隠し扉

「こんなところに、隠し扉があるなんて……」


 フリントさんは、きょろきょろと周りを見渡す。


「サランさんが見つけたんだ。こちらも全く気付かなかった。……一応、後ろに隠れているといい」


 シュウさんは私にそう言いつつ、注意深く辺りに目を走らせている。私はあわあわとシュウさんの後ろに隠れた。高レベルプレイヤーの後ろにいれば、とりあえずは安心だ。私、たぶん攻撃一度でもくらっちゃったら、ゲームオーバーだもん。


 フジヤさんはどうしてるだろう。振り返ってみると、彼女はがっしりとフリントさんをホールドしていた。


「邪魔です邪魔です! これでは前に進めないじゃないですか」

「だって怖いんだもん!」

「いやいやいや! じゃあもう少し柔らかく持ってくださいよ」


 うん、仲良し。ダイジョブ、ダイジョブ。私、一人で納得する。


「隠し扉があるなんて情報、攻略サイトには載ってなかったんですけどね」


 フリントさんは不満そうに言う。


「調べ方が雑だったんじゃない?」


 フジヤさん、それは言っちゃだめです。そう私は心の中で思う。


「……ダンジョン自体が毎回、中の状態が変わると考えたほうがいいんじゃないか」


 シュウさんが少しずつ歩を進めながら言う。


「なるほど。宝箱の位置だけじゃなくて、そもそものダンジョンのマップ自体が毎回ランダムだったという可能性ですね」


 私がシュウさんの背中に声をかける。


「ああ、そういうことだ。……そしてこのように、隠し扉が存在しているマップもある、というわけだな」

「それは、面白いですね」

「ああ、作り手側も楽しんで作っただろうな」


 シュウさん、少しだけ楽しそうな声で言う。


「お気楽に言ってる場合じゃないですよ。ここが罠の部屋だったらどうするんですか!? 今に天井が下がってきて、僕ら下敷きになってゲームオーバー……」

「……まだ、そうなるとは限らないだろう」


 シュウさんは、呆れた様子でフリントさんに言う。フリントさん、意外と怖がりなんだね。


「しかしこの部屋……。何もないな」

「はい」

「やっぱりあのブラックラットたちのところに戻るしかないんですよ! そしてアイツらと無限に戦闘をしなければいけないんです」


 取り乱すフリントさん。そう、この部屋には本当に、何もない。不思議なほど何もないんだ。まっしろけっけ。なんか昔、マンガでこういう真っ白な空間が出てくるのを読んだ気がする。そこでは現実世界では1分しかたってないのに、その空間上は数年くらいに換算される、みたいな話だったと思う。


「わざわざこんな空間を作っているということは、何かあると思うんです」


 私が言うと、シュウさんも頷いた。


「……おそらく、いいか悪いかは別として、何かしらは用意されているはずだ。もう少し探してみよう。どのみち、外へ出れば戦いは避けられない。作戦自体もここで立てたほうがいいだろう」


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