第26話 次の拠点へ 中 その3
そうして再び夜が訪れた。
仲間たちはみんな日中の移動で疲労困憊となっていた。
出発して2日目にしてこの状況。先行きの不安はこの場にいる全員が感じていることだった。
せめて今夜の休息が、みんなにとっても十分な気力を回復できるだけのものであること願うしかない。
俺の今夜の見張りの順は2番目。つまり最初2時間程度睡眠をとってから一度起きることになる。
撥水性の高い木の葉を布の表面に重ねたものを天井として張り、地面の上に厚めの布を敷いて寝床とし、数人がその中に入って雑魚寝をする。
相変わらず交わされる言葉はほとんどない。俺たちはすぐさま目を閉じ、眠る体勢に入った。
少しでも寝心地の良い体勢を確保しようと、何度も寝返りを打ち手足を動かす。
それでもなかなか寝付けず、狭い中身体の筋肉をほぐそうと、所々伸ばしてもみる。
俺の意識が失われたのは、目を閉じてから約1時間が経過した頃だった。
周りの物音に、目を覚ます。
気持ちすっきりとした心地であることに意外感を覚えながらも、起き上がって寝床の中から這い出る。
正直1時間程度眠っただけでは、疲れなんてとれるわけもなく、むしろ眠気を誘い、この後の見張りに支障が出るのではないかという危惧があったが、この分なら大丈夫だろうか。
「…おはよう、咲」
「あ、おはよう春風」
寝床を出た先に立っていた咲に声をかける。
「どう?それなりに眠れた?」
「うーん、そこそこかな。結構スッキリはしてる感じ」
その発言通り、彼女の表情からは少し余裕のようなものが感じ取れる。
「まぁ身体はさすがにあちこち痛いけどね…」
そう言いながら身体を伸ばす咲。
厚めの布を地面に敷いたからといって、村の宿のような寝心地は再現できない。
俺も彼女と一緒に身体を伸ばしておく。
「さ、見回りを始めよ」
「わかった」
俺たちは、月明かりと咲の火の魔術を頼りに移動を始めた。
昨日と同じように、寝床を設置したあたりを中心に徘徊して周囲の警戒にあたる。
夜ということもあり、光源があるとはいえどうしても視覚だけでは不十分。
耳を澄まし、崖下を流れる川の音や俺たち2人の足音、木の葉の擦れる音などから違和感がないか探る。
首を左右に動かし、森の中から崖の辺りまで目や耳を使って不信な点を探し続けた。
相変わらず特に気になる点はなく、ゆっくりと時間が流れていく。
見回りを始めてからしばらくした頃。
同じことの繰り返しに、だんだんと思考にモヤがかかり始めた。
今にも降りきってしまいそうになる瞼をなんとか押し留めながら、それでも足は止めないよう努める。
無理にでも身体を動かして眠気を発散させようと、試行錯誤を繰り返した。
しかし、間を開ければ睡魔はその隙を付いて襲い掛かってくる。
次に気が付いた時、俺は地面から競り上がる木の根に足を取られ、膝を着いていた。
意識を失っていたらしい。慌てて辺りを見回してみる。
近くに咲の姿がなかった。
「咲…?」
もう一度頭を振って周囲を見回したが、彼女の姿は見えず俺以外の足音も聞こえない。
眠気など完全に吹き飛んだ。
ドクンドクンと心臓が跳ねるように脈打ち始める。
そもそも今俺はどこに…?
辺りを木々で囲まれた場所に今俺はしゃがみ込んでいる。
朦朧とした意識の中、森の中へと足を踏み入れてしまったらしい。
ただ救いなのは、向こうにいった辺りに点々と明かりが見える。
おそらくは他の見回りの人間が使っている火の魔術だろう。
俺は急いでその明かりの場所に向かう。きっとあの辺りに咲もいるはずだろうと信じて。
木々の間を駆け足で抜ける。
途中木の根に再びを足を引っかけそうになるもなんとか体勢を立て直し急いだ。
森を抜け、立ち止まって辺りに視線を送る。
相変わらず静かな時が流れるテント一帯。
それぞれ火の魔術を扱っている人間をひとまず目で確認してみるが、咲らしき人間はいない。
「なぁ、咲見てないか?」
一番近くにいた見張りの人間に声をかけてみる。
「咲さん?いえ、見てないですけど…」
「…そうか」
一度俺が転んだ場所まで戻ってみよう。もしかしたらはぐれた俺を探してくれているかもしれない。
そう考え、俺は来た道を引き返して再び森の中へ。
少し走ってから大体の位置まで辿り着いた俺は、もう一度その辺りを探してみる。
遠くに仲間たちの火が見える辺り。咲は考えなしな人間ではないはずだから、これが見える範囲内で探してくれているはず。
しかし、一通り探してはみたものの、結局痕跡1つ見つけることはできなかった。
再びテントに戻ってみるも、やはり咲の姿はない。
「咲がいなくなった。テントの中の人たちを起こしてくれ」
近くにいた見回りの2人にそう声をかける。
「…え?」
「早く!」
「は、はい!」
急ぎ足で今指示をした2人が向かったのとは違うテントに向かい、仲間たちを叩き起こしていった。
「それで結局、咲はどこにもいなかったんだな?」
「ああ、そうみたいだ…」
拓海の確認するような問いに返事を返す。
未だ真夜中。月明かりと火の魔術のみで辺りが照らされるテントの前に、咲を除いた仲間たちが勢揃いしていた。
「春風これ。そこの木のところに落ちてたらしい」
涼真が1枚の白い紙を差し出してくる。
俺はそれを受け取って広げてみると、何やら絵のようなものが描かれていた。
その絵は走り書きされたようなものではなく、前もって時間をかけて書いたような精緻さがある。
そしてその絵の中、強調するように太い線で囲ってあるとある部分に目が行った。
荷物を持ってここに来い。
はっきりと文字でそう書かれていた。
「涼真」
俺は地図を涼真に突き返す。
「え?」
「ごめん。少し席を外す」
俺は身体の向きを反転させる。
「ちょ、春風!?」
「悪い。少し1人にしてくれないか」
俺はそう言い残し、みんなが集まるこの場から1人足早に離れた。
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