シュウさんの職業
「それは、私もスキルを失う可能性があるということですよね」
私の言葉にシュウさんは神妙な面持ちで頷く。
「しかしそちらは、スキルを悪用するようなタイプには見えない。だから、大丈夫だとは思っている」
シュウさんの言葉に、私は俯く。
「私、今の職場では居場所がないような気がしているんです」
自然と言葉が出てきていた。私はそのまま言葉を続ける。
「就職活動がうまく行かなくて、いつの間にか内定のあった職場になんとなく就職して。でも、その職場でも私を必要としてくれているとは思えなくて」
ここで私は言葉を切って、シュウさんを見上げる。彼はただまっすぐ私を見つめていた。
「でも、この場所は違いました。私のスキルが誰かの役に立って、誰かを幸せにすることができる。そう思えたんです。この世界の居心地がいいから、私の本来の居場所である現実世界もそこまでしんどくなくなりました。ただ、それは状況が変わったわけではなくて、私の心の問題が少し軽くなっただけなんだと分かったんです」
「本質的な問題は、解決されていないと」
「そういうことです。でも今までの私なら、その本質的な問題を解決しようとは思わなかったと思います。だって、その場所を出ても自分にはどうせ居場所なんてないって思ってたから」
(どこの職場に移ったって、自分を必要としてくれるような職場はないし、自分を認めてくれる場所なんてないと思ってたから)
「でも、今は違います。今の職場を出て別の職場に勤め始めたら、状況は少なからず改善されるのではないかと、その可能性に賭けてみたいと思う自分がいるんです」
職場を変えても、状況は改善されないかもしれない。でも、試してみる価値はある。今の私は、そう思えた。
「今、転職に向けての準備を進めているところです。私はきっと、誰かに認めてもらいたい。そして、自分の居場所を見つけたいと思っているんです」
それを聞いて、シュウさんは大きく息づいた。そしてすまなさそうな顔をして、一言。
「……すまない」
「え」
「そちらはこちらのことを信用してくれていたと今、はっきり分かった。こちらも、最初から情報をオープンにしておくべきだった、申し訳ない」
私は、なぜシュウさんが謝るのかまったくわからず、途方にくれる。その私の表情を見て、シュウさんは静かな声で言った。
「なぜおれが、『特別スキル』について知っていたか。それについて疑問には思わなかったか」
「いえ。ネットか何かに上がっている情報なのかと」
「いや、そうじゃない。この情報は一部の人間しか知らない」
シュウさんが顔をしかめる。
「このゲーム世界を作り上げた会社、その中でもこのゲーム自体に関わっている社員の人間のみが知りうる情報なんだ」
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