第21話 嘘吐きは見掛け倒しの始まり
「世界を革新させるオンラインボトルシップ――その名も【NOAH】! 無数の新世界が広がる箱舟で君も果てしない冒険を楽しもう!」
とある青年は動画サイトの広告で見つけたそのキャッチコピーに心を惹かれた。
そして、彼の手元には【NOAH】のポータブル画面が表示されたパソコンとVRヘッドセットがある。
【NOAH】の中には無料で遊べるVRMMOタイトルが広告通り、無数に存在している。
青年はその中の一つに興味を示す。
【エルファリシア・オンライン】。
中世ヨーロッパを舞台にしたどこにでもありそうな印象のアクションRPG。
彼はなんとなくそれを選んだ。
ヘッドセットを装着してゲームを起動すると、一人の女性が彼の目の前に現れる。
「初めまして。私は君を導く女神のソラリス。――エルファリシア・オンラインへようこそ。君はこの世界で100万人の仲間と共に魔王を倒す勇者となるのです」
〇 〇 〇
「(畜生、結局逃げることが出来なかった……)」
銀太郎は松明を片手に持ちながら、悪竜の洞窟を進んでいく。
銀太郎の背後にはミィル、リィル、リッキー、ナルタロの順でついて来ており、銀太郎は彼女たちの先頭を歩いていた。
悪竜の洞窟は最難関のダンジョン。
銀太郎は一体でも魔物と出会えばすぐに殺されてしまうだろう。
「(どうして先頭がよりによって俺なんだ。……まあ、ナルタロが憑りついているとはいえ、俺よりもうたれ弱いリッキーを先行させる訳にはいかないし、ミィルやリィルを先頭にする訳にもいかない)」
途中で魔物に襲われないかヒヤヒヤしながらも銀太郎たち一行は洞窟の最奥部へと到達する。
「あれ? おかしいな……」
「どうされたでありますか?」
尋ねるリッキーに銀太郎が洞窟の空洞を指し示す。
「この辺り、以前俺がここへ来た時に爆発で埋め立てたはずなんだ。けど、道が出来ている」
銀太郎の言葉の意味がよく理解出来ないリッキーたちだったが、身を屈めて空洞の奥を気にする銀太郎を見て、同じように身を屈めて彼の後ろをついていく。
空洞の奥には巨大な部屋あった。
『汝は我の……む? 貴様は近衛銀太郎か?』
部屋の中央には悪竜ストレグラスが横たわっていた。
「悪竜ストレグラス!? まだ生きてる!?」
ミィルはストレグラスが生きていたという事実に驚いている。
リィルも同様の反応で、震えながら弓を構えた。
『騒ぎ立てるな人の子よ! 我は疲れておるのだ!』
ストレグラスは鼻を鳴らし、視線を銀太郎たちから逸らす。
ストレグラスの視線の先には血だまりが広がっており、人型の魔物の死骸が転がっていた。
『これは魔王軍幹部のグリオンダムという男だ。先ほど我に戦いを挑んで返り討ちにしてくれてやった』
「だけど、あなたも無事ではないようね」
ナルタロがリッキーの身体から現れ、ストレグラスに近寄って言う。
『……そうだな。元々死にかけの身体ではあった故、今更の話ではあるが。それより、貴様は何者だ? どちらかと言えば我と同じような……』
「悪いけど、あなたがこの状態ということはもう時間がないってことになるから、あまり説明はしていられないわ」
『……ふむ。ならば、我の魂は貴様に預けよう。壊れかけだが、少しは役に立つだろう』
ストレグラスがそう言うと彼の身体は透け始める。
ナルタロは真剣な表情で頷き、ストレグラスに手で触れた。
「ストレグラス……約束を守れなくて悪かった」
『我は初めから人間が約束を守るなどとは思っていない。しかし、どういう経緯か知らないが、この女を連れて来たことは評価しておこう』
やがて、ストレグラスの肉体は完全に消滅して、ナルタロは小さなため息を漏らす。
「どうして、ストレグラスは消えてしまったのでしょう。まるでこの世のものではなかったかのような――」
リィルが思案していると、銀太郎の上着のポケットで何かが振動していた。
銀太郎がポケットの中のものを取り出すと、振動していたのは通信魔法用の小型水晶だった。
「銀太郎君! 聞こえていますか!?」
通信魔法の相手はネストだった。
ネストは水晶に映り込んで切迫した様子で銀太郎に語り掛ける。
「ネスト? どうしたんだ?」
「お願い! 今すぐエルフィンに帰ってきてください! 大変なんです!」
ネストの言葉に銀太郎たちは全員眉をひそめる。
「エルフィンに魔王軍が侵攻してきているんです!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます