コンタクトをとってみる

「せっかくですから、私がコンタクトをとっている人にも連絡をとってみますか」


 私が言うと、月島部長は驚いた顔をする。


「……いいのか」


 それを聞いて私は首をかしげてしまう。一体どの意味での、「いいのか」なんだろう。


 それに気づいたのか月島部長は言葉を続ける。


「今日は、特に給料は出ないぞ?」


 それを聞いて、私は小さく噴き出した。そうか、月島部長が心配していたのは、


『今日は給料は出ないのに、仕事みたいなことをさせてしまって構わないのか』


 という意味だったんだ。私が笑うから、月島部長は少し不思議そうな顔をする。


「あ、すみません。……給料、出なくても大丈夫です」

「その代わり、夕飯をごちそうしてやればいいんじゃない」


 突然後ろから声がして、私と月島部長があわてて後ろを振り返る。するとそこには、田尻課長がにこにこ笑って立っていた。


「……田尻」

「いやあ、ごめんねぇ。ぼくもさぁ、お腹空いちゃって。でもま、書類関係の説明とか、任せちゃっていいよね、月島課長」

「……まったく」


 月島部長はため息をつく。田尻課長は、月島部長のタブレット端末を覗き込んで感心したような顔をする。


「おお、ついにSNSを始める気になったのかい」

「違う、仕事のためだ」

「なーんだ。『仲良し』になってあげようと思ったのにぃー」

「こっちから願い下げだ」


 月島部長がぶっきらぼうに言う。田尻課長は私に向きなおる。


「ごめんねぇ、愛想なくて」

「それで、仕事の話だが。……先ほどの案件、引き受けることにする」


 月島部長の言葉に、田尻課長が嬉しそうな声をあげる。


「ほんと!? 助かるよぉ。もちろん、協力できることは協力するからね」


 あとはよろしくー、そう言って田尻課長は自分のデスクへと引き上げて行った。月島部長はまた大きなため息をつく。


「あ、それでですね。今私がコンタクトをとっているのは、この方たちです。同時進行で、新たにあの男性と遭遇した人がいれば、随時コンタクトは取っていくつもりですが……」


 私が話題を変えるように言う。


「助かる。……それではこちらからも、コンタクトをとってみるとしよう」


 月島部長は言って、タブレット端末につけるBluetooth搭載のキーボードを取り出す。そして、すさまじいタイピング速度で、文字を打ち始めたのだった。


 数分後、絶望したような顔をして、月島部長が私に声をかけてくる。


「……文字数が」

「はい」

「文字数が、足らない……」

「ああ、そういうときは矢印マークをつければ、この話は続いていますよという意味にできます」

「……なるほど」


 月島部長はそう言って、いくつものメッセージを作っては消してを繰り返す。そして、私がすでにコンタクトをとっていた人に連絡を取り始めた。

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