第229話 釣り針に雑魚が引っ掛かった

翌オープン初日、朝から門の前には凄い人の列が出来ていた。

入場者数が多い場合の対処として、入場者数制限を掛ける事にしている。

その対応は警備班が行う。


このモールのトータル責任者、所謂『支配人』は狐族の獣人エラルドさん50歳にお願いしている。

彼は商才があり、人当たりも良く、更に腹芸が出来るタイプなので、なかなかに良いチョイスだったと思って居る。


警備主任はオープン1ヵ月ぐらいはシャドーズが肩代わりするが、それ以降はライオネルさん29歳にお願いする事になる。

彼は熊族の獣人で、頭も切れるし、非常に頑丈である。


警備担当も半分ぐらいは獣人が混じる感じである。


さて、各店舗であるが、調理時間短縮の為、俺の作った空間倉庫をフルに活用し、待ち時間をほぼ無しにしている。

勿論、拠点側に置いた大型厨房では料理人達が日々フルに料理を作っているのである。


各店舗には勿論料理人もスタンバっているが、寿司屋の板さん以外は、量産以外のメニューを頼まれた際に作る感じの予定だったが、その量産品以外のメニューもかなりの頻度で注文が入り、フル回転状態である。

とにかく、皆さん絶叫したり、黙ったままただひたすらに黙々とお代わりしたりと、凄い勢いで注文が入って行く。


目まぐるしい1日が終わり、集計した結果、1日の売り上げとしては、驚きの数字を叩き出していた。

明日からは拠点側に置いた大型厨房でも増産するメニューを若干増やしたり色々調節する事になった。

3階のお寿司屋さんと高級レストランは比較的に客の回転は遅い設定だったのだが、しゃぶしゃぶ等では肉のお代わりの注文や、ハンバーグ等、その他のサイドメニューの注文で大忙しだったらしい。

お寿司屋さんも同じで、マッタリカウンターで食べる感じではなく、矢継ぎ早に注文が入って大変だった様である。 板さんを増員しないとヤバいかもしれない。

今回お寿司屋さんを作るに際し、板さん経験者やお寿司屋さん経験者を態々マーラックのウェンディー商会やその他の奴隷商から掻き集めたのだが、もう一踏ん張りする必要があるかも知れない。

本当なら、ライゾウさんに鍛えて欲しいのだが、それは筋が違うしなぁ。 なかなか難しいところである。


オープン3日ぐらいで落ち着くかと思ったフードモールだが、客足は減るどころか、増える一方であった。


コナンさんの詠みでは、遅くとも1週間前後で奴らが釣れるという事だが、その前に従業員達が潰れ無いように最新のケアをして行かねば!

人員の増強判断はエラルドさんに任せるとして、必要な人員の補充は拠点以外からの場合、主に俺の仕事としている。


という訳で、本日もマーラックに赴き、再度他の奴隷商を廻り、板さん4名を確保して拠点に送ったのだった。


「ケンジさん、久々にライゾウさんのお寿司が食べたいです!」

とアケミさんがお強請りして来た。


「あ、サチもジイジイのおしゅし食べたい!」

ああ、可愛い。本当に溜まらんなぁ~。

と俺が微笑んでいると、コナンさんが便乗して来た。


「あ、ぼ、僕も食べたいんだな! ジイジイのお寿司!!」

わぁ~、同じ台詞なのに、ただの食いしん坊にしか見えない。全然可愛く無いぞー!


という事で、コルトガさんとサスケさんを含む全員でライゾウさんの雷寿司へやって来た。


「へぃ、らっしゃい!」


「こんちは! また食べに来ました!大人数だけど良いですか?」


「お! ケンジ君とアケミ嬢、リク坊とサチ嬢ちゃん、久々だな。 そっちの3人はお初だね?」

と元気なライゾウさんが笑顔で迎えてくれた。



「やっぱり、ライゾウさんのお寿司は別格だねぇ。 ちょっと色々あって、お寿司屋さんを王都で開く事になったんだけど、このお寿司は真似が出来ないよ。 まあ当たり前なんだけどね。 やっぱ最高だよね。」


「そうですね。流石がライゾウおじさん。 悪いけど、試食で半端にお寿司を食べちゃったから、余計にこの味が恋しくなっちゃって。」

とアケミさんも苦笑いしている。


「そうなんだよね、半端に食べると余計に本物が食べたくなるんだよね。」


「ダハハ、嬉しい事を言ってくれるじゃねぇ~か。 まあそうだな。 研究熱心な板前なら、独自に味を昇華させて行くんじゃねぇか?

まあ、そこら辺は気長に行くしかねぇだろ。 頑張れよ! オーナー!!」

とライゾウさんがアドバイスをくれた。


最後に、

「ライゾウさん、うちの寿司職人達への激励の為に、本物のお寿司をお持ち帰りしたいんだけど、持ち帰り分、お願いして良いですかね?」

と申し訳無い気持ちになりつつお願いすると、ニッコリ笑って、


「おう! 最高の寿司を握ってやるぜ!」

とニカッと微笑んでくれたのだった。



そして持ち帰った寿司を食べた寿司職人達は、「「「「「「「「美味い!」」」」」」」」と絶賛していた。


「俺達も何とかこの寿司に近づける様に、頑張ろうぜ!」

と全員が気合いを入れていたのだった。


うむ、全員頑張れ! ライゾウさん曰く、一生修行だって言ってたからな。





そして、全員が日々の忙しさに慣れ始めた5日目、コナンさんの詠み通り、王都を駆け巡ったフードモールの噂に食い付いた奴の手下――シンセン組がやって来たのだった。


事前に見張っていたシャドーズからの連絡を受け、フードモールの管理事務所で待機していた俺達は、直ぐにフル武装で門の所まで降りて行くのであった。


コナンさんの詠み通り、門の所で入場制限の列にも並ばずに横から入り込もうとして、警備担当のシャドーズの者にガッチリ止められているチンピラ3人。


「おいおい、おめーらよう、俺達を誰だと思ってやがる? 『シンセン組』一番隊の者だぞ? 命が惜しいならトットとそこをどけや!」

「舐めてると痛い目見ちゃうよ?」

「オラ! 責任者呼べや!」

と凄んでいるが、何だろう? 絵に描いた様な雑魚臭がしてて、まるで幼稚園のお遊戯会を見てる様な気分だ。 つまり、凄く微笑ましい風景である。


「あらあら、僕ちゃん達、どうちたのかな? 迷子でしゅか? ちゃんとお父さんとお母さんに言ってから一緒に来ないとダメでちゅよー?」

と煽ると、怒る怒る。


「だ! おめー舐めてるのか? 舐めてるよな? 俺達を怒らせたな? 何ガキ扱いしてやがる!!」

と。


「あー? 私がここのオーナーですが何か?

だって貴方方って、字が読めないのでしょ? それとも警備員が言った言葉が理解出来ませんでしたかね? こちらの立て札に書いてある様に、現在入場制限中なんですよ。

ルールを守らない方は、『何方』だろうと入場出来ないのです。 皆さんちゃんとルールに従ってお待ち頂いているのですよ。

子供扱いというか、幼児レベルでも理解出来るでしょ? それが判らない貴方方は、幼児以下という事になりますよ? 良いんですか? 看板背負っている身で泥を塗っても?」


俺が高らかに彼らを拒絶すると、激怒した3人が刀を抜いた。 刃物沙汰キターー!!


「賊ですね?強盗ですね? 皆さん、正当防衛の証人になって下さいね。 今から刃物を抜いた賊を退治しますので。」


と大声で宣言しつつ、3人をサービスでちょっと強めのスタンで一瞬の内に「バババッッシーン」と感電させて倒した。


「皆様ご協力ありがとうございました! お陰様で無事に盗賊を退治出来ました!!

皆様にはご不快な思いをさせてしまいまして申し訳ありません。 お詫びに割り引きチケットを配布させて頂きますね。」

というと「「「「「「「「わーーーー!」」」」」」」」と歓声が沸き上がった。


手回し良く既に衛兵を呼んでおり、丁度割り引きチケットを配り終わった頃に衛兵5名が到着した。


「おう、賊が入ったって? 何処だ?」


「ああ、ご苦労様です。私がここのオーナーのスギタ商会の会長やっております、ケンジと申します。

こちらが賊ですね。イキナリ訳の分からない事を口走りながら、刀を抜いて斬り掛かって来たので、倒しました。

ここにお待ちの皆さんが証人です。」

と後ろに並ぶ人達の方を見ると、


「そうだそうだ! そいつらが刀を振り回して斬り掛かっていたぞ!」

「とんでもない奴らだ。 ゴロツキかチンピラか知らないが、根絶やしにしろ!」

と彼方此方から援護の声が挙がる。


ナイスだぞ! 諸君!! 俺は心の中でガッツポーズを決める。


「こう言う輩は見せしめの為にもガッツリ厳罰に処して下さいね。

まあ、普通に考えて犯罪奴隷行きでしょうけど。

なんか、犯罪組織の名前を出して刃物出して脅して居ましたから、きっと有名な犯罪組織なんですね。

いやぁ~、イメルダ王国の王都ってこんな犯罪組織が闊歩しているんですね。親玉ごと一網打尽にして下さいね?」


怖い怖いと呟きながら念を押す俺。


「ああ、判った一網打尽にするべく激しい尋問を行う事を約束しよう!」

と胸を叩きながら安請け合いする衛兵のおじさん。 大丈夫かよ!?


「みんな! 聞いてくれ! この頼もしい衛兵さんが宣言してくれたぞ! 憎き盗賊団の一掃を! さあ、みんな衛兵の皆さんにエールを送ろうじゃないか! ご一緒に!

『盗賊団 シンセン組を一掃するぞー! 犯罪組織 シンセン組を一掃するぞー!』」

と俺が大声を張り上げると、

「「「「「「盗賊団 シンセン組を一掃するぞー! 犯罪組織 シンセン組を一掃するぞー!」」」」」」

「「「「「「「「盗賊団 シンセン組を一掃するぞー! 犯罪組織 シンセン組を一掃するぞー!」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「盗賊団 シンセン組を一掃するぞー! 犯罪組織 シンセン組を一掃するぞー!」」」」」」」」」」」


と何時しかシンセン組一掃コールが王都のメインストリートに木霊していたのだった。


そのコールを聞いて、衛兵達は、自分達が捕まえた奴らがシンセン組の奴らだと、その時初めて気が付いたのであった。

強めのスタンの影響で煤けてたから判らなかったらしい。(俺の思惑通りなんだけどね)


気の毒な衛兵のおじさんに心の中で手を合わせつつ、後ろを振り向くと、コナンさんが俺に向けて親指を立ててニマっとしていたのだった。

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