第53話 樹が風邪

 樹は目が覚めると体を起こそうとした。


「あれ、何でこんなに体が重いんだ」


 樹にとってこの感覚は久しぶりだった。


「頭、痛い。体も熱っぽいし」


 その時、樹は悟った。


「風邪ひいたなこりゃ」


 ここ最近の激務により、疲れもストレスも溜まっていたのだろう。

樹はアリアを呼んだ。


「どうされましたか?」

「多分、風邪引いた」

「ちょっと失礼します」


 アリアは樹の額に自分の額を合わせてきた。


「ちょっ何を」

「確かに熱があるようですね」

「あ、う、うん」

「最近、色々お疲れのようでしたからね。無理しすぎたんでしょう。何か食べれそうですか」

「いや、とりあえず、飲み物が欲しい」

「かしこまりました」


 そう言ってアリアは樹の部屋を出た。

そのアリアと入れ違いになるように、セザールとシャルが入ってきた。


「旦那様、お体大丈夫でしょうか?」

「旦那様でも風邪とか引くんですね」


 おい、シャルよ。それはどういう意味だ。


「そりゃ、俺も人間だからな。安静にしとけば大丈夫だろ」

「にしても、旦那様を倒すほどのウイルスがこの世におりますとは」


 セザールが言った。

どいつもこいつも人を何だと思っているのか。


「回復魔法とかで治せないんですか?」

「試してみたんだがな、外傷にしか効果が無いみたいで、ウイルスには効かなかったんだよ」

「そう、なんですね。なら、仕方ありませんね。ゆっくりしてください」

「ありがとう。そうさせてもらうよ」


 そんな話をしているうちにアリアが帰って来た。


「みなさん、どうしたんですか? ここに集まって」

「旦那様が倒れられたと聞きましたので、様子を見に」

「そうですか。でも、こんなにここに居ても仕方ありませんから。樹さまは私が看ますから皆さんは仕事してください」


 そう言ってアリアは二人を追い出すような形で部屋から出した。


「お水、ここに置いておきますから飲んでくださいね」

「ああ、ありがとう」

「寝れるようなら寝て下さい。ちょっと失礼しますね」


 アリアは樹の額の上に冷たいタオルを置いてくれた。


「気持ちいい……」


 樹は目を閉じるとやがて意識を手放した。


「寝てたのか……」

「あ、お目覚めですか」


 アリアは樹のベッドの横の椅子に腰を降ろしていた。


「ああ。ずっとそこに居たの?」

「はい、そうですが」

「そっか。ありがとうな」

「いえ、お気になさらずに」


 その時、樹の腹の虫が鳴った。


「お腹、空きました?」

「ああ、そうみたいだな」

「じゃあ、ちょっと何か作ってきますね」


 そう言ってアリアはキッチンへと向かった。


「お待たせしました」


 数分後、アリアがお盆に湯気が出ている皿を載せて戻ってきた。


「ありがとう。これ、アリアが作ったのか?」

「はい。簡単な卵雑炊でですが」

「十分美味しそうだよ」


 アリアは料理スキルレベルMaxなので料理の腕も確かである。


「はい、樹さま、口開けて下さい。あーん」

「自分で食べれるよ」

「いいから、大人しくいう事聞きなさい」

「は、はい」


 樹は口を開けた。


「よろしいです」


 そう言うと、アリアは雑炊を樹の口に運んだ。

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