第10話 酩酊
最後の砦である父は陥落し、私と永久保の仲がめちゃくちゃ不本意ながら両親に公認されていた、ある日のこと。
「永久保さん、今日帰りが遅くなるので送迎は不要です」
いつものように会社まで送迎されている車の中で、私は永久保に話しかけた。
「残業ですか?」
「いえ、飲み会がありまして」
「なるほど、かしこまりました」
永久保は意外なほど、すんなりと許諾した。
私とて、飲み会はあまり好きじゃないのだが、まあ付き合いとかありますしね……。
車は会社までの道をいつも通り進むのであった。
「
「えぇー、もう飲めませんよー」
私は男性社員に注がれるまま酒を飲んでいく。アルコールにあまり強くない身体は既にだいぶ酔っていた。
飲み会がお開きになっても足元が覚束無い私は、男性社員に支えてもらいながらフラフラと道を歩く。
「大丈夫? 飲ませすぎたね。ちょっと休憩しよっか」
口元がニヤつく男性社員に気付かず、厚意に甘えてホテルに入りそうになる。
「――
聞き慣れた声に顔を向けると、永久保が立っていた。
「あー、永久保さーん」
正体をなくした私は上機嫌で永久保に歩み寄り、抱きつく。
「……随分飲まされましたね」
抱きつく私の背中をポンポンと優しく叩きながら、永久保は男性社員に威圧感のある笑みを向ける。
「アンタはたしか、美園さんを『姫』とか呼んでたやつか」
「ええ、香織さんの婚約者です」
「こ、婚約者?」
この時、私は頭がフワフワしていたため、訂正することが出来なかったことを明記しておく。
「今回は未遂でしたので見逃しておきますが、次に私の香織さんに手を出しましたら弁護士に相談させていただきますので、身の振り方は考えた方がよろしいかと。……さ、帰りましょうか、香織さん」
「はーい」
呆然とする男性社員を置いて、私と永久保は車に乗り込むのであった。
家に帰ると、両親は既に就寝しているようだった。
「ひとまず身体を楽になさってください。ただいまお水をお持ち致します」
永久保は私をソファに座らせる。
「えへへ、永久保さーん」
私は完全に酔ったまま、永久保に抱きついて離れない。
「……姫。困ります」
「困ってもいいですよー。私のこと好きなんでしょー」
私はスリスリと永久保の首元に頬を擦り寄せる。
「私は酔って前後不覚になっている貴女様に手を出すつもりはございませんので」
永久保は断腸の思いといった顔で私を優しく引き剥がし、ソファに寝かせる。
「そんなことをしたら、さっきの男と変わりませんから」
「えへへ、永久保さん優しー。ありがとうございます、いつも」
「……感謝の言葉は、酔っていない時にまた聞かせてください。お水を取ってまいります」
永久保はそっと離れた。
私はそのまま、意識を手放したのであった。
……結果だけ言うならば。
私は酔っていた時のことをしっかり覚えていて、翌朝思い出しては悶絶する羽目になるのである。
〈続く〉
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