第26話 十六人目①

 あーっはっはっは。 愉快痛快って感じね。 

 私――星と運命の女神ズヴィオーズは前回死んだ馬鹿の末路を反芻して笑う。

 いやぁ、清々しいぐらいの屑だったので、死んだ時の爽快感は半端なかったわ。


 異世界に行ったからって誰でも上手く行く訳ないじゃない。

 好き放題できるのは状況に恵まれるか、何かしら突出した才能があるか、何かしら成功するような要因を持った存在なので大抵は当然のように失敗するわ。


 それでも堅実にやればそこそこいい暮らしができるのにどいつもこいつも勝手に身持ちを崩して破滅する。

 どうしてかしら? 内心で首を傾げていると引っ張られる感覚――呼び出しね。

 今回はどんな生き様を見せてくれるのかしら? 


 さぁ、女神の導きの時間よ!


 

 目の前に現れたのは――三十半ばを過ぎた女だった。

 檎薹ごとう 鋤盧すきの、三十八歳。 職業は事務員ね。

 性格は――あぁ、こう言うタイプか。 前と似てるけど微妙に違う感じね。


 檎薹 鋤盧は突然の出来事に頭が追いついていないのかやや怯えを見せつつ私の話を聞いたわ。

 取りあえずお試しは引くみたい。 


 引いたのは――


 SR:異世界転生権


 ふーん。 一発目で転生か。

 SRだからそこそこ優遇されそうな感じね。

 私は檎薹 鋤盧に引いた物の説明を行うと文句を言い出した。


 別に異世界なんかに行きたくない。 拒否はできないんですか?

 等々、私が淡々とできない事とどうにもならないと答えるとテンションが上がってきたのか口調が乱暴になって行く。


 ふざけないで! こんな胡散臭い物を寄越して! 詐欺師! 

 犯罪って知らないの!? 澄ましてんじゃないわよ!

 私が害を及ぼさないと判断したのか最初の怯えた態度は何処へやら、どんどん強気な態度になって行ったわ。


 この馬鹿はとにかく沸点が低く、条件が揃うと誰彼構わず噛みつく頭の悪い狂犬のような女だ。

 正直、死ぬほど不快だけど私は女神。 こんなゴミのクレームごときで態度を変えたりしないわ。

 それに情報を一通り参照している以上、対処法は分かり切っている。


 ――気が済むまで喋らせる事だ。


 一通り吐き出させて黙ったタイミングで引きますか?と選択を促す。

 別に引かないなら引かないで良いけど後が大変よ? 

 楽に第二の人生を過ごしたいならちょっとでも引いて何か手に入れておいた方がいいんじゃない?


 親切に説明をする気もなかったので、引く事を勧め、判断はお任せしますとだけ言って沈黙。

 帰れとは言わない。 思考が見えている以上、完全に引く意思がなくなるまで待つつもりよ。

 檎薹 鋤盧は追加でキーキーと猿のように喚いた後、諦めたのか十回引くと言い出したわ。


 はいはい。

 まったく引くならさっさと決めればいい物を面倒臭い生き物ね。

 それで結果なんだけど――


 R:隷従の輪

 R:支配の笛

 SR:魔力強化(中) 

 N:銅貨

 N:銀貨

 R:隷従の輪

 N:短剣

 R:視覚強化(小)

 N:鞭

 N:銅貨


 うーん、微妙。

 隷従の輪は生物に嵌める事で従える事ができるみたい。

 支配の笛は命令を拒んだ対象を無理矢理従わせる為のアイテムみたいね。

 

 魔力強化は放出量の増加。 後は見たままね。

 十年も支払ったのにこの結果は納得いかない。 引き直させろと喚いたけど聞き流して追加を引きますかと尋ねるともういいとそっぽを向いたのでこれで終了ね。


 色々と面白そうな物も引いてるみたいだし、どうなるのかを楽しみにさせてもらうわ。

 不快にさせてくれた事もあるし、できれば盛大に笑わせてくれる事を期待してるわね?

 念の為、最終確認を行い、いつもの社交辞令を行う。


 「では、私はこれで。 貴方に良き運命が訪れん事を」


 そう告げて私は檎薹 鋤盧の意識を後にした。

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