第119話 『女神様の恵み湯』でホンワカ

村の方は、お祭り騒ぎになっている。

村の人口が一気に2倍に膨れ上がり、しかも強力な助っ人が現れた事で、更に色々な物が作れる様になるし、諸手を挙げて大歓迎という事らしい。

それに、双方共に、圧政に苦しんだ同志って言う共感すべき所もあるらしい。

だから、よく言えば、圧政に苦しんだ同志を労うって感じ? 悪く言うと、ただ酒飲んで騒ぎたい? フフフ。


良かったよ~、これで険悪なムードとかになると、連れてきた手前、拙いからねぇ。

一応、食糧倉庫経由で村長には通達しておいたので、大丈夫だとは思って居たけど、正直ホッとした。


この分なら来春は、あれかなぁ? 外側の城壁をもっとデカいのに交換すべきかも知れないね。



久しぶりの我が家。やっぱり我が家は良いね。何と言っても『帰って来た!』って気持ちになれるし。

さて、気になる屋敷の中の方だけど、アケミさんの部屋も決まって、自己紹介も終わって和気藹々としてる風なのでホッとした。

いや、俺もバカじゃないから――いや、バカだけど、表と裏があるってのは判るんだが、ただね、俺が思うに、リサさんの俺に対する気持ちは、純粋な愛情とか好意よりという、寧ろ崇拝とか憧れとかちょっと違う方向だと思うんだよね。

俺は、リサさんの師匠であり、上司でもある。だから俺が思うリサさんへの誠意としては、この先も変わらず、教える事が無くなる日まで師匠であり続ける事だと思って居る。

それに彼女はまだまだ16歳だからねぇ。これからだと思うんだよ。


やっと部屋でピョン吉達とマッタリ過ごしていると、村人達が誘いに来たと呼び出され、結局広場へと連れ出されてしまった。


まあどうせ、宴会するならと、マーラックで買った魚等をお土産代わりに出して焼き魚や海鮮汁等を全員に味合わせてやった。

海鮮とは縁の無い地域にに居る全員は、もうそれだけで大喜びである。


「お、オラこんなに美味い魚食った事ねーべ!」

「この海鮮汁ってのは、滅茶滅茶良い味がするなぁ! これが潮の香りって奴か!」

と大騒ぎしていた。

まあ、これだけ喜んでくれると、買って来た甲斐があるって物だ。


そんな村人達を微笑んで見ていると、アケミさんがいつの間にかソッと横にやって来ていた。


「アケミさん、どう? 想像していたのと違った?」

とちょっと心配になって聞いてみた。

まあ、今更直ぐに帰りたいと言われても、来年の春まで辛抱して貰うしかないのだがね。


「フフフ、ええ、想像していたのとは、かなり違いました。」


「え!? そ、そうか……。 何かゴメンね。 ご期待に添えなかったみたいで。

でも、もう今からマーラックに戻るって言っても、冬になっちゃいそうだから、来年の春まで悪いけど辛抱してくれるかな?」

と気まずい感じで俺が目を逸らしながら伝えると、


「え? あ! ああ、アハハハ。違いますよ!! 良い意味で想像以上だったって事ですよ?

それに、今更マーラックに帰れとか言わないで下さいよ?

約束したじゃないですか。 ずっと傍に居させて下さるって。」

とちょっと頬を赤くしながらアケミさんが笑っていた。


「え? 良い意味だったのか。 ハハハ。なんか直ぐに悪い方に考えちゃうだよね。癖だね。 ハハハ」


「フフフ、本当に凄い所ですよ。ここは。

想像を遙か彼方に置いて行くぐらいにここは素晴らしいです。

だって、見て下さいよ。住民の愉しそうな顔、幸せそうな笑み。

こんな所、見た事ないですよ? まあ、私はランドフィッシュとその周辺の村、後はマーラックぐらいしか知らないですけど、でも絶対に他には無いですよ。

素晴らしい所です。」

と力強く褒めてくれたのだった。


ちょっと……いや、かなりそれを聞いて安心した。


「あ、そうだ! アケミさん。 この拠点ならではの場所があるんですよ! 温泉ですよ。温泉!

ここには天然掛け流しの温泉あるんですよ! これは滅茶苦茶誇れる物ですよ。

どうです? 入ってみたら?」

という事で、2人で宴会を抜け出して、温泉へと案内してみた。


「温泉というのは、あれですよね? 前にケンジさんから聞いた、地面から湧いて来るお風呂って事ですよね?」


「そうそう! それ。 でもね、普通のお風呂と違って、効能ってのがあるんだよね。

肌が綺麗になったり、腰痛や筋肉痛が軽くなったりとか、色々ね。」

と説明すると、直ぐに入りたい!と言い出すアケミさん。


そして俺達は男湯と女湯に別れ、俺は久々の温泉に浸かり、長旅の疲れを癒やすのであった。


「あぁ~、生き返るぅ~」


久々の温泉に肩まで浸かり、蕩けそうな気分を味わいながら今回の長旅を振り返る健二。


何とか冬前には戻れて良かったな。

しかし、マーラックの舟盛りは美味しかったなぁ。

ライゾウさんの寿司も最高だったし、うな重も最高だった。

ただ如何せん、イメルダ王国までが遠いんだよねぇ。

ここから西に突っ切れれば、クーデリア王国の王都に行くよりも近いぐらいなんだけどなぁ。

問題は、この裏にある魔絶の崖だよなぁ。

俺が生きてる間は良いけど、俺が死んじゃった後、村人達が困らない様にしとかないとだよなぁ。

もし、俺が居ない状態でここで生きて行くとして、一番困るのは……塩か。

クーデリアにしろ、アルデータにしろ、マスティアしろ、もしこの村に対して優位に立とうとするなら、塩を封じてしまえば簡単だもんな。

今は良くても、何時までも食糧倉庫が使えるとは限らないし、何か食糧倉庫に頼らない独自ルートを考えてやらないとだよな。

いっその事、崖を貫通する様なトンネル掘る? ハハハ。馬鹿げてるか。

――トンネルかぁ。

あ、いかん浸かり過ぎたな。湯あたりしそうだ。


ちょっと湯あたり気味になって風呂から上がり、休憩室で涼んでいると、満面の笑みのアケミさんがやって来た。


「ケンジさん! これは凄いです! 最高ですよ。

私、危うく湯船で蕩けてしまって、溺れる所でした。」

と初温泉を経験したアケミさんが、興奮気味に捲し立てている。


湯上がりの上気した素肌が何とも悩ましい。



「フフフ、そうですか、そんなに興奮する程に気に入って頂けた様で、何よりです。」


「あ! フフフ、ええ、気に入りました! 温泉って素晴らしいですね。

何かこんな贅沢をして良いのか不安になっちゃいますよ。」



湯上がりの冷たいミルクを2人で飲みながら、長旅の話から発展して、獣人やエルフやドワーフの話になっていった。


「アケミさん、そう言えばイメルダ王国には獣人やエルフとかドワーフって居ないんですか?」


「うーん、そう言われると、滅多に見ませんね。冒険者では獣人の人がちょくちょく居ましたけど、エルフは見かけた事が無かったですね。

ドワーフは刀鍛冶とかに居ましたけどね。」


「え? ドワーフの刀鍛冶居たんですか! えーー!? その情報、もっと早く知りたかったなぁ。

うちって、農民が多いけど、工業製品作ってるのって、俺とリサさんぐらいかなぁ。兎に角少ないんですよね。

そうなると、俺が死んだ後とかに色々不都合が出て来るから、今の内にある程度の人員を揃えておいてやらないとね。

ほら、ここに連れて来た責任もあるし。」

と俺が言うと、凄く悲しそうな顔をして、


「そ、そんな死んだ後とかって寂しい事を言わないで下さいよ。

わ、私を置いて死んだりしたら、化けて出ますよ?」

と言っていた。


「ハハハ、いや死ぬ気は無いですけど、50年後、60年後はどうなっているか判らないし、今の内に基盤を作って置いたら、後は楽かなぁってね。

まだまだ若いから、死ぬ事は多分無いと思ってますけどね。」


「本当に、約束ですからね? 置いて逝かないで下さい。」と。


俺にそんな言葉を掛けてくれる人が出て来るなんて、思ってもみなかったので、ポカッと口を開けて呆けてしまった。

2度の人生で初めてそんな事を言われ、ちょっと嬉しい様な照れる様な何とも言えない気分になった。


「あ、ありがとう――」

思わずお礼を言ってしまったのだった。



そして、ホンワカと身も心も温かい内に屋敷の部屋へ戻って眠りにつくのであった。

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