女神の転生計画 ~なかなか始まらない転生物語~
ミネストローネ
第1話 オレと女神と転生と
薄暗いような、眩しいような、そんな不思議な空間で目が覚めた。
ふわふわとしたまるで寝起きのような意識のまま辺りを見回す。
何もない。
「夢、かな。」
もしかしたらこれが噂の明晰夢というやつかもしれない。が、今見たい夢は特にない。
目が覚めたら夢の中。
夢は眠りが浅い時に見るんだったかな?ということは、俺はもうすぐ目覚めるわけだ。
そう考えるとこの時間も名残惜しい。
もうすぐ起きる、もうすぐ目覚める。
ふぅ、と一呼吸して目を閉じる。
朝は何を食べようか……パンでいいかな……あと
ふと目をあけるとそれがいた。
それは美しかった。そう、美しい。
それを一言で言い表すならば……女神。
この世のものとは思えないほど美しい容姿。
美しい顔、美しい体、美しい肌。
俺の語彙力ではとても表現しきれないほどの美しさ。
髪なんかピカピカ光り輝いているし、背後からはだんだん光が差してきて眩しいくらいだ。
ってゆーか眩しいなマジで。眩し過ぎて目があけられないんですけど。
それと一つだけ、一つだけ言うならば。
「でけーよ」
そこには10メートルはあろうかってくらいデカい女神がそこにいた。あと眩しい。
「目覚めなさい人の子よ。」
もう目覚めてる。
「瞼をあけてこちらに顔を。」
眩しくて瞼をあけらんないの。
「あれ?死んでる?」
「死んどらんわ。」
「うわっ!びっくりした~。」
「……。」
なんだこの人、気が抜ける。
「人の子よ、顔をこちらに。……顔を。顔……どうして瞼を閉じたままなのですか?」
「あなたが眩しいから目をあけらんないんですよ。」
「まぁ!眩しい笑顔だなんて!」
言っとらんわ。あとさらにピカピカするのはやめなよ。
「ふふ、人の子から口説かれたのは初めてです。嬉しいとかじゃないんですけどぉ、ちょっとだけサービスしちゃいますよぉ。」
「……サービス。」
サービスと聞いてエッチなことを期待してしまった俺は悪くない。悪くないのだ。
ここは夢の中なのだ。夢の中ならば合法なのだ!ありがとう明晰夢!!
「えぇ!サービスとしてとびきり可愛い女の子に生まれ変わっちゃいます!他の子には内緒ですよ?」
「ん?」
今なんて?
「それに加えて、この世界では超能力と呼ばれている力もプレゼント!これで完全無欠の美少女完成ですね~。」
「ちょ、ちょっと待って!」
「おや、まだ足りませんか?欲しがりさんですね~。いいですよ!私は今とてもいい気分なのです。あなたのお願い叶えましょう。胸の大きさですか?」
「む、胸はいいから!そうじゃなくてっ!!!!」
思いのほか大きな声が出て自分でもびっくりしたが、今はそれどころじゃない。
胸は大きいのが好きだけどそれよりも先に聞きたい事がある。
「生まれ変わっちゃうって何?え?夢だよねこれ。」
「いえ、夢ではないですよ?あなたはもう死んでいます。」
……死んでいる。
死んでいるってことはつまり、死んでいる。
言葉の意味はわかってる。わかってるけどわかりたくない。
このまま目が覚めることはなく、朝ご飯にパンを食べることも出来ない。
会社に行って同僚と会うこともなく、友達と飲みに行くことは叶わない。
あの漫画の続きは読めないし、ドラマの最終回は見ずに終わった。
そういえば明日はゴミの日だ。忘れずに出しとかないとな。最近いろいろ厳しくなってるけどゴミの分別は大事だ。出す前に確認しとこう。
あ、スーツをクリーニングに出しとかなきゃな~。そうそう忘れてた、シャンプー買っとかないと。あぁ、あとはー、……ははは。
「死んでるんだもんなぁ。」
いや待て。いきなりなことで混乱してるけどこれが事実であると決まって
「あなたは死んでいる。これは夢や幻、思い込みでもありません。」
俺の心の中を読むように、いつの間にかピカピカ光を発しなくなっていた女神がそう言った。
「で、でも」
「悲しい、事件でした。」
「事件……?」
「これから話すことは全て事実ですが、あなたには受け入れがたい事かもしれません。しかし、私は嘘をつけません。」
女神は話す。これまでにない真剣な顔で。
「死を受け入れる、それは難しいことです。何故ならばあなたはここにいるのだから。」
そう、俺はここにいる。
ここに俺がいるから受け入れられない。
意識ははっきりしてる。言葉だって喋ることができるし考えることだってできる。
俺という存在がここにあるのだから、死んだなんて言われたって受け入れる方が難しい。
「俺は、ここにいる。」
「はい。あなたはそこにいます。」
「話を聞かせてほしい。」
「人の子よ。あなたに全てを話します。」
覚悟はできた……いや、嘘。覚悟なんてできてない。でも話を聞かなきゃいけない。
聞かなきゃ前に進めない。たとえ死んでいたって前向きに死にたい。
深呼吸をして女神に告げる。
「ハジメだ。コイシハジメ。」
「ハジメさん。あなたが何故死んだのか、お話しいたします。」
そして女神は語り出す。
「あなたが亡くなったのは数日前。天気の良い日でした。休日に一人、家でくつろいでいた時のことです。」
そう言われて俺は思い出す。
その日、休日でも特にやることがなく俺はボーッとテレビを見ていた。
特別見たかった訳じゃない。ただやっていたから見たお昼の番組。
「テレビに映っていたのは大食いのコーナー。どんどんと食べ進めるのを見てあなたはこう思いました。『俺もやってみよ。』、と。」
「え?」
「そしてハジメさんは余っていたお餅で一人大食い大会を開催し」
「ちょ、ちょっと待って」
「お餅をのどに詰まらせて死にました。ちなみに最初の一個目です。」
……。
「一個目です。」
「もうやめて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます