Scene8 -8-

  大型機械虫が産み落としたタマゴを担いで逃げていく機械虫を追撃に向かったイカロスだったが、そのタマゴが膨大なエネルギーを蓄えているため迂闊に手を出せずにいた。もし破壊してしまった場合に機械虫に迫る同盟軍もろとも街が吹き飛びかねない。


  そうとは知らず、予測もできず、この国の軍とそれに助力する同盟軍は遠慮なく砲撃開始していた。

  万が一を考えて高度を上げて様子を見ているガーディアンズだったが実質イカロスの戦闘力ではA級は当然としてB級すら倒すことは難しい。やはりレオンたちを支援して大型機械虫を倒してからの方がいいだろうという答えにたどり着くが、そのレオンたちの戦いは思ってもいない形で決着してしまった。


  「S研究施設で大規模な爆発を確認」


  美紀が心配げな声で情報を伝えた。


  博士はすぐにガイファルド二体のステータスを確認する。


  「大丈夫、ちゃんと生きている。だが大ダメージだな、こりゃぁ」


  ガイファルドたちは爆発によって生体装甲の中でも柔軟な最外装被膜は焼けただれ、硬度装甲部も大半が損傷していた。


  「機械虫は完全に消滅しました」


  その機械虫のコアを破壊したレオンの右腕も完全に失われ、レオンとノエルは重なって倒れたまま動かない。


  「コアの爆発の直前にノエルがフォースフィールドを前面に圧縮展開して持ちこたえたみたいだ」


  この状況にどうするか悩んでいると基地の司令室に居るアーロンから通信が入った。


  「我妻君、繋いで」


  「はい」


  日奈子は映像をモニターに出した。


  「こちらも状況は確認した。セイバーだけでなくノエルとレオンも戦闘不能になってしまったか」


  「ここは彼らを迎えに行って帰還した方がいいだろう」


  皆が首を縦に振ろとしたとき、アーロンはそれを否定した。


  「いや、君たちはそのまま逃走する機械虫を追ってくれ。このまま行けばあと二時間もしないうちに奴らは逃げきってしまうだろう」


  「逃げるってどこにだ?」


  剛田が問い返すとアーロンはすぐに答えた。


  「恐らく海中だ」


  「メカが海中?」


  機械虫の謎のひとつがどこから現れるのかということだった。高エネルギーを発するわけでもなく、航空レーダーにも映らない。ガーディアンズのセンサーであればコアの波動を察知することは可能であるが、有効範囲は極めて狭い。日本という島国の地下深くからではそれを探知するのは不可能だった。

  機械が海中に入るなど常識で考えればあり得ない。そんなことをすれば電気系はショートし、金属は錆びてしまう。


  「陸を進めば海に行き着くは道理。それまでに秘密の隠れ家にでも入るかもなんてことを考えてないわけではなかったけど、あの巨体を隠せる場所なんてないしね」


  「予想でしかないが、海に着くまでになんとかしなければならない!」


  アーロンの覇気ある言葉を受けて隊員は迷いを消した。


  「機械虫を倒すことが目的ではない。運んでいる物体を奪うことが目的だ」


  「しかしよ、レオンとノエルはどうするんだ。このまま放置しておいたら」


  そこまで言って言葉を切った。


  「酷い損傷を負っているがステータスを見る限り急を要する状態ではない。同盟軍が群がるだろうが、その時間でどうこうできるはしない」


  「イカロスに続いてガイファルドをじっくり観察されるは痛いけど、今後のことを考えればあのタマゴを持っていかれる方がリスクが高いってわけだね」


  「そういうことだ」


  「艦長」


  博士が艦長に声をかける。


  「了解だ。高度を下げろ、これより機械虫の攻撃に入る。足止めしつつ同盟軍の支援し、あのタマゴを奪取する」


  「アイ・サー」


  「危険だがなるだけ奴らに近づいてくれ。あのタマゴの分析もおこなってみる。八島君準備よろしく」


  「機関、出力六十パーセントで安定。インパルスドライブ残りの二機も稼動させます」


  巡航していたイカロスが戦闘体制に移行する。


  「誘導弾および航空爆雷装填、発射管開きます。艦首バルカン砲スタンバイ」


  「よし行くぞ、超速強襲揚陸艦イカロスの力見せてやろうぜ!」


「おう!」


  剛田の掛け声に乗って、隊員たちは一斉に声を上げた。

  上空一四〇〇メートルから急降下するイカロスは機械虫へと迫っていく。


  「機械虫の前方一五〇メートルに爆雷投下」


  前方に爆雷が落とされたことにより速度を落として迂回を始める機械虫。


  「先頭を走る中型を狙う。誘導弾一ダース発射!」


  左右六門ずつの誘導弾が計十二発が発射された。奇麗に並んで飛行する誘導弾は機械虫に次々と命中。最初の三発こそ阻まれるが、全弾命中する頃には体の四割が吹き飛びコアが露出していた。


  「思い知ったか! 俺が開発した物はそこらの誘導弾の4割増しの威力だぜ」


  剥き出しになったコアをバルカン砲で撃ち抜いて完全に破壊。一匹目に続き二匹目も同じように破壊に成功し一度上昇して旋回する。

  C級とD級は直撃さえすればイカロスの火力でもどうにか倒せるのだが、B級とA級はそうはいかない。A級はあのライゼインをも倒したのだ。イカロスはガイファルドを最速で輸送することを目的に製造されたモノであるため、その当時は居なかったA級という機械虫に対抗する手段までは用意されていなかった。


  「二時の方向で同盟軍の地上部隊が機械虫の進行方向に展開しています。あと六十秒で対象と接触」


  「援護する、航空爆雷照準」


  「照準セット」


  「発射っ!」


  上甲板の発射管から射出された爆雷が同盟軍に迫る機械虫に降り注ぐ。複数ある脚が数本もげてなお、前へ前へと進んで行く機械虫に、前方に並ぶ地上部隊が一斉に砲撃を始めると、その集中砲火を受けた機械中は徐々に速度を落とし部隊までの距離40メートル地点で横転して動きを止めた。


  順調に中型の機械虫を破壊していくイカロスは、同盟軍に迫る第四の標的へ誘導弾を発射した。数百メートル先で誘導弾が着弾したと同時に、イカロスの艦底部に高エネルギー弾が直撃し、内部機関が誘爆して火を噴いた。


  「左舷インパルスドライブへの動力伝達停止」


  「姿勢制御スラスター全開。右舷のインパルスドライブの出力落とせ!」


  ギリギリの推力で墜落を防ぎつつ艦の安定を図る指示が飛ぶ。艦の不調により速度を落として飛行していたことと低空だったことで、A級機械虫の放ったエネルギー弾を受けてしまったのだった。


  「このままタダで落ちてやるものか。誘導弾全弾発射。タマゴには当てるなよ」


  「誘導弾全弾発射します」


  急激に高度を落とすイカロスから発射された誘導弾は巨大なタマゴを抱える機械虫の一体とその足元周辺に着弾する。


  機械虫を破壊するに至らなかったが、一時的にその進行を止めることはできた。


  「総員、衝撃に備えろ!」


  ヤマト艦長の声に隊員たちは更に強く体を固定する。


  「逆噴射、最大出力」


  操縦士のジョーがタイミングと噴射方向を調整しつつ逆噴射をすることで地上への接触衝撃はかなり抑えることができ、慣性制御の力もあって乗組員は大事に至らずにすんだのだった。


  「各機関チェック。PRL(ピラー・ロボット・レイバー)

に消火活動を!」


  間髪入れず艦長が指示を出す。


  「動力炉損傷無し。インパルスドライブへの再接続まで140秒」


  「誘導弾、爆雷、それに……ダメです。左舷の兵装全て使用不能」


  「電源系バイパス接続の経路を検索中」


  「インパルスドライブ5番機の動力伝達部で誘爆発生」


  「エネルギー接続カット、隔壁閉鎖」


  エネルギー弾を受けてコントロールを失ったイカロスだったが、なんとか胴体着陸に成功して大惨事は免れた。しかし、飛行システムと左舷の兵装に問題が発生し、それを復旧するために緊急対応を進めていた。

  そんなイカロスに機械虫は意識を向ける。

  機械虫たちは現在、ガーディアンズがタマゴと呼称するエネルギー保有機構の集積体を運ぶことが最優先事項であった。その行動を阻害しうる者に対してのみ攻撃をする行動パターンが実行されており、イカロスがそれを阻害しうる者とみなし、排除行動に出始めたのだった。

  タマゴを運ぶ機械虫群本隊の4匹は誘導弾を受けて行動遅延状態であったが、残りの2匹が進行方向を変えてイカロスい向かってくる。

  剛田は通信席に駆け寄りインカムを掴む。


  「おい、レオン、ノエル、聞こえるか?! 起きろ!」


  だが、二体のガイファルドからの返答はない。


  「レビテーションシステムの復旧最優先。補助スラスター出力全開だ。艦を浮かせろ!」


  「レビテーションシステム再起動まで170秒、間に合いません」


  「攻撃準備、誘導弾撃てるか?」


  「射角が取れません」


  艦が前のめりになっているため、誘導弾は使用不能だった。


  「上甲板マシンキャノンは?」


  「問題ありません」


  「撃ちまくれ!」


  「航空爆雷電源確保、次弾装填開始しました」


  「完了次第発射だ。奴らを近づけさせるな」


  三時方向の機械虫はその攻撃によって接近を阻めていたが、後方から接近する機械虫はその攻撃を物ともしない。コアの波動パターンからA級に該当する機械虫はイカロスとの距離をぐんぐん縮めてきていた。


  「くっ、総員脱出艇へ」


  艦長のヤマトは苦渋の決断を下す。

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