キアナさんの証言
「クビになった理由なんだけどよ、1つだけ心当たりがあるんだ」
キアナさんの言葉を聞いて、私は思わず彼女の方を振り返る。キアナさんは目を伏せて、言葉を続ける。
「昨日の昼間、クエストマスターに直談判したんだよ。『クエストを独占させるな』ってな。クエストマスターのおっさんと、クエストを独占してるギルドのマスター、どうも嫌な感じなんだ。大体、クエストを独占させたら他の人が困るなんてこと、誰だってわかるだろうに」
「その後、解雇された……」
「そ。心当たりがあるとするなら、それだけだな。他は……、まぁ、素行が悪いと言われたら、それまでだけどな」
キアナさんの言葉に、私は苦笑する。確かに、今のキアナさんの口調や服装は受付嬢さんにふさわしくないかもしれない。でも、受付嬢さんっていろんなタイプがいていいんじゃないかな、とも思う。
普通のゲームならそこまで受付嬢さんのタイプはこだわらなくていいと思うけれど、VRMMOの世界では、受付嬢さんと面と向かって話をして、クエストを受けることになる。そうなると、各個人の話しかけやすいタイプが浮き彫りになる。
自分がお店に来たお客さんだとして。何か店員さんに聞きたいとき、もちろん店員さんが1人しかいなければその人に話しかけるかどうか。話しかけられずにやきもきするかどうかも人によって違うと思う。
さらに、店員さんが何人かいたとしたら。1番話しかけやすい人を見定めてから話しかけるのか、それとも1番忙しくなさそうな人に話しかけるか。みんな忙しそうだからと気づいてもらうのを待つか。
そういった状況判断が普段の生活の自分が反映される、それがVRMMOの世界だと思う。ゲーム画面だったらNPCだしって話しかけるのに躊躇なんてする人、いないけどね。
「キアナさんみたいな受付嬢さんがいたら、場が華やぐと思いますけど」
私の言葉に、キアナさんは笑った。
「そうか? そう言ってもらえると、嬉しいけど。確かに、たくさんの人に話しかけられて、他の受付嬢のカウンターは空いてるなんてことも、あったっけ」
少し誇らしげに胸をそらせるキアナさん。そりゃそうだよ、話しかけやすそうだし、なんだか色々気づいてくれそうだもん。
「何にせよ、クエストマスターとギルドマスターの関係を疑って、それを口に出したのがまずかったんだろうか。口はなんちゃらの元って言うしな」
口は災いの元。確かに。クエストマスターさんは何かやましいことがあって、それを悟られたくなくて、キアナさんを解雇したのかもしれない。でも、そんなことをしたら、余計に怪しまれるって考えなかったのかな。
私が首をひねっていると、シュウさんとカズアキさんが出て来た。半ばカズアキさんを引きずるようにして出て来たシュウさんは私を見つけると言った。
「すまない。カズアキが受付嬢たちをナンパしすぎて、クエストマスターに目をつけられた。少なくとも今日は撤退するべきだと思う」
申し訳なさそうな顔をしているシュウさん。すると、キアナさんがぽんと手を打った。
「他の受付嬢から話を聞きたいんなら、職員用の入り口があるから、そっちから入っちまえばいいんだよ。あのおっさん、あたしの職員カードを回収するのを忘れてやがったから、まだ入れるぜ」
そういや、裏口からあたしも入ればよかったのか、と今更ながら呟くキアナさん。何にせよ、職員用の入り口から入って、職員しか立ち入りできない場所に行けば、何か手掛かりがあるかもしれない。これは期待できるね!
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