受付嬢さんたちの協力
受付嬢さんたちの視線を一身に受けて、私は体がこわばるのを感じた。いくつになってもなかなか、たくさんの人に見つめられるのは、好きになれない。
お局さんのような人が言った。
「アナタ、ゲーム側の管理者か何かなの?」
私は首を横に振る。
「私自身は、そうではありません。しかし私の知り合いが、ゲームの作り手側の社員さんと顔見知りで。その人から冗談交じりに解決を頼まれて、知り合いは解決の糸口だけでもつかんであげたいと思ってるみたいなんです」
私の言葉に、お局さんらしき人は、明らかに私を疑いの目で見る。
「そんな言葉、誰にでも言えるからねぇ。すぐに信用できるものじゃないわ」
「そうですよね」
私も、それには同意する。だけど。
「でも、あなた方が知っている情報を見ず知らずの人間に流したところで、何か不利益を被ることは少ないとは思いませんか」
「分からないじゃない。アナタがもし、クエストマスター側の人間で、アタシたちが何か不都合なことを言ったら、すぐクビにするよう告げ口するかもしれない」
「ということは、クエストマスターさんに、何かしらの不満などがあるということですね」
私の言葉に、お局さんはしまったという顔をする。私とお局さんとの間に火花が散る。するとそれに割って入るようにして、キアナさんが言う。
「オバサン、諦めなよ。もしこの人があのオッサン側の人間だったとしたなら、今の言葉だけでオバサンはもうクビ決定じゃねーか」
「ちょっと、オバサンって言わないで頂戴。アタシ、まだまだ若いのよ」
そう言うオバサンを若いと思った試しは、私はあまりない。まぁ、口に出して言ってしまうとケンカが勃発するので、指摘したこともないけれど。
お局さんが悩んでいると、他の受付嬢さんが言った。
「でもこの状態で仕事を続けたって、いいことないですよ。折角受付嬢になれたけど、こんな仕事がしたくて、受付嬢になったわけじゃないし」
「まぁ、そうよね……」
「そうですよ。こうなったら、全員でクビになる覚悟でこの人に話してみましょうよ」
お局さんの呟きに、他の受付嬢さんが口々に言う。キアナさんが言った。
「みんなでやれば、怖くないってやつだな」
「確かに、全員をクビにするというのは、クエストマスターさんとしても痛手になるでしょうからね。クレーム対応を全部、自分ですることになりますから」
私の言葉に、受付嬢さんの1人が言う。
「クエストマスターなんて、くそくらえよ。ほんと、自分好みの女ばっかり集めて、毎日言い寄ってくるんだから」
「何かプレゼントでも用意して言い寄ってくるならいいけど、何もなしで今日、どう?って言われてもねぇ」
そこからは、受付嬢さんたちによるクエストマスターの悪口大会が始まった。どうやらあのクエストマスターさんはひどい女好きさんらしい。
ちなみに私の職場にも女好きの男性社員さんは、いる。1人はオープンな女好き、もう1人はオープンじゃない女好きさん。個人的にはオープンな女好きさんの方が、関わる分には楽。
クエストマスターさんもどうやら、オープンな女好きさんのようだ。でも自分に酒類にたくさんお金をかけるのに、女の人を口説くのにはケチで、プレゼントなどは一切くれないし、奢るなどのことはしなかったらしい。
「それで、自分好みのハーレムを作ろうとしたんだろうね。でも、それよりもどうやら、お金に目がくらんじゃったみたい」
受付嬢さんの1人が言う。
「私、クエストマスターとあのギルドマスターが最初に話してた時、見ちゃったんだよね。ギルドマスターがクエストマスターにお金を渡すところ」
「あ、あなたも見たの。私さ、何かの時に役に立つかと思って録音しといたのよ」
別の受付嬢さんが言って、1つの黒い物体を取り出す。あ、あれは。現実世界でよくあるICレコーダー。この世界にもあるんだ。
「この世界にも、ICレコーダー、あるんですね」
私が言うと、その受付嬢さんは首をかしげながら言った。
「それがね、この世界にはそういった文化はないらしいのよ。でも、私は持ってる。現実世界でもICレコーダーなんて持ってないんだけど、特殊スキルの関係かな」
特殊スキル!? 私の言霊・物語付与のスキルみたいなものかな。
「ちなみに、どんなスキルなんですか」
「えっとね、音に関する事ならいつでも録音できるスキルみたいな感じ。自分が実際にその場にいて、聞いていることなら必要に応じて録音できるんだ」
私はそれを聞いて、心の中でガッツポーズした。もしそれが本当なら、この人の活躍でこの問題は解決できるかもしれない。それに、既に録音できた中に証拠にできそうなものが十分あるのなら、私のスキルの活用法もある気がする。これは、解決の糸口が見えてきたかも!
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