラフープを回すユグドラシルさんのため、部屋を片付けようと思った結果が棚作りだったりする。
「うむ。だいたいの
「すでにマスターがいたので、私にも称号が与えられたのは少し意外な気持ちがあったのですが」
そういえばナナさんに称号のことを聞いたとき、少しだけ様子がおかしかった気がする。それでだったのか。
「うむ。では、そうじゃな――」
再びユグドラシルさんが『ユグドラシルさんごめんなさいリスト』を確認する。ちなみにフラフープを回しながらだ。
「とりあえずナナは、『別のダンジョンのダンジョンマスター』ということにする」
「別のダンジョンの?」
「『村のダンジョンとは別の、最近生まれたダンジョンのダンジョンマスター』じゃと、ローデットには伝える。それでナナの不思議なステータスのことは説明できるはずじゃ」
「あぁ、それなら確かに……」
「ダンジョンマスターのステータスは本来そういうもので、『わしがダンジョンマスターをやらせることにしたアレク』の場合が特殊じゃったと、ローデットには伝えよう」
「それは、僕達としては願ってもないことですが……」
それならば、リストにあるローデットさん関連の項目――『ナナさんの不思議なステータス』と『ダンジョンを始めるよう、ユグドラシルさんに言われた僕』がクリアだ。
大変ありがたい。ありがたいのだけど、非常に申し訳ない。これはちょっと棚を作っただけでは釣り合わないな……。
「うむ、これで残りは『勝手にダンジョンを作った』と、『ダンジョンにわしのメッセージを記した』じゃな」
「はい。すみません……」
「あとは、『合法ロリ』の件に、『アレクが天界へ呼ばれる瞬間が見たかったのに、勝手にレベルアップした』ことか」
「…………」
本当に合法ロリは書かなければよかった……。
というか、『ユグドラシルさんごめんなさいリスト』に、何やら追加でリストアップされている項目がある……。
そうなんだ。そのリストの項目、勝手に増えるんだ……。
next chapter:ユグドラシルさんごめんなさいリスト2
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