第112話 アンリケ公国等の復興

 ヤマト帝国から新興国の連合体であるインドラ連合国傘下に入ることのメリットは疲弊した経済の立て直しである。

 アンリケ公国を始めとするこの地方の国々は沿岸部における漁業が経済の中心であった。

 その経済を立て直すために目を付けたのだインドラ連合国内の運河を航行できる船舶であった。

 現実にアンリケ公国に武装豪華貨客船や護衛戦艦が入港してきたのだ。

 この技術力を使えばアンリケ公国を始めとするこの地方の国々は、沿岸部どころか外洋における漁業を手掛けることが出来ると思った。


 しかしその夢はついえた。

 この航海でエンジン音など多少の音を出して航海しても海洋生物がやってこないことが判明したが、巨大戦艦の機関部の研究はやっと緒に就いたところだ。

 それに大亀や湖竜を従えることが出来る技術は俺の妻達のおかげだ。

 さらに言えば海洋生物を撃退する、大砲の技術供与はまだするつもりは無い。


 内航海運業の発展の為には最近運河を航海し始めた帆船の技術供与まではすることにした。

 それと大砲の代わりに大型の石弓の技術供与もだ。

 さらに外洋航海の技術供与が出来ない事から、例えば沿岸で細々とした漁業を

『獲る漁業から育てる漁業』

へと方向を変えていくことにしたのだ。

 前世での北海道のホタテや近〇大学のマグロのように、養殖を推進していくことにしたのだ。


 オーマン国からプロバイダル王国に向かう間の運河建設工事に伴う回遊魚の研究も一助になって小高い山の中にも、ダムによる人造湖が造られて魚の養殖場になっていった。

 ただ、この世界の国の経済の根幹がまだ農業が占めている事から、オーマン国のように、そのダム湖の水を農業の灌漑用水としても使うようにしたのだ。

 その豊富な灌漑用水の水からオーマン国では農地が広がりはじめていたのだ。


 しかしながら、アンリケ公国をはじめとする小国群では小国という足枷があり、分譲された国によって多少土地が広がったとは言え、農地自体が少ないうえに開拓開墾できる土地もないのだ。

 土壌改良と鉄製の農機具によって生産性を上げ、特定の農産物を作るくらいしかないのだ。

 

 前世でのオランダの農業が参考になると思いだした。

 オランダでは、ジャガイモや玉ねぎ等の種類を決めて農業を行っていたと思うのだ。・・・ただ、前世ではジャガイモ飢饉等と言う大飢饉があり、アメリカ合衆国に移民が殺到したという歴史があるので、あまり偏った農業にはしたくないのだ。


 それに乳製品なども盛んに生産していたはずだ。・・・これで偏った農業にはならない。

 未だ、この世界では乳製品は真正カンザク王国やプロバイダル王国以外では造られていなかったのだ。

 俺がはじめなければ、今でも真正カンザク王国でも牛を使って犂を引かせたり、牛乳を飲んだりしていなかったのだ。


 どうもその根底にあったのが牛は魔獣の一種と思われていたのだ。・・・体内に魔石が無いので基本的には魔獣では無いのだ。

 確かにこの世界の牛は下手な家よりも大きい牛がごろごろいて、気が荒く家畜にするのには無理があった。・・・俺が捨てられたときに出会った牛が小さくて本当に良かった。大きくなればなるほど気が荒くなり下手な家よりも大きな牛に出会っていたらその時点で、この世からおさらばして別の人生を送っていたかもしれなかったのだ。


 認識を改めるのは大変な事だがアンリケ公国の公爵もカボサン王国の国王も乗り気になってもらった事から酪農を開始することにしたのだ。

 酪農等の牛を集めたりする事業の資金については、今回の戦闘でヤマト帝国から支払われた戦争賠償金が山ほどある。

 それで色々計画した事業にはすぐにでも着手することが出来た。


 識字率が悪く毒苔の影響の為に、これら養殖業や酪農業等の新たな事業がどんなものか理解ができない王族や地方領主、それらに仕える代官たちが多い。

「百聞は一見に如かず」

とも

「百見は一行に如かず」

ともいう、実物を見せて体験させる必要があった。

 前世の名将、日本海軍提督山本五十六も

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、誉めてやらねば人は動かじ」

というではないか。


 俺は今回の戦闘でインドラ連合国に割譲された、テン・ムスタッチの領地内で養殖業や酪農業を行って見せ、時には参加させたのだ。・・・王族や地方領主は勿論の事それに仕える代官たちは貴族意識の塊である。

 下々のように自らが土地を切り開いて養殖場をつくり、牛馬の為に襤褸を取り除き新たな寝藁を敷き、餌を与えることには拒否する者が続出した。


 農民や漁民の苦労も知らず、上前どころか彼等の食い扶持まで搾り取ろうとする貴族意識だけの塊のような奴らは要らないのだ。

 今後の事を考えれば自らが額に汗して働くことが重要になる。


 今は毒苔の影響で知識も無く牛馬のように農民や漁民が働いているが、毒苔の影響が無くなり、自由とか平等の意識が強くなり、金本位の市場経済が産まれ商業や工業の力が強くなりいわゆるブルジョワジーが発生すれば前世のフランス革命のようなことが起きる危険性があるのだ。


 特に地方において農作物を豊作、不作関係なく搾り取るだけの代官は要らない。

 彼等が新たな養殖業や酪農の旗手にならなければならないのだ。

 アンリケ公国やカボサン王国を始めとする小国群の国王や地方領主には現状と今後の課題として口を酸っぱくして言った。

 アンリケ公国の公王やカボサン王国国王等は俺の言を取り入れて、自らが額に汗して働き、言語を習得しようとした。


 手始めに俺はこの地方の狭い湾が入り組んだように存在するリアス式海岸を利用した養殖業をモデルケースとして見せた。

 この地形は養殖魚には非常に最適であり、また前世の伊勢志摩のような真珠が取れる貝もこの世界に生息していたことから真珠の養殖も手掛けてみたのだ。


 この世界の真珠は大粒で色合いも良い、出来た真珠を使ってティアラを作り妻達にプレゼントしたらとても喜ばれた。

『釣った魚に餌を。』

 釣った魚に餌を上げないのではない、これは前世での手痛い失敗から学んだことだ。剣道特練で全国大会に出場するからと高価な防具を買って悦に入っていたところで、妻に一言

『釣った魚には餌も上げないの。』

と言われてしまったのだ。それ以降は俺の小遣いは本当に小遣いで・・・!

 それもあってティアラやネックレス、ブローチ等作っては妻達にプレゼントしまくった。


 妻達が公式の場で真珠のネックレス等を煌びやかに身につけて現れるので、これがインドラ連合国内の一大ブームを呼んだ。

 インドラ連合国に参加していない国にも真珠の装飾品ブームは飛び火して、重い黄金の塊を首にかける文化は衰退していった。


 物々交換のような作物の経済から金本位制度に変えるとともにインドラ連合国が主体となった銀行制度を立ち上げていった。

 当初はその銀行に、重い黄金の塊のような首輪などの貴金属の類も無償で預かることができるようにもした事から、軽くなった首もとを飾る如何にも高価な真珠のネックレス等の装飾品を身につけるブームの加速にもその一翼を担った。

 重い黄金の塊を首輪にするのは富の象徴であったが、それよりも盗難防止だ。

 盗難に遭う心配の無い銀行にこれらのものを預かってもらえれば安心なのだ。


 アンリケ公国等の小国群はインドラ連合国に参加した事もあり、養殖業や酪農業等の新たな事業はインドラ連合国国営事業とした。

 俺がこれだけの王や地方領主、それらに仕える代官たち養殖業や酪農業等の新たな事業を見せて、やらせて・・・(まったくやらなかった)みたが理解がまだ及ばなかったのだ。


 毒苔の影響もあるが、無能な王や地方領主はその貴族意識と言うプライドの為に前世で絶滅した恐竜のように滅ぶのだ。


 次の問題が真正カンザク王国やプロバイダル王国、オーマン国とヤマト帝国から割譲を受け自領となったテン・ムスタッチ他のアンリケ公国等の小国群がインドラ連合国の飛び地となってしまい流通が困難なことだ。

 ただテン・ムスタッチを含むアンリケ公国等の小国群はヤマト帝国内で地方盟主をおけるほどのまとまった地域だ。

 特にテン・ムスタッチの領主の館付近がこの地域の中心になる。

 ここに流通産業の中心的な基地をおけば良い。

 養殖業や酪農等が上手くいき、これらの製品や加工品の輸出がこの地方経済を活性化させる。

 流通さえ上手くいけば、この地域の赤字経済からの脱却がはかれるのだ。


 陸路での流通はヤマト帝国の版図内を通らねばならず馬鹿高い通行税を支払わなければならないのだ。・・・通行税さえ払えば良いというものではなく、盗賊や山賊に襲われたり、理不尽な地方領主に荷物全てを差し押さえられるかもしれないのだ。

 特に気位の高い、高位の貴族が領主の場所は荷物どころか命まで危ないのだ!

 ヤマト帝国の商人との直接取引も国と国が通商条約を結んでいない現状では、闇取引、密輸になってしまう。

 普通に考えると、海路を武装豪華貨客船と護衛戦艦での交易を細々と不定期に行うか、転移装置で人的交易を続けるかのいずれかであった。

 ただ今の段階では転移装置などの機密の塊を真正カンザク王国とプロバイダル王国以外には設置するつもりは無い。


 ここで登場させられたのが俺である。

 俺には一度行ったことがある場所に転移できるという転移魔法と無制限に物が入る魔法の袋を持っているのだ。

 ちまちまと商品を魔法の袋に詰めるのは時間がかかる。

 俺は、まず手始めに交易の商品を一杯詰めた巨大な商館を丸ごと魔法の袋に入れて、転移魔法でテン・ムスタッチにある病院の横の空き地に転移したのだ。

 病院にまだ、入院していたヤマト帝国の負傷兵の目の前で巨大な商館を魔法の袋から出して空き地に設置したのだ。

 それを見ていたヤマト帝国の負傷兵が目を丸くしている。


 この巨大な商館には、豪商の双子の兄妹の義兄の番頭が乗り気になって商館長をかって出た。

 商館内にはメードゴーレムが売り子として働いていたが、それらもテン・ムスタッチの領地内に住んでいる女の子達の花形の職業となって交代していった。

 俺は地域経済に貢献しているな!

 この巨大な商館がテン・ムスタッチ他のアンリケ公国等の小国群の物流拠点となっていった。


 次にしたのが、この商館の隣に物流の為の大きな倉庫を建てることだ。

 また、真正カンザク王国側にも同様な倉庫が建てられて、アンリケ公国に必要な商品が納められていくのだ。

 俺は、その倉庫に入ったアンリケ公国側の商品と真正カンザク王国側の商品が入った倉庫を、倉庫ごと魔法の袋に入れて月に一度の割合で交換するのが仕事になった。

 この倉庫ごとの商品の物流は巨大な収益を生んでいった。

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