にげにげスプレーと、ばっちこいスプレー
さて、『言霊・物語付与』のスキルは今日はあと2回使える。この2回を何に使うかだな。私は、店内を見て回る。
武器防具に、小さなガラス瓶のついたネックレス。その中には色とりどりの少量の液体。緑や赤や黄色に青。様々な色に私は目を奪われる。
「おや、サランちゃん、ペンダントに興味があるのかい」
カンナさんが私の傍に来て言った。私は首をかしげる。
「カンナさん。この小瓶の中に入っている液体は何ですか」
「ああ、これは色をつけただけのただの水さ。この瓶には好きな匂いの液体を入れるんだよ」
ああ、現実世界でも香水を入れて、蓋を開けて匂いをかぐようなネックレスあったなぁと思い出す。これも、それに似たようなものか。
そこでふと、とあるゲームのことを思いだす。匂い、か。そのゲームでは、とあるスプレーをまくとモンスターに遭遇しにくくなるというシステムがあった。そして、とある匂いをまくと、逆にモンスターが寄ってきやすくなるというシステムも存在していた。
(このゲームでも応用できないかな)
私はそう思いながら、腕組みをする。そうだ、この小瓶の中に入っている水に、効果を付与すればいいんだ。
たくさん並んでいる小瓶のネックレスの中から2つを選び出すと、私は自分の目の前に並べた。そしてまずは片方を注視する。しばらくすると、ポップアップ画面が立ち上がってくる。
『アイテムに言霊・物語付与スキルを使用しますか』
私は、はいにカーソルを合わせると、付与する内容を口にする。
「アイテム『小瓶のネックレス』を『小瓶のネックレス(にげにげスプレー)』に変更。この液体の匂いを周囲に充満させることで敵やモンスターに遭遇しにくくなる」
そしてもう1つの小瓶ネックレスに向き直ると言葉を続ける。
「アイテム『小瓶のネックレス』を『小瓶のネックレス(ばっちこいスプレー)』に変更。この液体の匂いを周囲に充満させることで、強い敵やレアなアイテムをドロップする敵と遭遇しやすくなる」
2つのアイテムは光に包まれる。光が収まっても、見た目はどちらも変わっていない。変わったのはあくまで、中身の効能だけ。中身の色をつけただけの水も、そのまま。
私は鼻歌を歌いながら、2つのアイテムの前に小さなポップアップカードをつける。
『敵やモンスターにできるだけ遭遇したくない方向け』
『強敵やレアドロップのある敵を狙う方向け』
そして、カンナおばさんに商品の説明をする。これで、今日の私のスキルは上限になった。上限まで使わないと、なんかもったいない気がしちゃうんだよね。そんなとき、急激に眠気が襲って来た。うん、スキルも使い切ったし、今日はこれでログアウトしようかな。
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