自分の知っている情報を伝える

 ずんだ餅さんは、一瞬黙った。それから、笑い始める。私にも、そしてずんだ餅さんの頭の中でもまだ警報音が鳴り続けていた。


「いやいや、サランさん。こんな時に、不謹慎ですよ」


 ずんだ餅さんは、どうやら私の言っている言葉が冗談に聞こえてしまったらしい。


「ずんだ餅さん、冗談なんかじゃないんです。本当なんです」


 とはいえ、証拠を出せと言われても困るしなぁ。そう思いつつ言葉を続ける。


「ゲーム内と現実世界のリンクが解除されたとアナウンスも言っています。これが、何よりの証拠じゃないでしょうか」


 とにかく、こうなったら味方が多い方がいい。本当に閉じ込められてしまったのなら、とにかくできる限り仲間を集めないと。


 そのためには、相手に自分の知っている情報を伝えなくちゃ。自分が知っている情報を伝えるということは、自分が相手を信頼していると伝えていることにもなる。


「ずんだ餅さん。少しだけ、私の話を聞いて頂いてもいいですか」


 そう前置きして、話し始める。


 自分が、現実世界では世にいう社畜生活を営んでいたこと。ゲームを買ったことすら忘れるくらいに、働きづくめだったこと。


 ゲーム世界で、このゲームの開発元である、ナイトメア・ソフトウェアの社員さんと出会ったこと。その社員さんは、才能あるプレイヤーを社員として迎え入れるスカウターのような役割をしていること。


 そして自分自身が、そのスカウター的役割の社員さんに、社員にならないかと声をかけてもらったこと。それを承諾し、先日社員登用の書類に同意したこと。


 あ、もちろん社員登用の件は、本来は内密にしなくちゃいけないことで、あくまでずんだ餅さんは、私と同じ『特別スキル』を持っているから、私と同じく特別な才能を持った人だから、この話をしたんだということを付け足した。


「先ほど、その社員さんから連絡がありました。ゲーム世界と現実世界をつなぐヘッドギアのアプリに、ウイルスが侵入したようなのです。そしてそのウイルスのせいで、どうやら私たちは、このゲーム内に閉じ込められたようです」


「そんな小説のような話……」


 ずんだ餅さんは、私から目をそらす。でも私はじっと彼を見続けた。すると彼もしばらくしてまた、私の方を見返してくれた。


「……」


 彼は少しの間、私の方を見続け、やがて言った。


「それだけ真剣な顔で話されているのですから、本当のことなんでしょうね。……分かりました、信じましょう」




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