社員登用の件

 私たちは、一度カンナさんのお店に戻った。ダンジョンにいる間は考えもしなかったけど、結構時間が経ってしまっていた。


「……ネズミ将軍の撃破報酬は、適当にそちらで分けてくれて構わない」


 シュウさんが言った。フリントさんは、ふんと鼻を鳴らす。


「僕たちは、挑戦しようと思えばまた、挑戦できますからね」

「僕たちはってことは、おれは含まれてるのか」

「当然でしょ。また一緒に行けばいいじゃないですか」

「……おれは、お前と二人きりでは行きたくないな……」


 シュウさんがため息とともにフリントさんに言う。しかし、フリントさんは聞いちゃいない。


「それじゃ、また後日分配するようにしますね」


 私が言うと、フジヤさんが大きく伸びをして言った。


「じゃあ、名残惜しいけど今日は解散だね」

「フジヤさん、シュウさん、フリントさん。皆さん、今日はありがとうございました」


 私が言うと、みんなはそれぞれ頷いてくれた。フジヤさんがまた私の肩をばんとたたいて言う。


「なーに言ってんの。仲間なんだから、お互い様でしょ。私も楽しかったし」

「……いいアイテムが作れるといいな」


 シュウさんが目を細める。


「はい。頑張ります」


 フジヤさんはそのまま、ゲームをログアウトした。フリントさんもそのまま、ログアウト。残ったのは、私とシュウさんだけ。


 私は、そのままこれからどんなアイテムを作ろうかと考えていた。スキルはあと1回使えるはずだし。


 うーんと考え込んでいる横で、シュウさんはシュウさんで、何か考え込んでいる様子だった。すごく難しい顔をしていたから、私も黙って自分の作業に専念する。


 なんだか、シュウさんと無言になっても特に、気にならない。人によっては何か話しかけなきゃって無言になると思うこと、あるんだけど。


「……一つ、いいだろうか」


 シュウさんが、ゆっくりと言った。

「はい」

「社員登用の話を進めたいと上から連絡があった」

「本当ですか!」

「……ああ。ただ……」


 シュウさんはここで言葉を切って、私の方に向き直る。


「……実際に登用されるとなると、こちらの部下になるということになる」

「ええと、それは、シュウさんの部下になるという認識でよろしかったですか」


 私が聞き返すと、シュウさんは小さく頷く。


「ああ」

「ええっと……、問題ないですけど、シュウさん、すごく悩んでませんでしたか」


 私が聞くと、シュウさんはこれもまた頷く。

「……そちらとは、ビジネス関係にはなりたくなかったからな」

「仮に上司と部下になるとしても、シュウさんさえよければ、今までのように一緒に行動したいです、仕事以外でも」


 私が素直に言葉をかけると、シュウさんは驚いた顔をした。


「……上司と一緒にオフでも行動するのって、嫌じゃないか」

「いや、苦手な上司なら話は別ですけど、シュウさんは特に……」


 嫌ではないです。そう言うと、シュウさんはすっごく大きなため息をついた。そして、一言。


「……悩んだおれが、バカだった……」

「へ?」

「いや」


 シュウさんは、そう言うと私を見た。今度は悩んでいる顔ではなかった。


「……そちらにまだ転職の気があるのなら、社員登用の手続きに正式に移りたいとのお達しが来た。ぜひ前向きに検討してほしい」

「はい、もちろんです」


 私は、大きく頷いた。そして、シュウさんの悩んでいた理由が分かって少しほっとした。


 




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