気持ちの切り替え
仕事を黙々とこなしていると、視線を感じた。職場の出入り口を見ると、そこに大藤さんの姿。目が合うと、彼女が遠目にも休憩所を指し示しているのが分かった。
あ、大藤さん休憩に入るんだ。私も休憩しよう。私は仕事の目処をたてると、さっと席を立った。そして近くの仲間に声だけかけて、職場から出る。
「よかった、気づいてくれた」
大藤さんが笑うから、私もつられて笑う。
「無事に上司に報告できた?」
休憩室に着いてから、彼女は真っ先に私に聞いてきた。私は頷く。
「はい、なんとか。まぁ、上司はよくは思っていなさそうですが」
「気にしない、気にしない。だってその上司とは、仕事さえ辞めてしまえば関わることなんてないんだから」
そう、大藤さんの言う通り。辞めるまでの数か月はしんどいと思う。でも、それってここに勤め始めてからの日々とそう変わらない。むしろ、あと何日でこの日々とおさらばとカウントダウンできるだけ、どんな言葉を投げかけられようと頑張れる気がする。
終わりのないトンネルを歩いてたら、遠くに光が見えた、そんな感じ。この光がただの光じゃなくて外へと通じる出口であることを願うだけ。もちろん、外へ出られたとしてもその外が、実は結局トンネルの中と同じようなものだったとしても、構わない。外に憧れたまま、真っ暗なトンネルを歩くより、きっと。
外が真っ暗だったとしても、トンネルの中よりも風は感じられる。もっと別の何かを感じられるかもしれない。私はそれを信じたい。
「そうですよね。私、辞めた後には関係すらなくなる人から嫌われるのが怖かったのかもしれません。嫌われたところで、私の人生にはもう関わりあいのない人なんだから、気にする必要ないんですけど」
でもそれが、私には怖かったんだ。今なら分かる。誰かに嫌われること、それを極端に怖いと思っていた。嫌われたところで自分の人生にマイナスになるわけじゃないのに。
でも、これで変わる。
「嫌われたって、いいんですよね。今後の自分の人生に関わりあいのない人には。それに、関わりあいのある人だったとしても、嫌われた理由によっては、その人とはそれだけの関係だったと思えばいい」
本当に必要な人に、自分を分かってもらえれば大丈夫。
「そうだよ。だって、紗蘭ちゃんの人生なんだから。紗蘭ちゃんが正しいと思う生き方をすればいいんだよ。まだ出会って日は浅いけど、私も全力で応援する」
大藤さんにそう言われて私は安心した。
「ありがとうございます。あ、昨日私、旅に出てみました」
私はそう言って、昨日の出来事を大藤さんに話し始めた。
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