第74話 ルウの仮戴冠式準備

 オーマン国の白神虎の仮の戴冠式が終わり、キツネの宰相の残党を討伐した後は残すはヒアリ国のルウの仮の戴冠式をするだけとなった。

 オーマン国から馬車で一日の距離にある、森の中にある国境の砦でヒアリ国のルウの仮の戴冠式を行うことにしたのだ。

 オーマン国の砦は国境の川の側に建っている。

 その国境の川の対岸であるヒアリ国側にも砦を設けて、その場所でルウの仮の戴冠式を行うことにしたのだ。

 仮の戴冠式を行う為に魔法を使って突貫工事で砦を設けるとしても一週間前後はかかりそうだ。

 俺達はオーマン国内の王城のキツネの宰相の残党を討伐したところだから、余裕を持って三週間、一ヶ月後にヒアリ国のルウの仮の戴冠式を行うことにしたのだ。

 俺と妻達のうちで転移魔法が使える者は、オーマン国の王城のキツネの宰相の残党を討伐後の刑事手続き(反逆罪なのでオーマン国の法律では全員気の毒だが絞首刑だ。そのうえ家族も同罪ときた、家族だけは何としても罪を免れるように奮闘したのだ。)等の雑務をこなした三日ほど後で、国境の砦に転移で向かうことにしていたのだ。

 オーマン国にいる三日の間に、ルウの仮の戴冠式の後は豪商の双子の兄妹等を伴って帰国するためその準備を進めていたのだ。

 そんな準備を進めている俺に、オーマン国の内乱騒動で命を救われたと言って鍛冶師のドワーフ親方が謁見を申し込んできたのだ。

 このドワーフ親方はこの世界でも名だたる刀鍛冶の一人で、プロバイダル王国へのセレスの戴冠式の献上品として宝刀の短刀を鍛造していたのだ。

 キツネの宰相の妻が起こした謀反の騒動の最中、熊族の守備隊兵士が襲い掛かる中を平然として、無人の野を行くが如く、その短刀をセレスが腰に差して歩いていたのだ。

 ドワーフ親方は当然、自らが鍛えた短刀なので見違えることは無いのだ。

 その短刀を腰に差したセレスから目が離せなかったのだ。

 大男の熊族の守備隊兵士が振り下ろす大剣に、その短刀の柄が光ると熊族の守備隊兵士が持つ大剣が不思議な軌道を描いてセレスを傷付ける事が無かったのを目にしたのだ。

 不思議な光景を目にしたドワーフ親方が、その不思議な技を教わるべく訪ねてきたのだった。

 種明かしは短刀の柄頭や鞘に彫った紋章なのだが。・・・聖魔法の使い手でなければ紋章を描いても無意味なのだ。

 同様な事は防御の付与魔法を与えた品物でも出来るのだが。・・・付与魔法も魔力量が多くないと魔石に魔力を溜められないので発動の時間や力に大きな差異が生じるのだ。

 例えば、明り魔法の付与魔法が与えられたランプで室内を照らす事が一般的なので、それをたとえて説明すると理解を示した。

 ただ発動するための魔法文字を刻み込むことはドワーフ族でも出来るようだ。

 俺の説明を聞いて、どことなく肩を落としてドワーフ親方は帰っていったのだ。

 翌日国境の砦に向かおうと準備を進めていると、そのドワーフ親方が引っ越し準備を整えた何人かのドワーフ族やエルフ族を連れてきたのだ。

 彼等はドワーフ親方の弟子や、ドワーフ親方が見込んだ技術者集団だった。

 彼等は何とか俺の技術を盗みたいと目をぎらつけた現れたのだ。

 彼等は俺に向かって

「師匠!弟子になります。

 これからよろしくお願いします!」

等と大声で押しかけ弟子になると挨拶するのだ。

 ドワーフ親方をはじめ、国宝級の失われそうな技術を持つ者達だが、オーマン国王になった白神虎にしても、彼等の向上心を止められる者はいなかった。・・・新国王になった白神虎や后のヨウコさんも技術力の向上には積極的で大きな金床や鎚をドワーフ親方に餞別として送っているのだ。

 俺は帰国間際に国宝級の技術者集団も手に入れたのだった。

 国境の砦には転移魔法が使える者は転移で先に行くつもりでいたのだ。

 転移魔法を使えない者は帰国の際乗る馬車で行くのだ。

 技術者軍団がその馬車に取り付いて、、凄い勢いで何やかやと相談しながら馬車が再度組み立て直し、改良していく。

 俺が最初に造った馬車はどことなく実用一点張りで武骨だったものが、繊細な模様があしらわれた優雅な馬車に変身し、足回りも強化されて乗り心地がさらに良くなっていたのだ。

 ただ彼等には今まで無かった技術、特に足回り、板バネを使ったサスペンションや真円の軸や車輪に興味を持ったようだ。

 板バネから普通のスプリングを考えつき、ヒントを与えると油圧のサスペンションまで考えついたようだ。

 油圧のサスペンションは、油漏れが激しく油まみれになって奮闘している。

 地下ダンジョンのゾンビが残した多数のぼろ布がこんなところで役に立った。

 彼等技術者集団が残った馬車も優雅なものに変身させていくのだった。

 俺はそれを見ながら国境の砦へ転移で着くと、国境の川を挟んだ反対側のヒアリ国側に土魔法でオーマン国側の砦をコピーするように造り上げはじめた。

 オーマン国とヒアリ国の間には国境の川が流れている。

 橋が必要だ、その国境の川に魔法の袋に入れておいた、今回の旅で造った大きなコテージを出して橋のように設置したのだ。

 丁度良い大きさで橋がかかった。

 行き来がしやすくなって作業がはかどった。

 それに仮の戴冠式を、橋替わりにかけた大きなコテージで行うことにしたのだ。

 これでルウの仮の戴冠式場の一応の形が整ってきたのだった。

 最初のオーマン国側の砦の中は軍隊が宿泊する味気ないものだったが、室内を前世のホテルのような内装にしていったのだ。

 ヒアリ国側にコピーするように造り上げた砦の内部も前世のホテルのような内装にしたのだ。

 生活するには水は必要なのだ、国境の川があるので不自由はしないのだ。

 これでルウの仮の戴冠式に出席するオーマン国の重鎮達は両方の砦で宿泊してもらうことにしたのだ。

 オーマン国とヒアリ国の間に橋のようにかかる大きなコテージでルウの仮の戴冠式を行うのだ。

 周りの風景から見ても一つの大きな城が出現して川面に映えて幻想的であった。

 翌日にはオーマン国のドワーフ親方が率いる技術者集団と俺に預けられた豪商の子供達が馬車に乗って集まってきたのだ。

 技術者集団は俺が国境の橋のように建てた大きなコテージを見て

『フッ』

と鼻で笑うと大きなコテージを解体して、組み上げ直すと武骨で実用一辺倒の大きなコテージが仮の戴冠式どころか本格的に戴冠式が行える城へと変貌を遂げていったのだ。・・・何となく悔しいが、センスの差だと思えば悔しくないわい!

 木のコテージなのでそのまま木の橋のつもりで橋桁を木で組んでいたものを、石で出来たアーチ状の眼鏡橋の上に大きなコテージを置き直したのだ。

 突貫工事という事で、少し視野が狭窄していた。・・・反省!

 ただ二つの砦や中央に造り上げられて城や石の橋桁に備え付けられた紋章の技術は俺に及ぶ者はいかな技術者集団と言えどもいなかったのだ。・・・今度は技術者集団が悔しそうだ、聖魔法を使えるのと魔力量の差だけだが!

 ところが驚いたことに豪商の双子の兄妹は聖魔法が使えるようだ。

 俺が紋章を作り上げたのを見て、偶然にその紋章をなぞると聖魔法の力が発言したのだ。・・・聖魔法の質の違いか紋章の力の二重三重掛けが出来るのだ。

 本人達の方が驚いていたのだ。

 残念なことに魔力量はそれほどでもないが、彼等は聖魔法しか使えないので、聖魔法の質が良いようなのだ。・・・しかし、これは鍛えがいがある!

 これで国境の川が氾濫しても石の橋桁が壊されたり、橋の上の大きなコテージが壊され、流されたりすることは無くなったのだ。

 仮ではあるが戴冠式のためのヒアリ国の紋章の入った陶器の作製をする。

 陶器を焼き上げるには魔法の力も借りれば2日から3日もあれば充分なのだ。

 俺が陶器造りの為に、まず陶器の窯を造り始めると、技術者集団が休息時間に興味深げに集まって来たのだ。

 この世界では普通貴族は金属の食器を使い、一般庶民は木の器を使うのだ。

 陶器は真正カンザク王国とプロバイダル王国で昔は作られていたが、今は後継者不足か陶器の作成者がほとんどどころか全くいないのだ。・・・老人しかいなくなりある一定の年齢になると知能どころか技術まで退化してしまったのだ。

 これも知能を退化させる毒苔の影響なのだが・・・!

 俺の支配下に入った国々では早急に毒苔の生育販売を禁止し、食用もさせないようにしなければならない。

 そんなある日、ドワーフ親方が訪ねてきて

「美術とか音楽などの芸能が廃れていき、繊細なものより武骨なものが好まれ、それが主流になると今までの文化が急激に衰えてきているのです。

 そのうえ、高度な技術や伝統を引き継いでいても、ある一定の年齢になるとその技術等を忘れて劣悪な商品をつくるようになってしまうのです。

 これらを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。

 私もそろそろ、その年齢に近づきつつあるのです。」

と悩みを告げるのだ。

 俺はその悩みを聞くと直ぐに、ドワーフ親方や技術者集団を集めて食生活を聞いて見た。

 やはり何人かの者が隠れて毒苔を食べていたのだ。

 毒苔を食べていた者の中でもドワーフ親方のよく似た年齢の者が

「毒苔を食べないように。」

と説明している時に発症したのだ。

 古い伝統的な工芸の木製品を作る猫族の職人だったが、知能が落ちるとともに急激に体も衰えて何も出来なくなったのだ。

 彼はオーマン国王の白神虎の最初の毒苔の患者になった。

 彼の三人の子供達が幸運にも後継者と言えるほどの技術を身につけていたが、毒苔を食べる習慣は一番下の娘以外は抜けず、意地になって毒苔を大量に食し続けた上の二人の息子は若くして父親と同じ運命をたどるのだった。

 これを見て毒苔を隠し持っていた技術者も、それを廃棄した。

 ただその後の毒苔の依存症からくる禁断症状に悩まされることになるのだ。

 技術者集団はその後も休息時間になると、俺が土をこね、ろくろを回して土の皿や器を作り上げるのを興味深げに見入っている。

 そのうち技術者集団にいた毒苔騒動の時に、毒苔を食べていなかった猫族の木工を得意とする女性が陶器造りの手伝いをすると言って土をこね始めたのだ。

 それを見て豪商の双子やアリサ公爵令嬢も土をこね始めたのだ。

 子供は泥遊びが好きなのだ。

 手が空いた技術者集団も陶器造りに参加していた。

 出来上がった陶器を窯に入れて、今はのんびりとお茶を飲みながら陶器の窯から立ち昇る煙を見ているのだ。

 出来上がった陶器を見て技術者集団も感激していた。・・・その反面、豪商の双子やアリサ公爵令嬢の造った陶器は変にねじ曲がってガックリしていたが、形が面白いので花器として使ってみると良い出来になった。

 双子やアリサ公爵令嬢はそれを見て喜んでいた。

 ルウの仮の戴冠式の準備が整った前日には、オーマン国の仮の戴冠式で国王となった白神虎と結婚して女王になる予定のヨウコさん、そしてオーマン国の重鎮達が俺が描いた紋章を付けた馬車で到着したのだった。

 人だと二、三日程もかかる行程が馬車だと一日で、俺達が以前作った石畳の直線道路を使って到着することが出来るのだった。

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