第7話 姉あり近所より来たる(後)
最近ではどうやらカフェ風ご飯というものが流行っているらしいので、俺も挑戦してみることにした。要するにいろんなものをワンプレートに乗せるというやつだ。俺はサラダとスペイン風オムレツを作り、一皿に盛り付け、さらにロールパンを各皿に二つずつ乗せてみた。
「はい、お待ちどう」
「なんだ慎哉、お前にしちゃ
「ほう……これは何じゃ?」
「最近流行りのカフェ風ご飯とやらだ。ちょっと雰囲気いい感じだろ?」
「ふむ……なるほどのう。じゃが、『かふぇー』とかいうのは、女給がおっていかがわしいことを致す店ではないのか?」
「いや、ちげーよ! 何時代の話だ! カフェっつーのは、普通の喫茶店だよ! そんな怪しげな所じゃねえよ!」
確かに昔はそういう店のことをカフェって言ったこともあるらしいが、ご存知の通り、現在のカフェは万人がくつろぐためにある落ち着いた空間だ。というか風俗店で出されるメニューってどんなんだよ。俺そういう所と全く縁がないから知らねえよ。
「ほう、左様か」
「そうですよ、そんなキャバクラみたいなもんじゃないっすよ。だから安心してください」
どうやら姉貴は橘に対しては敬語を使うことにしたらしい。姉貴は「彼女」のことを目上とみなしたのだろう。というか、橘にはちょっと時代錯誤的なところがあるらしく、こうして少々ずれた発言をすることもしばしばだ。
「じゃあ、頂きますか」
「そうじゃな」
二人は礼儀正しく合掌し、食事に手をつけた。俺も着席して、同様に合掌して食べ始めた。
食べている間、何も話さないのもなんか味気ないので、俺はなんとなく気になっていることを橘に聞いてみた。
「……ところで橘、アンタ死神には二種類あるって言ったよな。何でなんだ?」
「……左様なこと、本来ならば汝のような一介の人の子に過ぎぬ者が知るべきことではない。じゃが、汝にはそれなりに良くしてもらっておるからな。特別に教えてやろう」
橘はそう勿体をつけると、おもむろに話し始めた。
「儂は、人の子が生まれる前から存在しておる。初めから汝らの魂を刈るべき存在として生を受けたのじゃ。命あるもの、いつかは必ず死ぬ。それは定められし
俺たちは揃ってうなずいた。そんなことは常識だ。まあ、実感はあまりないが。
「その掟の守り人たる存在が、他でもないこの儂なのじゃ。じゃから、初めは儂一人で人の子の魂を刈っておった。しかし、汝らは増殖しすぎた故、儂の手には負えなくなった。じゃから儂は、その解決方法として……」
橘が咳払いをした。ややあって、橘が再び口を開いた。
「子を産んだのじゃ」
俺は思わず、飲んでいた茶を吹き出してしまった。そしてひどくむせた。あまりに予想外の言葉だったからだ。いや、だって、こんな幼女の見た目をした奴の口からそんな言葉がいきなり飛び出したら、誰だってビビるだろう。
「おい慎哉、汚いぞ。ちゃんと拭いとけよ」
「いや、待てよ姉貴。アンタは驚かねーのか?」
「は? 何言ってんだ。科学で説明できないような存在が何しようがいちいち驚いてたらきりがないだろ」
「いや、アンタ順応能力高すぎじゃね?」
姉貴は妙に
「……で、子を産んだってどういうことだよ?」
俺はひとまず話を戻して、橘に続きを促した。
「そのままの意味じゃ。儂は自らの分身を生み、育て、職務を手伝わせた」
「……は、はあ……。そうなのか……」
いや、疑問は山ほどある。それって具体的にはどうやったんですかとか、そもそも死神って生殖できるんですかとかそういうやつだ。でもまあそもそも、人間の生殖方法を、死神という未知の生物(生物……?)に対応させようとすること自体に無理があるのだろう。で、なんかもう納得せざるを得ないような感じだったので、それ以上突っ込まないことにした。
「しかし、やがてそれでも足りなくなっての。誠に、汝らはどこまで繁栄を謳歌すれば飽くのじゃ……。ともかく、儂は不足する人手を補うべく、此度は人の子から人材を登用することとしたのじゃ」
「え、それって、自分で殺した人間を死神にしたってこと?」
「たわけ。儂らは殺してなどおらぬ。魂を刈ったのみじゃ」
……ちょっとその違いがよく分からない。そもそも魂を刈るってどういう行為のことを指すんだよ?
「それは同義じゃないのか?」
「違う。儂は死ぬる運命を持つ人の子から、その魂を抜き取り、冥界へと導く役割を担っておるのじゃ。儂は義務を果たしているに過ぎぬ」
「……ふーん……なんかよく分かんねーな」
「案ずるな。元より汝ら人の子
……なんか
「じゃあ、真紀はその登用された人間ってことなのか?」
「左様じゃ。儂は
「はあ、そうだったのか……」
死神にならないかっていうよく分からん誘いに即行で応じるとは、真紀は一体何を考えていたのだろうか。
「おい、慎哉。マキって誰だ?」
すると、姉貴が口を挟んできた。そういや、姉貴は会ったことなかったよな。
「ああ、姉貴は知らなかったな。前うちに来た子だよ。橘の弟子らしくてな。死神なんだ。まあ、元は人間だったらしいんだけど」
「あー、そうなのか。で、そいつはどんな見た目なんだ?」
「なんか中学生みたいな感じで……学ラン着た不良風の金髪の子だ」
「ふーん。そうか。なんか会いたくなってきたな」
不良と聞いて会いたいと言い出すとは、姉貴もなかなかの物好きのようだ。まあ、姉貴は一時期半グレみたいになってたことがあるから、同族の気配を感じたんだろうか……。
そんなこんなで、平和(?)な一日は過ぎて行った。
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