第92話 造船の開始

 アンリケ公国に行くのに外洋を航行できる船舶を造船する事にした。

 そのためには解決すべき問題が大きく上げて三つあった。

 問題点の一つ目は巨大な艦船の造船技術だ。

 これは今まで内航海運業の発達によって造船技術が高まり、外海を航海に必要な巨大な船を造船する事が可能になっていた。・・・しかし悩ましい事に湖竜を操れる船長が今のところ俺や俺の妻達以外いない事だ。それについての対応策としては、魔力の高い船長見習いの子供を鍛えているのだが・・・時間が必要だ!

 湖竜や大亀を扱える船長がいないことから、オーマン国からプロバイダル王国に帰国する際に使った帆船も次々と造船されてインドラ連合国の運河内で使われるようになっているのだ。

 操船技術を学ぶ上で帆船は有効だ。

 前世でも実際に練習船に帆船を使っている国は多い。

 次の問題は貴重な水だ、これは「水の神殿」が解決してくれた。

 最後の問題点は襲い掛かってくる巨大海洋生物を撃退する武器の開発と、その武器を船に乗せることについてだ。

 武器については、既にヒアリ国の研究都市で蜘蛛型生物の銃器から発展させた大砲という形で造り上げられている。

 大砲も砲身の強度の関係で破裂したり、砲弾が途中で爆発したりした。

 砲弾が途中で爆発したのは、敵に今のところ艦船が想定されないために貫通する砲弾よりも広範囲で爆発四散する榴弾を採用したのだ。

 榴弾は爆発するとその破片等が飛び散るように造られている対人兵器だ。・・・できるだけ使用したくは無いのだが・・・!

 今までの造船技術や武器開発技術を使って外洋を航海できる武装豪華貨客船と護衛戦艦を造船する事にしたのだ。

 武装豪華貨客船を造船することにしたのは外交使節団を砲艦外交の象徴である武骨な護衛戦艦に乗せていく事はあまり適切でないと思ったのだ。

 娯楽施設中心の豪華貨客船と武力の象徴の護衛戦艦の登場で、この世界が仰天するはずだ。

 俺の前世の記憶を引張だし、宇宙エルフ族の知識を借りて何種類もの船の図面を書き上げ、模型を造ったところでモンやアカネに待ったがかかった。

 巨大海洋生物が跋扈する沖の外洋を航海しなければならないので、前世の大航海時代のように船の動力は悠長に風任せという訳にはいかない。・・・巨大帆船の模型も一応作ったが、外洋の嵐にマストが耐えられそうにない。

 モンやアカネに待ったがかかったのは、当初の予定の湖竜を使うことを考えた設計から、もう少し先の事を考えて蒸気機関を使った船を造ろうとしていたからだ。・・・本当は宇宙エルフの知識のある原子力エンジンも考えた。

 もう少しで原子力エンジン付きの戦艦が出来るところだった。・・・少し早すぎる。

 サンダーバードと融合したアカネも反対意見で、

「この世界の神が許さない・」

等と言っていた・・・!?

 大きな音を出す蒸気機関は地上の魔獣や魔獣植物が集まるのと同じように巨大海中生物達を呼び集めないかということだ。・・・初めての試みだリスクを背負うことは無い。

 蒸気機関が駄目そうなので動力について再度検討会が行われた。

 今回は当初の予定通り湖竜が引っ張る事にした。

 内航海運業では大亀と湖竜が使われているが、外洋では大亀よりも体が大きく力がある湖竜を使うことにしたのだ。

 湖竜はカンザク大河等にいる時の名称で、海にいる海竜の小型の種族である。

 小型の種族と言っても平均的な体長が二百メートル程にもなるのだ。

 海の中の生物はその湖竜よりさらに大きく、凶暴であり湖竜はカンザク大河に追いやられて、大陸内の湖等をねぐらにするようになったのだ。

 巨大海中生物には以前カンザク大河に魔王から逃げてきた巨大ワニだけでなく、巨大なイカやタコ、ウミヘビ、古代魚等が泳ぎ回っており、これだけ大きな湖竜でも餌食になってしまうのだ。

 今回はモンを使って湖竜を説得する。

 その間に武装豪華貨客船と護衛戦艦の造船工事を行うことにしたのだ。

 豪華貨客船は今まで使っていたものを、護衛戦艦は、オーマン国とヒアリ国に向かった際に使った護送船を改造することにした。

 湖竜の安全のために、海に出ると両艦とも湖竜が引っ張るのではなく、艦底にすっぽりと湖竜が入る形に設計を変更した。

 模型も造り替えた。

 武装豪華貨客船や護衛戦艦の艦底には周りが見えるように強化ガラス張りで海の航行時には湖竜をこの強化ガラスで覆ってしまうのだ。

 現在のウオータージェットのエンジンを湖竜に置き換えたといったらイメージをしやすいと思う。

 ただ、デビル・フォーレスト大河が魔の森の中を流れている為、未だ未開の地であり、デビル・フォーレスト大河の水深の状況が分からない事もあり、艦底に入った湖竜が河底とつかえる場合があるので引っ張ってもらうことにした。

 それで海に出るまでの間は、艦底部で湖竜を守る強化ガラス板が舷側、つまり船体の左右の側面に上げられており、海に出ると舷側から降りてきて湖竜を包みこむように細工を施した。

 武装豪華貨客船や護衛戦艦の造船所は保秘を考えて魔の森の世界樹教の本社にある湖の対岸に造られている。

 この湖はカンザク大河や今回航行するデビル・フォーレスト大河の源流の一つであることから広くて深い。

 世界樹教の本社側の船着き場から対岸の造船所は芥子粒のような大きさにしか見えないのだ。・・・本当にそこにあると分かっていて見ないとよく見えないのだ。

 芥子粒のようにしか見えないその造船所は、造船中の武装豪華貨客船や護衛戦艦のように四百メートルを超える船を二艘同時に造れるほどの大きさであり、天井でスッポリと覆われた乾ドックで外からは全く中の様子が窺えない。

 またその造船所の横には製鉄所がある。

 土魔法を使える俺や俺の妻達が、土の中から純度の高い鉄の原料の鉄鉱石を取り出していく。

 さらにその鉄鉱石を魔法で製錬して、更に純度の高い鉄の塊を造り上げるのだ。

 これこそ魔法の世界である。

 ここでは、前世にある製鉄所特有の熱気はほとんどないのだ。・・・あるのは魔法を放つ輝きとモノ創りへの情熱だ!

 またこの世界においても魔法をこのように使った者はこれまでにはいなかった。

 製鉄所内で鍛冶仕事に慣れているドワーフ族もこの光景には呆れて見ていた。

 これで前世の地球温暖化等の悪影響が少しでも減れば良いのだが⁉

 そのうちドワーフ族は元々土系統の魔法にも特化し得意としているので俺達と一緒に船の竜骨を造り直し、外板の鉄板を造り、船を造り上げたのだ。

 改造と言うより新たに武装豪華貨客船や護衛戦艦を造船していったのだ。

 魔法の力により短期間で武装豪華貨客船も護衛戦艦も改造いや新造する事が出来た。

 ところがまた8割がた二艘の船が出来上がりかけたところで、造船を見学していたアリサ公爵令嬢や豪商の双子の兄妹、そしてドワーフ親方を始めとする技術者集団がその二艘の船を解体し始めた。・・・魔力があり船長見習いに任命された子供達10人も加わっている。船を知るには良いか⁉

 造船に今まで携わっていたドワーフ族は少し嫌な顔をしていたが、このドワーフ親方には何も言えないのだ。・・・ドワーフ族の主、国王のようなものだと思ってもらったほうが解りやすい。

 解体中の話の輪の中にクリスどころかヒアリ国で大砲の開発製造に係わっていたクリフさんやクリスティーナのアンドロイド、あまり風土病の関係で外に出たがらない宇宙エルフ族の技師さんまでもが加わって何事か図面に朱書き訂正を行い、改良を加えている。

 俺も朱書き訂正された図面を見る限り納得の改良なので黙ってそれを見ていた。

 アンリケ公国に向かう為、外洋航海に耐える武装豪華貨客船や護送戦艦が再度構築され造船されていった。

 護衛戦艦に使われる大砲は、宇宙エルフ族の宇宙移民船R-1に潜入してきた、蜘蛛型生物が使った銃器を発展させたものだ。

 それにレーザー光線等の光学兵器も改良の手伝いに来ていた宇宙エルフ族の技師さんから意見が出たがエネルギーの関係から断念した。

 前世での大航海時代の帆船のように舷側に大砲を据え付けるのではなく、近代的な巨大な回転式砲塔を備え付けた。

 当初は大航海時代の代物のように舷側に大砲を備え付けたのだが、威力の関係と砲身を自由に動かせることを考えて、解体し新たに船体構築中に宇宙エルフ族の技師さん達の意見により巨大な回転式砲塔の形に変わっていったのだ。

 回転砲塔のエネルギーは太陽光パネルの電力とゴーレム技術の応用だ。

 科学と魔法の融合の産物と言っても過言ではない。

 大砲に関してはヒアリ国の研究都市国家の成果でもある。

 護衛戦艦は全長256メートル、46センチの3連装砲塔3基を備え付け、副砲15センチの3連装砲塔2基を備え付ける。

 この船のシルエットは前世の旧日本海軍の巨大戦艦大和を彷彿ほうふつさせる。・・・ちなみに大和もこの大きさだ。

 武装豪華貨客船は護衛戦艦より大きい、全長362メートルになった。

 船の前方と後方には試作護衛戦艦と同じ口径46センチの3連装砲塔が設置された。・・・確かに舷側にチマチマと大砲を置くよりも回転式砲塔を前後に置いた方が乗客に移動の不便さを感じさせない。

 艤装作業や内装作業等であと半年ほどかかるが、新造なった護衛戦艦の艦長をモン、武装豪華貨客船の艦長を白愛虎を任命した。

 白愛虎は武道の実力ではアカネには劣るものの、俺の持つ雷神と同じ能力を持つ雷女神を持ち武装豪華貨客船の船体全体を雷の力で守ることができるからだ。

 ただ、白愛虎の魔力量が不足だ、今のままでは雷女神を使うのは3回が限度だ。

 船を守るためにはその倍以上は必要だ!

 それで、護衛戦艦や武装豪華客船の大砲等の武器の艤装作業や最後の内装等の改装を行う半年ほどの間に魔力量上げを狙って、白愛虎を連れて魔の森に点在する中級ダンジョン踏破を行うことにしたのだ。

 当然他の妻達にも希望者を募って中級ダンジョン入ることにしたのだが、全ての妻達が希望して中級ダンジョンに向かった。・・・フッフッフ、中級ダンジョンが俺のハーレムになってしまった。

 とにかく大家族で中級ダンジョンに向かうことになってしまった。

 母親達が、乳飲み子を置いていくわけにはいかないと言い始め、これだけ多いのに乳飲み子を含む我が子4人までもが参加することになってしまった。・・・今までも子供達は金ぴか鎧に入ってついて来ていたので今更なのだが、金ぴか鎧に乗れるのを知ってはいたが見たことがなかった母親の一部は驚いていた。

 本当に大家族でダンジョン踏破をすることになってしまった。

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