お守り代わりの退職願


 私は、どちらかというと優柔不断なタイプだ。外食するときは、メニュー表とにらめっこして、数分は悩まないと今日のご飯を決められない。


 子どもの頃はお菓子売り場で、何十分も居座って、買うお菓子を見定めたりもしていた。そんな私がこんなにすぐに、退職願を書いているなんて。


 昨日の夜、寝る前に書きあげた退職願。今すぐ提出する気は現状ないけれど、これをお守り代わりに働くのもいいかもしれないと思って、作ってみた。


 これがあれば、何か嫌なことがあったり、「もうこの仕事を続けられない」と思った瞬間に、この退職願を提出するだけで済む。そう思ったら、心が軽くなった気がした。


 私は鞄の中に退職願をしまいこんで、出勤した。これなら、どんな仕事でも頑張れる気がする。


 今日は、大藤さんは出勤していない。昨日の夜、明日は休みだって話してたから知ってる。そういえば、明日はやっと休みだ。何をして過ごそう。


 私はそんなことを考えながら仕事を始めた。幸か不幸か、私が退職願を出したくなるようなことは、今日は起きなかった。


 仕事帰り。私は車に乗り込みながら考える。幸いなことに私は今、実家暮らしだ。だから、一人暮らしの人ほどお金に苦労することは、ないように思う。


 転職を考えていることはいずれ、両親にも話さなければいけないだろう。少なくとも、必要なごはんを用意してくれたり居住地が確保されているのは、親のおかげなのだから。


 でも、まだ退職願を実際に提出したわけではないから、それは本当に退職願を提出した日以降でいいと思う。まだ、伝えなくていいんじゃないかな。


 家に帰ると、食卓にはご飯が準備されている。本当に幸せなこと。私は料理をレンジで温め直すと、ご飯を食べてお風呂に入って寝る準備を整える。


 それから、ゲームにログインした。時間は、23時50分。ログインしたあと、シュウさんにチャットを飛ばす。


『お疲れさまです。ゲームにログインしました』


 すると、シュウさんからすぐに返事が返ってくる。


『しばし待っていてほしい。準備が出来次第、そちらの店に出向くようにする』

『わかりました』


 そう返事をしながら、私は首をかしげる。準備? 私と話すのに準備が必要なのだろうか。でも、私のスキルと私自身の生活に関する情報の共有ということだから、何か情報をまとめてくれているのかもしれないね。


 私は、カンナさんのお店を見て回りながら、シュウさんが来るのを待つことにした。






 

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