16年間魔法が使えず落ちこぼれだった俺が、科学者だった前世を思い出して異世界無双

ねぶくろ

第一章 決別

第1話 欠陥品


ロニー・F・ナラザリオ。

僕は生まれた時から欠陥品だった。


ナラザリオ伯爵家の長男として生まれたにも関わらず、足は遅い、体力はない、剣も振れない、そのくせ勉強が出来るわけでもないという体たらくで、何かを習わせるたびにつきつけられる「才能なし」の結果に、両親は落胆と失望を繰り返していた。


極め付けだったのは、魔法の才能が絶望的にないという事実だった。


魔力の扱いが下手とか、生まれつき魔力が少ないとかという次元ではない。

センスがゼロ、からっきしなのである。


魔力のセンスは生まれた瞬間に分かる。生まれた瞬間の赤ん坊は仄かに明かりを帯びていて、その強弱でどれだけ魔力を秘めているかが分かる。2歳ほどになれば魔法の一端を垣間見せるのが普通だ。

だが僕とくれば、5歳になっても10歳になっても、どれだけ練習をくりかえしても、魔法のまの字さえ発現しなかった。

王都の高名な魔術師をして、どうしようもないと言わしめたのが僕なのだ。


両親は何かの病気なのではと疑ったが、体に魔力は流れているはずだし、他にも異常は見られないというのが答えだった。

いっそ病気とでも言われれば、あきらめようもあったのに。


16歳の誕生日の今日――。


両親は僕におめでとうの一言さえない。

12歳の弟の習い事にご執心である。


幸い、弟は僕の才能のなさを補って余りあるほどに優秀に育ってくれていた。

運動神経も頭の良さも魔法の才能も、全てが天才的。まさに神童という言葉が相応しい。

中庭からは今も、弟が家庭教師と剣を交える音と、両親の喝采の声が聞こえる。


おめでとう。

よかった。

そのくらいでなければ、僕は期待感に押しつぶされて、どうにかなってしまっていただろう。僕に向いていた期待が全て弟にのしかかってしまったのは申し訳ないが、彼ほどの才覚があればプレッシャーも跳ね除けてくれるに違いない。


ただ一つ惜しむらくは、どうして彼が先に生まれてくれなかったのかと言うことだ。

どうして僕が長男なのか。順番さえ逆なら、こんな居心地の悪さも少しは薄れたはずなのに。



「――――」


男の使用人とすれ違う。

会釈すらなく、彼は通り過ぎていく。

弟がその才能の片鱗を見せるまでは一応挨拶くらいはあったはずだが、随分前の話だ。

彼らには、僕はもう見えていないらしい。


「……はあ」


ため息を一つ漏らす。

特にこれからの用事もないし、せめて中庭からの声が届かない自室に戻ろうと、鬱屈としたまま階段を降りる。


天窓からは午前の日差しが差し込み、今日もまだ始まったばかりであることを知らせていた。また長い一日が始まることにうんざりしてしまう。


何を間違えたのだろうと、思うことがある。

どうすれば、こんなことにならなかったのだろうと。


でも、答えはいつも無情な一言で片付いてしまうのだ。



家柄がよかっただけで、それ以外の運が一切なかった人間が僕だ。

ここから先僕にはまだ何十年もの人生が待っているだろう。

でも、こんな風にいるかいないか分からないような扱いを受けながら、時間だけが与えられて何の意味があるのだろう。


そう、考えてしまう。

もういっそ、どこか遠く何のしがらみもない場所に逃げてしまいたい。

きっと両親も僕を探したりしないだろう。どころかようやくいなくなったと胸をなでおろすに違いない。


そうだ。

もういっそ――――、




瞬間、僕の視界が大きく傾いた。


足をおろすはずの次の段差にいつまで立ってもたどりつかず、頭上に見えていたはずの天窓があらぬ場所がある。


自分が足を踏み外して落ちているのだと気づいたのは、その数瞬後だった。

だけれど僕にはそこから体勢を立て直すだけの反射神経さえない。時間だけがゆっくりと感じられ、自分の身に【死】が近づいてくるのを理解した。



――――ああ、でももう、これでいいか。



諦めがよぎり、次の瞬間、頭から固いものとぶつかる派手な音がして視界が真っ暗になった。















目が覚めた。


俺は死んではおらず、同時に、


かつて【科学者】として生きていた事を思い出したのだった。


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