第98話 三日月島にて
アンリケ公国への航海中に嵐をさける為に偶然立ち寄った三日月島で発見した唯一の人工の建物を探検することにしたのだ。
三日月島の海辺の砂浜のほぼ中央付近に建っているその建物は出入り口が一箇所あるだけの窓も無い四角いコンクリート製の建物だった。
建物の
さらに近づいていくと大きな白蛇が、その建物の一箇所しかない出入り口から出てきたのだ。
大きな白蛇の丸い目が俺達をジッと見つめる。・・・蛇の割には理知的な目をしている。
先の分かれた真赤な舌がチロチロと大きな口の先から出入りしている。
スルスルと出入り口から滑るように大きな白蛇が出てくると、その大きな口を開けて俺を一飲みしようと向かって来る。
俺は大きな白蛇の口の下から土魔法の槍と、頭の上から水魔法の氷の槍を落とす。
大きな白蛇が両方の槍で地面に縫い付けられて苦しんでもがく。
俺は楽にしてやろうと
『パリパリ』
と音と光を放つ守り刀を抜いて大きな白蛇の首を切ろうと近づく。
大きな白蛇が慌てて一旦体を小さくして土の槍や氷の槍を抜くと、それからすぐにまた小さな小さな白蛇になると慌てたようにクロの体の陰に隠れる。
「玄武!
助けなさいよ貴方!
貴方の体に以前巻き付いていたもう一人の玄武よ!
それに、痛いわね!
少し驚かそうとしたら土や氷の槍で突いてくるなんて!」
等と言っている。
そう言えば前世の絵画や彫像では、玄武は一頭の亀の場合と蛇を巻き付けた亀の場合があるようだ。
クロがその言葉を聞いて背中に隠れた小さな白蛇を見ると、今度は白蛇がクロの体をスルスルと滑るように登と、今度は右手首に巻き付いて白蛇の腕輪になった。
そして白蛇はクロと精神を繋いだのかクロの口を借りて
「この建物の中を探検しに来たの?
案内してあげるわ!
ついて来て。」
と言って、クロが先頭にたって白い建物に入って行く。
確かに鉄筋とコンクリートで出来た建物で、建物の唯一の出入り口だった鉄製の扉は錆び落ちて、枠だけが残っていた。
コンクリートで出来た建物の出入り口を入ると薄暗い大きな部屋が一つあるだけだった。
案内すると言っていた白蛇も
「案内するといっても、私が
と説明するのだった。
薄暗い大きな部屋の片隅には鳥の羽が集められた白蛇の寝床があり、その大きな部屋の奥に問題の開かずの扉がかろうじて見つけることが出来た。
明り魔法を使って大きな部屋の奥にある開かずの扉に近づいてみる。
明り魔法で照らし出された、開かずの扉はボロボロの木製だがどいうわけか張り付いたように開かない。
成分魔法で木を分解してサラサラとした砂に変えると、そこからもう一つの扉が出てきた。
それは金属でできているようだが出入口の扉と違って錆び一つ浮いていない。
まるでその扉は魔法でもかかっているのか経年劣化の影響を受けていないのだ。
それにその扉は見れば見る程、前世の昔映画で見た宇宙船の扉のようだ。
等と俺が思っていたら、何を思ったかクリスが俺の前に出て、その扉に手を添える。
クリスが手を添えると扉がいきなり音もなく横にスライドして開いていくのだ。
扉の奥には真四角な白い明るい部屋が現れた。
明かりは部屋全体の壁や床や天井がほのかに光って明るく照らし出されているのだ。
クリスが何かに誘われるようにその部屋に入る。
俺は明り魔法を消して他の妻達と共にクリスに続いて、その中に入るといきなり扉が閉まり下降を始めた。
白い部屋はエレベーターのようだ。
クリスと俺以外は、いきなり下降始めたので驚いている。
俺に妻達がしがみついて来た。
しばらくすると今度もまたいきなり下降が止まり、扉が開いた。
その扉の先の部屋は滝の裏の家にそっくりだ。
滝の家とそっくりなので、俺にしがみついていた妻達がホッとしたのか苦笑いをしながら手を離した。
全員が滝の裏とよく似た部屋に入ると、クリフさんに似た男性とクリスとよく似た女性のホログラフィの画像が形成される。
「私達二人は、この宇宙船でこの地に降り立った宇宙エルフ族です。
宇宙エルフ族の移民船R-1が蜘蛛型生物の宇宙船に攻撃されたのです。
私達は攻撃が出来る主船の移民船から、子船である移住の必要物資を積んだドーナツ型の円型宇宙船を切り離して脱出しようとしたのです。有効な攻撃兵器を積んでいないドーナツ型の円型宇宙船は次々と撃ち落とされていきました。
我々の乗ったドーナツ型の円型宇宙船も蜘蛛型生物の攻撃で円型宇宙船の半分が破壊されてしまったのです。
その半分には宇宙をある程度長期間航行するに必要な居住区や食糧庫と脱出装置の小型艇やエンジン部分を積んでいたのです。
残念なことに、宇宙を長期間航行するエンジン部分が無くなった残り半分の円型宇宙船は、この天体の重力に捕らえられて、この星に軟着陸するのがやっとの状態で、この地に落ちたのです。
この地に落ちた、残った半分の円型宇宙船には宇宙を長期間航行できるエンジン部分は勿論の事、誰かが使ったのか何か所かあった脱出装置の小型艇は無くなってしまっていたのです。
その脱出装置の小型艇さえあれば生命維持装置の医療ポットや携行の武器も積まれていたのです。
この無人島に落下した半分になった円型宇宙船の生き残った乗員は、我々二人だけだったのです。
ただ、この残った半円形部分は宇宙エルフ族の英知を結晶した大型コンピュータや図書館が積まれているのです。
一応、通信装置はあるのですが、私達同様にこの星に逃げてきたかどうかわからない同胞の宇宙エルフ族に対して通信する事は、私達を攻撃してきた蜘蛛型生物にその通信を傍受されて丸腰の私達を攻撃される恐れがあって怖くて使えなかったのです。
私達二人は寿命が尽きる前に、このホログラムで記憶を残しました。
もし将来私の同族が来たらこの施設を贈るつもりなのです。」
と言うものだった。
映像が終わると、滝の裏の家と似ている壁が消えて、二人の亡骸を入れた棺が広いホールの中央に安置されていた。
ホールの右側は緩く弓状に曲がった巨大なコンピュータが続いて先が見えない。また左側も緩く弓状に曲がった巨大な図書館が続いている。
これは大発見だ!
アンリケ公国に向かう為に外洋を航海中に台風にあって逃げ込んだ島は、遥か昔に蜘蛛型生物の宇宙船との戦闘の際に撃ち落とされた宇宙エルフ族のドーナツ型の円型宇宙船の半分が埋まった三日月島だったのだ。
この円型宇宙船には宇宙エルフ族の英知が詰まった巨大な図書館と巨大なコンピュータが積載されていると言うのだ。
残念なことだがこの円型宇宙船には宇宙エルフ族の男女の乗組員二人が乗っていたが、生命維持装置の医療ポットのような物は無くなっていたために、はるか昔に亡くなり目の前の中央フロアに誰が葬ったのか棺が設置されていたのだ。・・・⁉
円型宇宙船内部の点検と確認だ、巨大なコンピュータは宇宙エルフ族で元船長としての知識があるクリスが、巨大な図書館はクリス以外の俺達が探検することにした。
巨大な図書館内部には本棚が並びそこには四角いプラスチック製のケースが収められている。・・・クリフさんの滝の裏の家の図書館を思い出す。少し形状が違うが、こちらがオリジナルなのだろう。
また数え切れないほどのリクライニング機能の付いた椅子が並んでおり、棚に入っていたプラスチック製のケースが入るスリットが肘置きの部分についている。
俺はケースをスリットに入れてみる。・・・これも滝の裏の家ではパソコンに直接つなぐのだがこれがオリジナルなのだろう。
耳元から宇宙エルフ族の言語や日本語等が流れてくる。・・・何故に日本語⁉
この世界の宇宙共通語が宇宙エルフ族の言語で第二言語が日本語らしいのです!
目の前にフードが降りてきて宇宙エルフ族の言語の文章や日本語等の文章が見える。
俺は日本語と声に出すと耳元から聞こえる女性の声が日本語になりフードの画面も日本語になってこれで本を読むことが出来るのだ。
このリクライニング機能のある椅子は睡眠学習装置までついているようだ。
寝落ちしても大丈夫なのは良い機能だ。
俺の妻達それを見て皆で面白がって睡眠学習装置付きの椅子に座るといきなり真暗になってしまった。
どうやら円型宇宙船の電源が落ちたようだ。
俺や妻達が椅子から出ると電源が自動的に復旧した。
この場所が図書館だという事が分かったが、電力が無いとこの椅子の機能が使えないのだ。
巨大な図書館内のリクライニング付きの催眠学習椅子に俺と妻達が稼働させただけで電力不足で真暗になってしまったのだ。
電力不足の状態で巨大なコンピュータを稼働させようと奮闘しているクリスのもとに行くと、俺の顔を見るなりすぐにクリスが
「私の知識も虫食いのように穴が開いているので、この巨大なコンピュータを積んだ船の知識が無いのだ。・・・稼働させれば知識の虫食い部分が埋まるのに。
この巨大コンピュータは大きすぎて私の手に余るので、
と言われるので、巨大コンピュータルームで俺は転移魔法を使った。・・・が転移魔法が使えない・・・⁉
何かに転移魔法が阻害されているようだ。・・・転移魔法を阻害する魔法陣は無い様なのに・・・⁉
俺は直ぐに転移装置を魔法の袋から出して、その場に設置して稼働させるが稼働しない・・・⁉
円型宇宙船の棺が安置された中央フロアでも転移魔法が発動しないので、とうとうエレベーターで円型宇宙船の外にある浜辺の建物まで戻り、転移魔法を使うと洋上の修理中の護衛戦艦に転移することが出来た。
俺は今までの事情を話したところ宇宙エルフ族の技師さん達は引き続き二艘の修理を行い、クリフさんとクリスティーナのアンドロイドが半分埋まった円型宇宙船に向かう事になった。
俺の転移魔法で、無事にクリフさんとクリスティーナのアンドロイドを連れて浜辺の建物まで戻ってきた。
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