9階にて

『このダンジョンは、他の冒険者グループとの共闘はできません』


 エレベーターから出ると、再びエレベーター内で聞いたのと同じアナウンスが流れた。


「他の冒険者グループとの共闘ができない、ってどういうことなんでしょう……」


 ずんだ餅さんが首をかしげる。


『……もし、同じ時間帯にこのダンジョンに入った冒険者が他にいたとしても、その人たちと共闘できない、ということだろう』

「それじゃ、あくまで、一緒に来た人たちだけでクリアするしかないと言う事ですね」


 わざわざ共闘ができない、という条件を明示しているってことは、相当難しい何かがあるってことかな。


 そう思っていたら。ずんだ餅さんがヒイイイイッと声を上げた。


「ちょっとずんだ餅さん、びっくりさせないで下さいよ」


 私の言葉に、ずんだ餅さんが甲高い声で言う。


「聞こえないんですかっ!?」


「もう、ずんだ餅さん、怖がりなんだからぁ」


 シュウカさんが笑う。


「違いますって!! この、何かを引きずる音!! 聞こえないんですかっ!!」

「だから、ずんだ餅さんの声が大きすぎて聞こえないんですってー」


 もう、ずんだ餅さん私たちの気持ちをほぐそうとして言ってるんだろうけど。これじゃあ逆効果だよ。どうせなら、もっと笑える話をしてもらわないと。


 ずんだ餅さんは、黙った。私たちも笑うのをやめて、耳をすませる。今、確かにずんだ餅さんが言っていた、『何かを引きずるような音』が聞こえた気が。


 音のした方向を私達は、見た。でも、真っ暗だから何も見えない。


「と、とにかく灯りを探しましょうっ」

「そ、そうだねっ!!!」


 シュウカさんがあわてて言う。


『松明くらい、誰か持ってるだろう』


 シュウさんの声で、冷静になる。そうだ、松明くらいなら手持ちがあるはず。私たちは急いでメニュー画面から、松明をそれぞれに取り出した。


 三つの明かりが、辺りを照らす。


「……でもやっぱり松明だと、そんなに大きくは照らせないね」


 シュウカさんがぼそりと言う。


「でも、周りの様子が少し、分かります」


 辺りは、ごく普通のオフィスのように見えた。スチールデスクにそろいの椅子。私たちは、ゆっくりと奥へと進んで行く。


 デスクの様子は様々で、すごく散らかっているデスクもあれば、きちんと整理整頓されているデスクもあった。


「ねぇ、ここのアイテム、一つも持てないよ」


 シュウカさんの言葉を聞いて、私はシュウカさんの手を見た。彼女は、デスクの上に置いてあった書類の一つを手に取ろうとしたけど、それは、確かに触っているはずなのに、すりぬけてしまう。


「ここのアイテムは全部、オブジェクトなんですかね」


 私の言葉に覆いかぶさるように、ずんだ餅さんの甲高い声が再び響く。


「うわあああ、シュウカさん、勝手に人のものを触っちゃいけませんんんっ」


 ……うん、ずんだ餅さんは役に立たないと思った方がいいかも。

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