Scene12 -2-

 ここはA国の超機密施設エリア132の地下研究所である。これまでに地球上で発見され回収されてきた未知のモノが集められ研究がおこなわれている場所。その大半は解析すらできずA国のために有効的に利用された物はほとんどない。その理由はそれを解析し利用する技術が足りないという単純なことだった。


 そんな中で同じ世代の人類が造り出した巨大人型戦闘兵器の接収に成功したことが、A国の技術を飛躍的に向上させることになる。なぜなら、A国が持つ古代のオーパーツや未知の技術と現代技術を繋ぐ中間的技術レベルを手に入れたからに他ならない。その技術の飛躍の生贄となる者が、このエリア132の地下深くの施設で目覚めた。




『ここはどこだ…、何も見えない』


 多大な負荷を受けて損傷したシステムを修復するために休止状態になっていたガンバトラーのAIがようやく再起動した。


 周りからは小さいながら人の声や機材の音が聞こえる。反響音から計算すると機密性が高く、かなり広いスペースであるとことがわかった。それらを含め、現状に至った経緯をメモリーに記憶されているログをさかのぼって確認し予測する。


『A国に接収されて拘束された可能性大』


 GOTの情報統制に関する項目に他国の捕縛に注意といった事項がある。その中に機密保持のための最大の防衛行動として自爆システムも搭載している。しかし、それをおこなう場合の条件に人間を巻き込んではならないという事項が上位にあるため、現状で使用するという選択はない。最小規模で言えばAIの破壊であった自己保存も、上位に設定されている。


「俺は対機械虫防衛組織【Guard of Terrestrial(地球防衛隊)】G.O.T(ゴット) の起動重機部隊隊長代理ガンバトラーである。今すぐ拘束を解除し、GOT基地との連絡をさせてもらいた。俺は貴国に対して害をなす者ではない」


 この訴えに対してすぐさま返答がなされた。


「君は我が国に無断で入国し、あらには警告を無視して機密エリアにも侵入、あまつさえ戦闘行為をおこなうなど、我が国にとって脅威となる行動を示した。それを諜報、破壊行為とみなし、君の記録を探らせてもらう」


 酷く黒い感情がこもった声で伝えられた言葉のあとに、より低く冷たい感情で言葉を付け足された。


「それから、君の所属する組織が我が国に及ぼした被害の代償は、君に払ってもらうことになる」


 その言葉を聞いてガンバトラーのAIに今までにない大きなノイズが幾度も走った。そのあとすぐにAIに対して外部からのアクセスがおこなわれた。プロテクトによって幾度もブロックされるが、大きな負荷が彼のAIに波のように押し寄せる。しばらくそのアクセスに抗っていると今度は体の各所から『痛み』というデータが流れ込み、さらにAIの負荷を増大させた。


 すでに破損の大きい場所から外部装甲は取り払われ、分解作業は進んでおり、手に負えない部分に関しては強行的に破壊する解体がなされ始めたのだ。


「うっ、がぁぁぁぁっ」


 機体の全身に張り巡らせた情報通信繊維Tスレッド。バルセイバーの疑似神経の元となった物だ。全ては機動重機の頭脳であるAIにつながっているため、四肢の損傷の情報などもこのTスレッドを通って伝えられる。


「やめろ、俺のAIへの侵入は禁止されている。俺はGOTの機動部隊隊員だ。世界の人々を機械虫から守る使命がある。この行為はその行動の妨げになるものだ。即刻中止せよ」


 その叫びを伴う言葉は届くことなく作業は進められていく。


『なぜだ、この者たちはなぜこのようなことをする? この行為は機械虫側に優位に働くことではないのか? 俺が戦闘不能になれば救える人々が減ってしまうのではないのか?』


 この自問に対して声ではない返答がなされる。


『君がその身を捧げる献身的な行為によって我が国は機械虫を殲滅しうる大きな力を得ることができる。君はA国軍事科学技術のための生贄なのだ』


 再びAIにノイズが走る。


「GOT本部への連絡を要求する」


 AIへの侵入に抗い解体される痛みにさらされたガンバトラーは、AI基幹部とメモリーに深く深く苦痛と恐怖、そして機動重機部隊隊員にあってはならない黒い感情が刻まれることになる。


 数十分間の抵抗の末に激しいノイズによってプロテクトは破壊され、ついにAIは無防備になった。


『ライト……ゼイン……、俺が今までやってきたことは……』


 機体の大半は分解、解体され、物理的にも精神的にも抵抗力を失ったガンバトラーはそれから数週間の間は分析と実験の材料となる。


 一時は世界の守護者として敬われ戦ってきた対機械虫防衛機動重機ガンバトラーは、その誇りも砕かれAIをシャットダウンした。

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