魔界で最弱な魔物 ~科学の粋とスキルを合わせれば最強も夢じゃにゃい!?~

功野 涼し

ネコミミのヒロイン誕生──最弱から最強への始まりにゃ──

その1 まずは異世界転移にゃ!

 ここは魔界大陸と呼ばれる力がより強い力によって支配される場所である。


 魔王と呼ばれるもの達が支配する場所も有り、支配する魔王によっては平和なところもあるらしいが基本は力が支配する場所である。

 魔界では今日も血で血を洗う争いが終わることなく繰り広げられる。


 そんな魔界大陸の東の端に大きな森が広がる。

 勿論ここでも争いは絶えない。あるものは生きるために、あるものは力を示し支配を夢見るもの、そこに余裕はなく暇な者などいないはずだが……

 

 大きな木の太い枝に一匹の魔物が寝ている。


「ふわ~~良い天気にゃ」


 獣人系魔物、猫科、ミケ族、名を『シシャモ』

 オレンジの髪にピョコっと出たアホ毛、茶色い大きなネコミミ。カボチャのショートパンツの後ろからは長い尻尾が存在感を放っている。

 顔は伏せ気味なのでよく確認出来ないが可愛いのは間違いなさそうだ。目は寝てるので分からない。


 この種族とにかくやる気がない。昼寝をするか蝶々を追いかけて過ごし1日を終える。

 そんな訳でレベルはみんなLV.1と言う希な種族。

 この森で最弱、いや、魔界最弱ではないかと噂されている種族である。

 じゃあなぜ生き残れているかというと、ミケ族を倒した際に得られる経験値は『2』である。


 LV.1からLV.2に上がるのに必要な経験値は一般的に『10』だ。

 中途半端にすばしっこいミケ族を倒す位なら経験値『1』がもらえる『プチアント(体長約10cm)』と呼ばれる蟻型の魔物を踏み潰して稼いだ方が早い。


『ミケ族を5匹倒すならプチアントを10匹倒せ!』


 と言う格言がこの森にはある。ミケ族は倒す価値も無い魔物というわけである。

 そもそもプチアントすら倒さないミケ族のやる気の無さが伺えると言うものだ。


「ふふん~蝶々♪ ん~苦いにゃ~」


 ドスン! ドスン! と大きな足音が近付く。

 シシャモは目をつぶったまま、頭の上にあるネコ耳だけ動かす。


「アリ、アリ! あと2匹!!」


 太い声が木の下から聞こえてくる。


「ん~? なんにゃ?」


 眠い目を開くと緑色の瞳が現れる。下を見ると熊の魔物『ベアーぐま』が歩いていた。


「うるさいけど関係ないにゃ」


 シシャモは再び眠りにつく。


 ベアーぐま現在LV.4、次のLV.5になるために必要な経験値は残り『2』だった。

 危険な橋を渡らずプチアントを2匹潰す事にしたわけだが運悪く見つからない。そのせいか酷く苛立っていた。


「明日までにLV.5になってクマミさんに告白! どこだアリ! 出てこい!」


 イライラしたベアーぐまは、怒りに任せて木を叩く。


「うにゃにゃにゃ!? おうおう? なんにゃ? 地震かにゃ?」


 突然木が揺れて慌てるが、必死で枝にしがみつき落下を間逃れる。ただ騒いだ為ベアーぐまに見つかる。


 目と目が合う2匹の魔物


「はろーー にゃ」


 とりあえず挨拶は基本なので笑顔で挨拶してみる。


「経験値『2』!!」


 ベアーぐまが木を殴り、揺らしてシシャモを落とそうとしてくる。


「なんなんにゃ! あたしにゃにかしたかにゃ! うわわわ、揺れるにゃ、落ちるにゃ!」


 激しい攻撃で木の幹がミシミシと嫌な音をたて始める。揺れる木に合わせてアホ毛も盛大に揺れる。 

 ついに抵抗むなしく落ちてしまうシシャモ。だがそこは腐っても猫科。空中で体勢を立て直すと着地を決める。


 そこにベアーぐまの爪攻撃! 避けてからのシシャモのネコパンチ!


 ベアーぐまの頭上に表示される『0』の文字。

 それが意味するところはダメージ『0』


「ふっふっふ、これくらいで勘弁してやるにゃ」


 そう言って後ろを向き、ダッシュで走り始める。


「足ならあたしの方が速いはずにゃ! 全力疾走にゃ!」


 チラッと後ろを見る。わりと近くまで迫って来ているベアーぐま。


「ぶーーーっ、近いにゃ! なんにゃあいつ、速いにゃ!」


 前見ると木が倒木して地面が大きく起伏している場所が見えてくる。


「にゃははは、ここならあたしの独壇場だにゃ!」


 倒木している木の上を縫うように飛びベアーぐまとの差を広げていく。


「遅いにゃ、遅いにゃ! あたしは昼寝を続ける為に逃げてみせるにゃ!」


 そして倒木した木から次の木までの距離約5メートル。


「行けるにゃ! 余裕にゃ!」


 ズドン!


 シシャモは次の木に着地することなく地面に落ちる。そして頭の上に

『目測ミス』の文字が表示される。


「にゃんでこんなときに! バットスキルがって、ぬお! 来てる、来てるにゃ!」


 なりふり構わず走った結果、後ろは崖と言う状況に追い込まれる。


「にゃ、にゃんで蝶々食べる夢からこんな事になってるにゃ」


 ジリジリ歩み寄り勝ち誇った顔をするベアーぐま。


「これで クマミさんに 告白出来る! お前俺の経験値になれ!」


 そう言って振り下ろされるベアーぐまの爪。

『クリティカル』の文字が浮かびシシャモは崖に吹き飛ばされ落ちていく。


「にゃんじゃ、その理由ぅぅぅぅーーーー」


 そう言い残し崖に吸い込まれていく。


 シシャモは落ちていくなか生きてきて初めて真剣に考える。


「あーーあたしの人生にゃんだったんだろ」


 思い返す。


「……食う、寝る、遊ぶしかないにゃ……最高にゃ。我が人生に悔いなしだにゃ」


シシャモはゆっくりと目をつぶる。


 『貴女の心意気良いね! 君に決めた! 幸あらん事を祈ってるよ!』

 

 落ちて行く中そんな声がシシャモには聞こえた気がした。そして眩しい光に包まれる。

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