第18話 シャルの治療

 樹の部屋アリアとセザールとシャルが居た。


「今からシャルのその怪我を治す。いいか?」

「え!? ですが、この怪我はもう……」


 シャルは目を伏せた。


「治せると言ったら?」

「それは、もちろん治したいです」

「分かった。そのまま少し動かないでよ」


『ハイヒール』


 樹はヒールの更に上の回復魔法、ハイヒールを展開した。

この魔法はヒールでは治せない、体のありとあらゆる状態異常をも回復してくれる。

 魔力の消耗が激しすぎるため、普通の人間は使えない。


「これは、ハイヒールでございますね……」

「そんな上級魔法まで使えるなんて……」


 セザールとアリアが唖然としていた。


「そろそろだな」


 樹は回復魔法の展開を終了した。


 回復を終えたシャルの姿はエルフ特有の長い耳に、欠損していた右目は治っていた。

足の方は見た目では分からないが、治っていると信じたい。


「どうだ? 目は見えるか? しっかり歩けるか?」

「みえ、見えます!! 足も、歩けます。耳も治っている……」


 シャルは涙を流して喜んでいた。

その頭を樹はそっと撫でた。


「あのけがを治してしまうなんて。あ、あの子、エルフだったんですね」

「そのようですね。本当に凄いお方です。我々の想像の常に上を行っております」


 セザールとアリアは微笑んでいた。


 シャルは足が治ったことがよほど嬉しいのか、部屋の中を歩いたり走ったりしていた。


「シャルの服、買いに行こうか」


 樹がシャルに提案した。


「え、よろしいのですか?」

「うん、メイド服は用意したのがあるけど、私服はそれしかないのは不便だろ?」

「はい、わかりました」

「じゃあ、またちょっと出て来るわ」


 アリアとセザールに告げ、樹とシャルは屋敷を出た。


 屋敷から歩いて数分の所に樹がよく行く呉服店がある。


「いらっしゃい」

 

 扉を開けるといつものように店主が笑顔を向けてきた。


「ああ、樹さん。今日はどうされました?」

「この子に似合う服を見繕ってもらいたい。そうだな、10着くらい頼めるか」

「かしこまりました」

「あの、いくら何でも10着は多すぎでは?」

「いいんだよ、俺が払うんだから好きなものを買いなさい。遠慮はいらないよ」


 樹はシャルの背中をそっと押した。


「こんな感じでいかがでしょうか?」


 シャルは黒とピンクのレースのワンピースを着ていた。

他にも何着か選んでもらったようだ。


「おう、いいんじゃないか。凄く似合っている。可愛いよ」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、本当だ」


 その言葉でシャルは頬を赤らめた。


 樹は服の代金を支払うと呉服店を後にした。


「毎度ありがとうございましたー」


 屋敷に戻る道のりを二人は並んで歩く。


「他に、何か欲しいものはないか?」

「は、はい。とりあえずは大丈夫です」

「ただいまー」

「ただいま戻りました」


 屋敷に着くとセザールが迎えてくれた。


「おかえりなさいませ」

「あ、セザール、この子の部屋に案内してもらえるか。あと、メイドの仕事を教えてやってくれ」

「かしこまりました」

「仕事増やして悪いな」

「とんでもございません。私のことはお気になさらずに」

「じゃあ、任せるな」


 こうして、シャルはメイドデビューするのであった。

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