Scene8 -2-
【新型兵装のジェット・スタイルについて】
ジェットパック:ジェット・スタイルの装備の固有の名称
ジェット・スタイル:ガイファルドがジェットパックを装着した時のガイファルド込みの名称
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空を飛ぶ蜂型の機械虫に翻弄されていたガイファルドたちだが、レオンがS国に向かってから十五分が経過した頃、ようやくその動きや攻撃にも慣れ始めてきていた。連射されるエアロバースト、隙を見て繰り出される鉤爪による一撃離脱、そして、頭部の角から放たれる高出力の電撃。これら掻い潜りながら反撃を始めていた。
高火力の遠距離攻撃型アマードヘビーアームズ・スタイルを破壊されたが、高重量で機動力と運動性を奪っていたそのオプション・スタイルから解放されたことでセイバーは縦横無尽に駆け回り、逆に機械虫を翻弄する。
その隙を突いてノエルが狙撃し、動きの鈍ったところでセイバーもハンドガンを撃つのだが、どうにも火力が不足している。
「ダメか。この距離と奴の装甲強度、なにより力場が強すぎてハンドガンじゃ通らない」
既に三度、セイバーとノエルが一度ずつフルバーストを打ち込んでいたが、鉤爪のひとつが損傷しただけで、大きなダメージを与えることはできていなかった。
「フルバーストはあと一、ニ発。ノエルの一発に懸けるべきだな」
ノエルのフォースの特性により弾丸やエネルギー弾の強化がセイバーに比べて大きい。至近距離から撃てば機械虫を倒すことができるかもしれないと考えていた。
セイバーとノエルが蜂型機械虫との戦闘に四苦八苦している頃、剛田と博士はイカロスの後部格納庫でジェット・スタイルのジェットパックの調整に四苦八苦していた。
「この間のテストのデータに合わせてプログラムの調整する」
セイバーが自己生成した高圧エアロジェットスラスターは一瞬の爆発力の噴射のためスラスタージャンプとしての機能しかない。現在はセイバー用のプログラムがインストールされ、他のガイファルドたちと同じプラズマインパルスドライブに変更された。こちらも低出力のため飛行することはできないが、高圧エアロジェットに比べれば滞空時間が長く滑空することは可能である。
ジェット・スタイルはこのプラズマインパルスドライブを四機搭載し、高圧エアロジェットによる姿勢制御をすることで空中での運動性を重視して開発されたオプション・スタイルである。四機のプラズマインパルスドライブとは言っても自重もプラスされることを考えて瞬間最大出力を優先した加速仕様で、巡航飛行速度はそれほどでもない。
「ガイファルドと連動した出力調整が終わってないからかなりピーキーだが、もうそうは言ってられん。セイバー用ドッキング機構の換装完了。博士、そっちは?」
「うーん、あと……四分」
「オーケー! よし、おめぇら最終チェック急げ!」
数人のメカニッククルーと数台の作業用AIロボットに激を飛ばし、ジェット・スタイルの準備は整いつつあった。
一報戦闘中のセイバーたちは、イカロスからジェット・スタイルの準備が進められていることを受け、その戦略に頭を回転されていた。
『アレってかなりピーキーなんだよな。おまけに意思伝達のタイムラグが大きくて姿勢制御が難しいし』
『でも、どちらかが飛べるだけでも戦況は変わる』
ダブルハートを使った短距離思念送信による通信で意思伝達を交わしたふたり。これは先日やっとできるようになった技術である。
「せやっ」
掛け声とともに踏み切ったセイバーはノエルを攻撃するために降下してきた蜂型機械虫に飛び掛かった。それを見た機械虫は蜂同様に急激な進行方向変更をおこないセイバーの接近を避ける。
「あっ」
それを見て思わず声をあげたのはノエルだった。
機械虫の動きに対してセイバーは腰部に生成されているフレキシブル・スラスター・アーマーを噴射して即座に追従したのだ。
しかしながら、振りかぶった拳を打ち出すまでもなく機械虫は攻撃レンジから遠ざかってしまう。
『動きに対応した。集中力も増している』
複雑で動きを読むことが困難なその動きに対してセイバーは追従した。加速力で劣るため追撃には至らなかったが、この戦いの中でセイバーは変化、成長の兆しがあった。
「ノエル、そろそろ来るぞ」
着地をしたセイバーが上空を見上げたままノエルに注意を促すと、機械虫の角に青白い光が灯った。
同時に二体のガイファルドは各々の方角に跳躍する。
明暗を反転させる閃光が走り空気が爆発する音が轟くと、ノエルの足元に電撃が着電して土砂が弾けた。
イカロスからの通信で電撃のチャージ時間は最短で二分十五秒前後、有効範囲は百メートルといったところだと告げられる。実際はもっと遠くまで届くのだが、狙った標的に着電させるにはそのくらいの距離であるというのがイカロスから伝えられた情報だった。そして、その通り百メートルを超えるときは離れた場所に落ちていた。これはセイバーが三発食らっている間に得た貴重な情報であるが、最初の一発と合わせて計四発の電撃を受けたセイバーはダメージが蓄積している。
「よし、そろそろ反撃と行こうぜ」
「そうね、でないとあなたが丸焼けになりそう」
なって欲しくない結果をノエルが言い放ったところでイカロスから通信士のテンションの高い声が届いた。
「ジェットパックの射出準備完了です。次の電撃攻撃直前に射出するので電撃の使用後即座にドッキングしてください。装着者はセイバー」
「え? 空中で装着するのか?」
訓練でもやったことない空中でのドッキングを戦闘中に、それも飛行型機械虫相手には無謀である。
「違います。装着は地上でおこないます。セイバーは立っていてください。ジェットパックの操作はこちらでします」
「それより一度セイバーをイカロスに回収してから装着する方がいい。少しならひとりでも持ちこたえられる」
ノエルの言う通りだとセイバーも同意したのだが、それが不可能だという答えが返ってきた。
「先ほどの戦闘で後部格納庫付近の電気系が全てダウンしてしまいました。なのでガイファルドほどの大きさの出入りができません。小型装備の射出口を破壊して、そこからジェットパックを輩出します」
低空飛行によってセイバーとノエルの攻撃射線軸に入ってブラインドを掛ける作戦を敢行した際に電撃を受けてしまったことが原因だった。空中に飛び上がったセイバーとノエルの援護のときもエアロバレットの攻撃を受けてしまい、接近しすぎて機械虫に取り付かれしまうという事態もあったが、それを利用してフルバーストを打ち込むに至ったわけでもある。
だが、その代償はそれなり大きく、今その代償を払っているというわけなのだ。
「電撃のチャージタイム残り一分五十秒です」
ガイファルドとイカロス艦内に伝えられた内容に焦りを感じつつも、ノエルは淡々と、セイバーとイカロス艦内の隊員たちはハイテンションにそれぞれの仕事をこなしていた。
「野郎どうも慌てず騒がず死ぬ気で急げ!」
剛田の声が尻を叩き、艦内の電力以外で動く機材や作業車はたまた作業ロボットを総動員して、ジェットパックとそれを固定した作業台をこの狭い整備室から押しだしている。
「チャージタイム残り四十五秒」
この残りタイムはこの戦闘の中で電撃が最短で使用させた間隔を元にカウントダウンしているが、あくまで目安ではある。今回電撃を使用した次のチャージが完了するまでに決着をつけるというのが最良だった。
「おら、気合入れろ!」
剛田と四人の整備隊員はパワードスーツを着て懸命に押しており、作業台はレールの上を少しずつ移動している。
セイバーはすでに四発の電撃を受けているため、のんびりはしていられない。もしセイバーが戦闘不能になればこのジェットパックは無駄になってしまうのだ。ノエルが被弾した場合もバリアブルガンが故障してしまえばフルバーストが使えなくなり、決定打を失ってしまう。既にセイバーが使ってた物は電撃を受けて爆散してしまっので、今使っているのはレオンに用意されたハンドガンだ。
「チャージタイム残り十秒」
緊張で強張った声が艦内に響いた。
その声に続いて牽引車で引っ張っていた博士が叫ぶ。
「拘束機具強制パージ」
整備室から八割方移動した作業台からジェットパックが解き放たれると同時に、アイドリング状態だったスラスターがホバー状態に入り脱落しかけた本体を浮かせた。
「ぬおっ」
その圧力に隊員や作業ロボットは押されてひっくり返り、次の噴射で壁まで吹き飛んでしまう。
「ジェットパック発進だ!」
ひっくり返りながら剛田は叫び、ジェットパックは飛び立た。
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