第292話 2度の人生で最高の日
昨日は、晩餐会の疲れがぶっ飛ぶ程に最高の夜であった。
いや、別に何をしたって言う程の事は無いのだが、お風呂から上がって、髪の毛を乾かしてあげて、俺の為に頑張ってくれたアケミさんの疲れを癒やすべく、マッサージをしただけなんだけど、聖属性の魔力を指に集めてマッサージした所為か、アケミさんの口から、「ウミュー」とか「キャハー」とか普段聞けない様な声が色々と漏れて来た。
まあ、それだけっす。
でも、何だろうね? こうも俺を信頼し、身を委ねてくれる人が居るって言うのが、何か新鮮で、むず痒い様な何とも言えない幸福感に包まれたのだった。
そして、30分ぐらいやった後、寝ようと思ったら、
「フフフ、素敵なマッサージでした。 ありがとうございます。 じゃあ、次は私の番ですね?」
と微笑みながら、俺をベッドに押し倒し、アケミさんが俺のお尻の上に跨がって、クイックイッと指で背中を押してマッサージをしてくれたのである。
それが、もう最高で、思わず涙ぐんでしまいそうなぐらい、嬉しかったんだよね。
お陰様で、本来なら、今日の本番でなかなか寝付けないところだったのに、スンナリと眠れたのだった。
そして、今朝はスッキリとした気分で目覚めたという訳だ。
そして、愛おしい我が君は、俺の横にピトリと引っ付いて可愛い寝息を立てている。
いよいよ、今日かぁ~。 思い起こせばあれ(花園で目覚めて)から色々あったなぁ。
俺は隣で眠るアケミさんの髪の毛を、唯一感覚のある左手で撫でた。
「フミュー、ケンジしゃ~ん。 ウフフフ。」
何か良い夢を見ているのか、アケミさんがニマニマしながら寝言を言っていた。
俺は、レビテーションで、ジワリとアケミさんの頭を支えつつ、その下敷きになっていた感覚の無い右手を抜きつつ、素早くライト・ヒールを掛けたのだった。
暫くすると、急に体温を感じ無くなったのか、モゾモゾとアケミさんが動き始め、ウミャー?と小さく鳴き声?を上げて目を開けた。
「あっ! エヘヘ。 おはようございましゅ。」
「おはよう。 今日は色々立て込んでるから、そろそろ起きて朝食にしようか。」
「はい! そうでした、今日は……ウフフ。」
アケミさんが少し照れながら微笑むのだった。
朝食を終えた俺達は、スタッフに急かされて、別々の控え室へと連れ去られてしまう。
やっとアケミさんと離れたのを確認した上で、俺がステファン君に首尾の程を尋ねると、ステファン君がニマっと笑い、親指を立てて来た。
「そうか、良かった、思い立ったのが、3日前だったから、ちょっと心配してたんだけど、良かったよ。 で、衣装はそれなりにちゃんと用意出来た?」
「ご安心を。 そこら辺は抜かり無く。」
「うん、だろうね。 いやぁ、ステファン君、本当に頼りになるよね。 ありがとう。」
そう、今日と言う日に、俺はアケミさんには内緒で3つの仕込みをしている。
1つは、ステファン君の要望で、神殿の中でも式の中継。
これはマギカメの際のディスプレイを大型化して、街の数カ所に映像を流す様にした。
で、もう1つは……
コンコン とドアをノックする音と共に現れた、ライゾウさんである。
「あ、ライゾウさん!! この度は急なお願いを聞いて頂いて、誠にありがとうございます!」
普段の板前姿からは想像もつかない、パリッとした黒のタキシード風のスーツを着たライゾウさんが、ぎごちない動きで部屋に入って来た。
「おぅ!? ケンジ君よー、こんな華々しい場所に、ワシなんか来て良かったのか? 何か場違い感がバリバリなんじゃが?」
「そ、そんな事ないですよ! ライゾウさんは、ある意味、アケミさんの親類みたいな者じゃないですか。 本来ならご両親にお願いしたいところですが、それが叶わぬのであれば、ライゾウさんしか適任が居ないですから。
お願いしますよぉ~。」
「そ、そうか? ワシで良いのか? まあ、確かに嬢ちゃんの事は、半分娘の様には思っておるが。」
「でしょ? じゃあ、打ち合わせ通りにお願いしますね?」
「おぅ! 任せろ! 多分……」
俺が思ったのは、やっぱり、花嫁一人ではなく、親父さんから受け取りたかったんだよね。 「おう、任せたぞ!」って感じで。
だから、無理言って、ライゾウさんに別荘のゲートを使って来て貰ったんだよね。
さあ、そろそろ移動の時間である。
俺は一足先にステファン君とライゾウさん、あとはお付きのスタッフ数名と、神殿へゲートで移動する。
え? リハーサルと違うって? これはサプライズの為に当初から仕組んであったのである。
◇◇◇◇
神殿の新郎用控え室でスタンバイしていると、新婦が神殿に到着したとの知らせが入った。
「じゃあ、ライゾウさん、宜しくお願い致しますね。 向こうにはアニーさんと云う女の子が新婦側を仕切ってますので。
「了解じゃ!」
意気揚々とライゾウさんが部屋を出て行ってから暫くすると、アケミさんの驚く声が微かに聞こえてきた。
「えー!? ライゾウおじさん!! わー! えー? 何で? わー! おじさん! 私やっとケンジさんのお嫁さんになるの!!」
と……、嬉しい悲鳴の様だったので、ホッと胸を撫で下ろしたのであった。
既に、来賓の皆さんは神殿に到着し、スタンバイOKとの連絡が入った。
「さ、じゃあケンジ様、いよいよ本番です! バリっとキメましょう!」
ステファン君に言われて、俺も両手で頬を挟み込む様に、ピシャリと叩き、気合いを入れた。
神殿の祭壇前には、司祭長と、神殿本部から朝ギリギリに間に合った総司祭長(ややお疲れ気味)が、祭壇の前に立って居る。
俺は、ステファン君からシスターにバトンタッチされて、祭壇の前まで先導される。
ガヤガヤしていた神殿の内部がシーンと静まり返ると、入り口の扉が開き、ライゾウさんに手を曳かれる、純白のウエディングドレスに身を包んだアケミさんが現れた。
「「「「「「「おぉーー」」」」」」」」
客席からは、男性陣の響めきと、女性陣のウットとしたため息が聞こえる。
もうね、俺は今日まで見せて貰えて無かったんだけど、スッゴい綺麗だった。
「………」
思わず見惚れて仕舞う程に。
ユックリとライゾウさんとアケミさんがこちらにやって来て、
「ケンジ君、うちのお嬢を頼むな!」
「ええ、お任せ下さい!」
と言いながら、アケミさんの手を受け取った。
「綺麗だよ。 アケミさん。」
「(ありかがとう)」
「では、これより、エーリュシオン王国初代国王、ケンジ・スギタ陛下とアケミ嬢の婚礼の儀を執り行います。」
と、総司祭長が声高らかに宣言したのであった。
この世界の婚礼の儀と云うのは、特に決まりが無いらしく、司祭様が女神様との間を取り持ち、お互いに誓い合う感じで終わりなんだよね。
よくある、『病める時も~』ってのは無いらしい。
「私、ケンジ・スギタは、アケミ嬢を妻とし、一生愛し続ける事を女神エスターシャ様に誓います!」
「私、アケミは、ケンジさんを夫とし、敬い、愛し続け、共に温かい家庭を築く事を女神エスターシャ様に誓います!」
「女神エスターシャ様、この2人に祝福を!」
と天を仰ぎ、総司祭長が言った――――
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