依頼を引き受けるか否か

「やった、引き受けてくれるって」


 田尻課長は嬉しそうに言う。月島部長は、眉をひそめて私を見た。


「……そんな簡単に引き受けてしまって、いいのか。ロクなことにならないと思うが」


 月島部長の言葉に、私はすぐ答える。


「シュウさん……、いえ、月島部長さえいて下されば、何とかなる気がします」

「……わざわざ言い直さなくていい、シュウと呼んでくれて構わない」

「いや……、なんだか恥ずかしくて」


 ゲームの世界ではあれだけ普通にシュウさんって呼べてたのに。でもあれは、名前がそもそも、シュウさんしかなかったから。名字なんてゲームの世界ではなかったから。でも、現実世界には名字と名前がある。


「そもそも、これからは上司と部下になるわけで。……ゲーム内ではそのままシュウさんと呼ばせて頂きますが、リアルでは月島部長と呼ぶようにします」

「残念だね、月島部長」


 田尻課長がニヤニヤ笑って月島部長を肘でつつく。月島部長は顔をしかめた。


「……確かに、仕事とプライベートは分けるべきなのは、分かる。しかし仕事でゲームにダイブする場合は……」

「いや、それはゲーム内なんだから、シュウって呼んでもらえばいいじゃないか。そんなに難しく考えなくていいんだよ、月島部長」


 田尻課長が呆れた顔で言う。彼は、私に向き直る。


「こんな感じでね、本当に彼は堅物なんだ。でも、悪いヤツじゃないしすごくゲーム内でも頼りになる存在なのは君も今まで一緒にいて分かったと思う。これからも二人で二人三脚で頑張ってほしい」

「はい」

「それで、二人にお願いしたい案件なんだけどね、これなんだ」


 急に田尻課長が真顔になって、私とシュウさんにそれぞれ一枚の紙をテーブルを滑らせる。


 私と月島部長はそれぞれの目の前にある紙に書かれている内容を覗き込む。そしてほぼ同時に、はっと息をのんだ。


「これは……、あの時の……」


 私が独り言のように呟く。すると、月島部長も大きく息をはきだした。


「……これは、難しい問題だな。おれと朝宮さんだけで対応可能だとは、到底思えないんだが」


 月島部長の言葉に、私もぶんぶんと音が鳴りそうなくらい首を縦横に振る。


「うん、もちろん無理にとは言わない。それに、できうる限りの協力はするよ。返事は急がないから、月島部長と相談して改めて引き受けてくれるか考えてくれたらいいよ」


 田尻課長のウインク。これは、困ったことになった。





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