第208話 爺様達の悪癖と王都の物価

なんだかんだで、一向に話が進まない。

既にこの部屋に入って20分ぐらい経過しているが、なかなか本題に進まないのである。

うーん、段々と面倒になってきたなぁ。 どうしようか。 もうそろそろ帰っちゃおうか?

と考えていたタイミングで、コンコンとドアをノックしてさっきの受付嬢が物件の紙を何枚か持って来たのだった。


ああ、なるほど、物件探しの時間潰しだったの? と考えたがそれをぶち壊す様な事実を受付嬢がぶっちゃけて来た。


「ギルドマスター! もういい加減ちゃんとご希望されている対応をしないと、切れて帰られちゃいますよ? いい加減下手に時間を空けさせる悪癖を何とかして下さい!

我々スタッフの仕事が遅いと勘違いされちゃうじゃないですか!」

とプンプンしている。


それを聞いて、ガックリする俺。


「何て不誠実な商業ギルドなんだ…… ああ、もう良いっすわ。 俺王都に拠点持つの止めます。 これならイメルダの王都とか幾らでも俺にとって有益な所あるし。」

とボソッと俺が断りを入れると、真っ青になるミリガンさん。


「残念でした。折角話が決まればローグさんにもイメルダ料理を少し食べさせてあげようかと思ってましたが、縁が無かったようで」

とこのジジイ2人コンビに楔を打ってやった。 これぐらいの意趣返しは良いよね?


「な、な、なんと!? え? イメルダ料理!? おにぎり以外にもあったのか!?」

と思いっきり顔を青くするローグさん。


「フフフ、俺がお気に入りの食材を手に入れて無い訳が無いじゃないですか?」

とニヤリと悪い笑みを浮かべて見せると、ガーンって顔をしている。


「じゃあ、長居しちゃいましたけど、もうお会いする事も無いと思いますが、お達者で。」

とソファーを立つと、


「も、申し訳無い。ゆ、許してくれ。いや許してくだされ!! 何卒!」

と頭を下げるミリガンさん。

受付嬢は、「ほーらね? 言わんこっちゃない。」って言う冷ややかな目でミリガンさんとローグさんを見ている。

どうやら、この2人は良く連んで、こう言う事をやっているのだろうか? 古い仲みたいだしね。


そして何故か、俺の方をチラリと見てウインクしている。 判らんな? ん? 何かをさせたいのか? もっと押せという意味か?


「な、なあ、ケンジ殿、お主イメルダ料理の材料やレシピを知っておるのかの?」

とローグさんがワナワナと震えながら聞いて来た。


「ええ、俺にとっては故郷の味みたいなものですからね。 それに俺の所にはイメルダ出身者も居ますし。」

というと更にショックを受けていた。


「じゃあ、本日はこれにて。 受付嬢のお姉さんも折角物件探して貰ったみたいですが、申し訳ありませんでしたね。

もし、気が変わったら補助金を出してくれる冒険者ギルドなんかを当たってみますよ。」

というと、一瞬ニヤリと笑い、直ぐさま普通の表情で、


「あらあら、そうですか。 ええ確かに冒険者ですと冒険者ギルドなら補助金出ますもんね。 そうですよねぇ。」

と態と煽りをいれている。 なるほど、結構鬱憤が溜まっていたのか。フフフ。


「じゃあ、ピョン吉、帰るよー。」 「キュー」


と言ってそのまま部屋を出たのであった。

後から、追う様に受付嬢のお姉さんが出て来て、

「すみません、ちょっとお灸を据えたかったので、利用させて頂いちゃいました。 物件お望みの条件に合うのが3箇所あるんですが、どうされます?」

と舌をペロッと出しながら話掛けて来た。


「うーん、まあ今日の所は止めて置きます。 何か気分が萎えちゃったので。 フフフ、でもありがとうね。 あの2人、何時もああやって何か仕掛けたりしているの?」


「ハハハ、そうなんですよ。 あの爺様2人は本当にしょうがないですよねぇ。 悪気は無さそうなんですが、ローグさんも王都一の商会やってましてね、うちのギルドマスターとは60年越しのご友人? 悪友なんですよね。

ああ、あと帰られるのであれば、表からじゃなくて、裏口の方が良いですよ? ロビーで待ち構えてる商人が多いですから。」

と裏口まで案内してくれたのであった。


「何から何まで、ご配慮ありがとうございました。 でも、君は大丈夫? 後で文句言われたりしない?」

とちょっと気になって聞いてみると、

「ハハハ、大丈夫かな? うーん、もし首になったら、スギタ商会で雇って下さい。 私これでも結構出来る子なんで。」


「ハハハ。 出来る人で信頼を裏切らない人は大歓迎だけどね。 まあ何かの縁があればかな。」


そして、俺は商業ギルドの裏口から退散したのだった。



その後、ピョン吉と一緒に市場へと赴き、珍しい食材等を探して廻ったが、残念ながらこれと言った収穫が無かった。

小麦や野菜等の購入は見合わせた。

理由は王都という場所の所為か、実に相場よりも高かったからである。


「やっぱり大都会だと物価が高いのはしょうが無いのかねぇ。 しかし王都で暮らすってかなり大変なんじゃないのか?」

と貧困層の心配をする健二だった。


土地代が高いから、それが物の値段に反映されてしまうのはしょうが無い事だと思うが、賃金がそれに追従していないと、日々の暮らしが厳しいのは簡単に想像出来る訳で、そうなると割を食うのは孤児や片親の貧困層の子供らである。

そんなこんなで、ちょっぴり心配になるのである。


「よし、まだ時間あるし、神殿に寄ってみよう。」

と呟き、道を通行人に聞いて王都の神殿へと足を運ぶのであった。




やはり王都だけに神殿はドワースに比べかなり豪華で一回り程大きかった。


内部の作りはほぼ同じ感じではあるが、大勢を収容出来るだけの空間になっていた。

祭壇の前に跪いていつもの様に感謝の祈りを捧げた。



神殿から出て神殿の裏を覗くとやはりここにも孤児院が併設されていて、キャッキャと言う子供らの無邪気な声が聞こえてくる。


「あ! うさちゃんだーー!」


俺達が孤児院に近付いて行くと、ピョン吉を発見した小さい女の子が叫び、他の子達もワラワラとこっちへと走って来る。


すると、最初に発見した女の子が走っていてスッテーンと転び、膝を擦り剥いてワァーーーンと泣き始めた。


「あらら。膝から血がでちゃったね。 よーし、痛いの痛いの飛んで行けーー!」

と俺が起こしてやりながら、クリーンとライトヒールを掛けてやると、ボワンと光った後、


「ありぇ? 痛いの飛んでったーー!」

と涙に濡れた目を大きく見開いていた。


「おにーちゃん、ありやとーー!」


「おー、偉いね、ちゃんとお礼を言えるなんて。」

と言いながら頭を撫でてやると、「エヘヘ、褒めりゃれたー」と嬉しそうに照れていた。


鳴き声を聞いたのか、シスターが1人やって来て、頭を撫でている俺を怪訝そうな目で見て来た。


「あのぉ、失礼ですが、孤児院に何か御用でしょうか? 子供の泣き声が聞こえた様でしたが?」と。



「ああ、申し訳ありません。 この子が俺の従魔を見て走って来たんですが、途中で転んじゃって、それで泣いたんですよ。

もう、治療したので、傷は残ってませんけど。」

と説明すると、他の子達も同じ事を口々にシスターに説明してくれたので、納得してくれた。


「で、こちらの司祭様にお逢いしたくてやって来たのですが、いらっしゃいますでしょうか?」


「あら、そうでしたか。 失礼致しました。 どうぞこちらの方へ。」

と司祭様の部屋へと通されたのであった。



「初めまして、冒険者をやっているケンジと申します。 今日はこの王都での孤児達の状況をお聞きしたいのと、心ばかりの寄付や食料をお渡し出来ればと思って参りました。」


「おお、それは本当にありがたいです。 ささ、どうぞまずはお掛け下さい。」

とソファーを勧められた。


司祭様曰く、やはり人口の多い王都だけに孤児の数も多く、とてもじゃないが全部を迎え入れる事が出来ない状況なんだとか。

運良くここの孤児院に入れるのは全体の10%以下ではないかという話であった。


「つまり、漏れた子はやはりスラムとかですか?」


「ええ、どうしてもそうなってしまいますね。」

と悲痛な顔で答える司祭様。


国にとって子は宝なんだけどなぁ。

いっそ、うちの拠点で引き取るってのもアリなんじゃないだろうか? 面倒を見る人員が足りるかという問題もあるけど、手が掛かるのは10歳ぐらいまでだろ?

スラムで食うや食わずで不安に怯えるよりはマシなんじゃないだろうか? と真剣に考えてしまう。

50年生きた俺が餓死するのと、まだ幼い子達が餓死するのとは話のレベルが全く違い過ぎるよなぁ。

まあ俺は良いにしろ悪いにしろ、自分の人生を50年生きた後だからしょうがないけど、子供らはなぁ……。


ただなぁ、連れて行くにしても孤児達を集めて、その孤児達が忽然と消えると、まるで犯罪シンジケートか?って疑われそうだよなぁ。

まあどちらにしても、やっぱり別荘無いと身動き取り辛いのは事実だな。



その後、白金貨2枚や小麦粉や砂糖や塩等の調味料類等、日保ちする物の他にここ数日で食べられる様なオークの肉のブロック等を多めに渡し、宿へと戻るのであった。



宿の部屋に帰り着いたが、まだ誰も帰って来てはおらず、誰も居ない静かな部屋で、ピョン吉やモモ、それにサリスにおやつの果物等を与えつつ今後の事を考えるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る