何事も対策が大事


 昨日、詐欺師さんと会ったのとほぼ同じ時刻。その時、私はヒナコさんたちが働くお店で、昨日と同じ席に座っていた。隣の席には、ヒナコさんが控えている。


 ヒナコさんは昨日のうちに、私が座っている席と隣の席を予約席に設定して、誰も座れないよう準備してくれていた。準備は、万全。私は、ここへ来る前に作ってきておいたアイテムを握りしめる。


 そんな中、私の方へと歩いてくる人物が目に入る。私、人の顔と名前を一致させるのに時間がかかる方なんだけど、さすがに昨日会った詐欺師さんらしき人の顔は、覚えていた。あの人だ。


 男の人は、私の方へと自信たっぷりの表情でゆったり歩いてくると、私の向かい側の席にどかっと座った。そして、私に向かってにっこり笑いかけてくる。


「キミから預かった道具、いい感じに仕上げて来たよ。それじゃ、預けていたアイテムを返してもらえるかな」


 その目には、意地悪い光が宿っている。私は、にっこり笑い返すと、昨日私が彼から預かったアイテムと全く同じものをテーブルの上に出す。取り返されないように、ちゃんと手で押さえながら。


 このアイテムは昨日、『木の盾(呪)』に回収させたアイテム。でも、見た目は私がもらったものと全く変わりがないから、相手には分からないだろうし型番が振ってあるわけでもない。


 私が無言で取り出したアイテムに、男の人は驚愕の表情を浮かべる。そして、思わず言う。


「な、なんで……」

「どうしてと言われましても、返せと言われたので返しているまでですが。私の装備、返して頂けますか」


 私の言葉に、男の表情に明らかな動揺が広がる。そりゃそうだよね。今までこの世界での、このパターンでは自分のペースで進めてきたことしかないだろうから。こんなの、マニュアルにありません状態だよね。


 こっちにとっては、この場面こそ状況をひっくり返す、絶好のチャンス。


「ちょっと見せてくれ」


 男の人が私が持っている装備に手を伸ばす。私は、装備を自分の胸へと引き寄せる。


「そちらに預けたアイテムがないのに、渡すわけにはいきません」


 私がきっぱりとした口調で言うと、男の人は固まる。その間に私は、相手を観察する。そして、自分が昨日渡したアイテム、『布でできた服(呪)』を彼が身に着けているのを確認する。よし、これで相手に逃げられても大丈夫。


「実はさ、ここには持ってきてないんだ。専用の工場に預けてる。今から、一緒に取りに行こう」


 私に向かって、男の人が言う。額から汗がにじみ出ている。


「そのためには、その預けてたアイテムが必要なんだ。だから、返してくれ」


 そう言うが早いが、私の手からアイテムを奪い取ると、そそくさと逃げた。


「おい、待てよッ」


 近くで様子を窺っていたヒナタさんが追いかけようとする。私は、それを押しとどめた。


「大丈夫です。あのアイテムもまた、私の言霊・物語付与のスキルを使って作り変えたアイテムです」

「それじゃ、もしかしてわざと……」


 ヒナタさんの言葉に、私は頷く。


「はい。あえて、あのアイテムを持って帰ってもらったんです」


 まさか、こんなうまくいくなんて思ってなかったけれど。しかし、がめつい人だなあ。お金が取れないと分かったら、そのまま逃げればいいのにアイテムをきっちり回収して帰るなんて。


 なんでアイテムが消えなかったのか、その理由を探るためだったのか、そもそもあれが偽物だと思ったからなのか、はたまた、焦ってなんとなく回収しないといけないと思った咄嗟の行動だったのか。


 今となっては分からないけれど。何にせよ、作戦は順調に進んだみたい。

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