第3話 二人目①

 あー……暇ねぇ。

 私――星と運命の女神ズヴィオーズはやる事もないのでぼんやりと星の流れを見つめていた。

 ちょっと前に山田 太郎とか言うガキを導いてやってから、波長の合う人間が現れないので暇していたのだ。


 見世物としては中々面白かったけど、あっさり死んで拍子抜けね。

 馬っ鹿ねぇ。 もう二十年分ぐらい突っ込んでたら死なずに済んだかもしれないのにね!

 あんなメタルな怪物が蔓延る世界にリボルバーとバタフライナイフでどうにかなる訳ないじゃない。


 ――とは言っても、突っ込んでも良いの引けなきゃ無意味だけどね!

 

 そこはほら、この女神さまへの畏敬の念――具体的には出るか空になるまで引くの精神でしょう。

 前回の山田 太郎に関してはその程度の感想しか出てこないわ。 だってすぐ終わったし。

 そんな事よりも誰でもいいからさっさとガチャを回しに来ねーかなーとか考えていると、不意に引き寄せられる感覚。 その感覚は私が待ち望んだ物でもあった。


 ……よし来た来た来た!


 今回はどんな馬鹿が私の加護を受け取りに来るのかしら?

 楽しみだわー! さぁ、女神の導きの時間よ!




 私の空間から対象の無意識へと移動。

 真っ白な空間に少年が一人。 えーっと、辻居つじい 將人まさと、中学生ね。

 服装はやたらとダブダブの寝巻に茶色に染めた髪。

 

 前の奴と同レベルかそれ以上のクソガキっぽいわねー。

 

 「あ? 何スかここ? あんた誰よ?」

 「恐れる事はありません。 辻居 將人よ。 私は星と運命の女神ズヴィオーズ。 貴方に選択の機会を与えに来ました」


 無礼なクソガキがという思いはおくびにも出さず、私は微笑みで返す。

 お決まりの説明しろと言う要望に私は素直に答える。

 ここは夢の世界で、私は寿命と引き換えに眠った才能や因果を引き寄せる事が出来ると。

 

 後はお試しに一回引ける事も付け加えておいた。 当然ながら記憶と引き換えと言う条件も提示している。


 「ちょ、女神サマに聞きたいんスけど?」

 「何でしょう?」

 「因果? っつーのを引けると女ともヤれるんっすか?」


 …………。


 は? ガキが女神に対してセクハラとか舐めてんの?

 ぶち殺すぞと思ったけど私は寛容な女神なので笑顔を崩さない。


 「えぇ、貴方にその可能性があるなら引き当てる事が出来るでしょう」

 「マジっすか!? じゃあ女神サマともヤれんの?」

 「可能性があれば」


 そう答えながら私は内心で嘲笑を浮かべる。

 ははは、笑わせんのも大概にしろよカス。 お前ごときが私に触るとか夢見すぎでしょ。

 当然ながら質問には正直に答える。


 まぁ、真面目な話、過去にこいつみたいな童貞丸出しの願いを口にする奴もいるには居た。

 この年頃のガキには割と多い願いだ。 実際、童貞だし興味あるんでしょうね。 実際に口にする奴の気は知れないけど。

 さて、質問の答えだけどあるにはあるわ。


 異性交際権の下位互換みたいな扱いで、出る奴だとNで出る程のしょっぼい代物だけどね。

 理由は簡単だ。 やるだけなら金払えば簡単に実現可能だからだ。

 ただ、こいつぐらいの年齢になると話は別となる。


 単純に店に行ける年齢ではないからだ。 その為、こいつの場合はいくら回しても出ない可能性が高い。

 聞かれれば答えるが、聞いて来ないので言う必要はないわね。

 あ、何なら出るまで回せば? 欠片でも可能性があれば出るかもね。


 辻居 將人は私に欲望でギラ付いた目で私を見ながら記憶を代償にガチャを回す。


 SR:異世界召喚権


 あら? いきなりそこそこの物を引いてるわね。

 転移系では当たりの部類だ。 召喚されるので呼び出された先で何かしらの恩恵に預かれるはずだ。

 チッ、つまんねぇ。 転移引いて生存不可能な世界に行けばよかったのに。

 

 「あ? なにこれ? 異世界召喚?」


 聞かれたので説明すると辻居 將人は理解しているのかいないのか何だか微妙な表情を浮かべる。

 

 「ふーん。 あ、異世界行けばなんかオイシイ思いとかできるんスか?」

 「呼ばれた場所と貴方の立ち回り次第ですね」


 誠意のある相手なら上手い事やればこいつの思う美味しい思いが出来るんじゃないかしら? 知らんけど。 逆に最初から利用――要は使い潰そうなんて企んでいる連中なら上手に立ち回らないと、割とあっさり死ぬけどね。


 まぁ、呼び出す方もそれなりの手順を踏んで、相応のコストを支払っているから元を取ろうとするだろうし、簡単には死ぬ事はないと思うけど絶対じゃない。

 

 「この後はどうします? 回しますか?」

 

 回せ。 ってか死ぬまで回せクソガキ。

 最低でも一回は回せ、元が取れないだろうが。


 「ふーん。 こんなんでSR出るのかよ。 じゃあ十年分を一発で」


 あら、良いの?と思ったが、辻居 將人は迷う素振を欠片も見せない。

 あ、これは夢だからと信じてないパターンだな。 いいけど。

 

 SR:腕力強化(大)


 「っだよSSRとかURじゃねーのかよ。 つまんねーな」


 (大)が出たか。 いきなり良いのを引いたわね。

 素がカスでも最大効果の強化は大きい。 少なくとも同年代――と言うよりは並の人間ならまず拳だけで殴り殺せるだろう。 それ程の強化となる。


 ま、これがあれば頑丈な棍棒でも振り回せば、異世界でもそれなりにやっていけるんじゃない?

 

 「この後はどうします? 回しますか?」

 「あ? あー、どうすっかな? まぁ、どーせ夢だし回せるだけ回すか」

 

 あらあら? 有り金寿命全部使ってくれるのかしら?

 だったら大歓迎よ。 死ぬまで回しなさいな。 まぁ、正確には即死するまでは回せないけどね。

 

 「ちなみに十年コインで後何回回せるんスか?」

 「そうですね……」


 魂のエネルギー量を確認。 今のこいつなら――


 「後六回と五年分が一回ですね」


 搾り取れてそんな所でしょうね。 後の端数ではコインを生成するのは無理かな。

 一年単位で搾取するには理由がある。 コインを生成する最低値が一年分のエネルギーだからだ。

 つまり、こいつの寿命が一年以下ならガチャは回せなくなる。


 「え、じゃあ俺の寿命って八十八までなの? マジウける! 結構、長生きじゃん」


 辻居 將人は何がおかしいのか他人事のように笑い始める。

 正確にはさっき十年使ったから七十八だけど、使うならさっさとしてくれないかしら?


 「あ、じゃあ、それで七回回すわ」


 ひとしきり笑って満足したのか辻居 將人はそれを口にした。

 私は内心で満面の笑みを浮かべる。 ありがとうクソガキ。

 寿命は一年も残らないけど精々幸せに過ごしなさいな。


 私は容赦なく辻居 將人から上限まで寿命を奪うとコインに変換して手渡す。

 辻居 將人は何の躊躇もなくその全てをマシンに投入。

 へらへらと馬鹿丸出しの表情で回しきった。 出て来たのは――


 一枚目SR:魔力制御(中) 二枚目 R:腕力強化(中)

 三枚目 N:腕力強化(小) 四枚目SR:宝剣ターフェアイト

 五枚目 R:宝剣パイライト 六枚目SR:精神強化(中)

 七枚目 N:脚力強化(小)


 ……ぷっ。


 笑いそうになったが我慢する。

 七枚目が五年分なので、十年コインでN引いてるし。 運なさすぎ。

 えーっと? マジ受ける? いやー笑わせて貰ったわ。 表に出すのは我慢したけど。


 説明を求められたので引いた物の解説を行う。

 魔力制御は魔法使用を円滑にする為の物だ。 これがあれば魔法構築がスムーズに行える。

 何処の世界でも手順などは異なるが、共通して魔法にはイマジネーション・ビルド――要は想像力とそれを脳裏に描く構築力が必要となる。


 割と正確性が求められるので、訓練を積んでいない者がいきなり魔法を扱おうとしても失敗するケースは多い。 魔力制御があればその辺に補正がかかるので相応の努力が必要だが、手間は大幅に省けるでしょうね。


 腕力、脚力強化はそのままなので省略。

 精神強化は動揺や恐怖、緊張による精神の揺らぎを抑制する物だ。

 簡単に言うとあまり動じなくなる才能って所かしら? まぁ、こいつレベルの馬鹿だと動じないというよりは気付かずに流すが正解かもしれないけどね。


 ――で最後の宝剣だけど、向こうで手に入れる武器のようね。


 「おー、すげー良くできてんなー」


 辻居 將人は手元に現れた武器を見てそんな感想を漏らす。

 パイライトは金に近い色合い、ターフェアイトは淡い紫色の片手剣だ。

 特に後者は意匠も凝った造りで、一目でかなりの業物と分かる。


 聞かれたので分かる範囲で応えると辻居 將人は理解できているのかいないのか、ほえーと感心したかのような声を上げる。

 あ、これ絶対理解してない奴だ。 クソガキが理解できないなら質問してるんじゃねーよ。


 「っつーかSSR以上出ねーな。 なぁ、女神サマ。 もっかい引かせてよ」

 「残念ながら、貴方には変換できる程の寿命は残されていません」

 「あー、そう言えば寿命削って引くって設定だっけ? ってか、じゃあ俺って明日死ぬの?」


 出来るならそうなるまで搾り取ってやりたいけど、そうもいかないのよね。

 お前、もう出涸らし状態だから、はっきり言って用事はないわ。

 ま、有り金全部置いて行ってくれたお礼にそれだけは教えてあげる! 私って何て心優しい女神なのでしょう。


 「残りの寿命ですが――後、半年と言った所ですね」

 

 ま、どうせ目が覚めたら忘れるから知った所で意味ないけど。

 さてと、やる事もやったし貰う物も貰ったからもうこのガキに用事はないわ。

 精々、残った寿命を好きに生きなさい。


 「では、私はこれで。 貴方に良き運命が訪れん事を」


 辻居 將人がまだ何か言おうとして居たけど、無視していつもの社交辞令を口にすると接続を断って無意識の世界を後にした。

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