第2話

 キャスバル様は、とある女賢者を愛していると言うのです。

 この世界でも有数の賢者なのだそうです。

 有名であると同時に、表向きの社会的な地位も高いです。

 ですが、彼女は平民なのです。

 貴族ではないのです。


 男ならば士族の騎士位や准男爵位は与えられるでしょうが、貴族位は絶対に与えられません。

 まして女の彼女には、士族位さえも与えられません。

 さらに言えば、公爵家の妻は公爵家の上下一つまでから選ばれます。

 王家から侯爵家までです。


 ここでもし、キャスバル様が王家から妻を迎えていたら、平民の女賢者、賢女を愛人にすることなどできなかったでしょう。

 王女本人と実家の王家に気を使う必要があるからです。

 王女や王家が目障りだと、賢女に刺客を放つ可能性があるからです。


 ですが私なら、格下のカーゾン侯爵家なら、そんな心配も配慮も不要です。

 私やカーゾン侯爵家の方が、気を使わなければいけない立場なのです。

 父などは私がどのような仕打ちを受けようとも、私が生んだ子供がコーンウォリス公爵を継げるのなら、小躍りして喜ぶでしょう。


 私にもその気持ちは理解できます。

 侯爵家令嬢としては理解できます。

 ですが女としては許せません!

 絶対に許せないのです!


 跡継ぎの子供を産んだ後でなら、互いに愛人を作っても許されるのが貴族です。

 お腹にいる子が男の子なら、あとは自由にさせてもらえるかもしれません。

 いえ、コーンウォリス公爵家ほどの名門なら、予備も含めて二人は男の子を求める事でしょう。


 普通の貴族令嬢なら、自分の子供がコーンウォリス公爵家を継げるのなら、どれほど冷たい仕打ちをされ、プライドをズタズタにされても耐えるでしょう。

 むしろそんな相手を見返すためにも、自分に血を分けた子供を跡継ぎにしたいと思うでしょう。

 

 ですが、私は違います。

 私は……キャスバル様を心から愛していたのです。

 愛していたからこそ、今その想いは増悪にかわってしまっています。

 自分の子供をコーンウォリス公爵家の跡継ぎになどしたくありません。

 あのような冷血漢に育てたくないのです。


 私がこの手で愛情をそそぎ、慈愛と良識を備えた子供に育てたいのです。

 それにはコーンウォリス公爵家に残るわけにはいきません。

 生まれた子供を連れて逃げるしかありません。

 自分の孫をコーンウォリス公爵家の当主にしたい父上を頼る事もできません。

 キャスバル様はもちろん、コーンウォリス公爵家も実家も出し抜いて、子供を連れて逃げだす方法を探し出さなければいけません!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る