第61話 訪問使節団の帰国

 プロバイダル王国のセレスの戴冠式や園遊会等の式典の翌日には外交使節団や訪問使節団の見守る中で、真正カンザク王国とプロバイダル王国の相互不可侵条約等調印式が行われ併合の準備が進められたのだ。

 圧巻だったのは真正カンザク王国とプロバイダル王国の二つの紋章を併合の象徴として重ね合わせる儀式を、その調印式の後に行った時だった。

 俺が聖魔法で空間に真正カンザク王国とプロバイダル王国の二つの紋章を作り出して、その紋章を重なり合わせると、さらに大きな一つの紋章が光り輝きながら浮かび上がって、謁見室に飾られた大きなプロバイダル王国の紋章まで飛んで行くとその紋章が真正カンザク王国とプロバイダル王国の二つの重なり合った紋章へと変化したのだ。

 変化するとパーンと光が飛び散って謁見の間を守るように立っていたプロバイダル王国の兵士の鎧に描かれてプロバイダル王国の紋章が真正カンザク王国とプロバイダル王国の二つの重なり合った紋章へと変化していったのだ。

 出席した各国の外交使節団や訪問使節団は、その状況を唖然として見ていたのだった。・・・本当に魔法の世界観、ファンタジーな世界の表れだった。

 今まで各国とも確かに紋章に護符として力が宿る事から、紋章師は聖魔法の使い手である事とされていたのだ。しかし、実際には聖魔法の使い手は極端に数が少ないことから、紋章師よりも医師や薬師としての仕事が優先されてしまい紋章師になる者はいなかったのだ。

 紋章にこれほどの力が秘められているとが忘れ去られて、紋章師の仕事は聖魔法の使い手の親族が紋章の図鑑片手に描いていたのだ。

 謁見の間で繰り広げられた、幻想的な紋章によるファンタジーな世界の表れを見て、紋章にこれだけの力が秘められていたことを思い出したのだ。

 各国とも帰国すると慌てて紋章師に聖魔法使いを充てたが、魔力量の関係なのか俺が行った奇跡的な紋章の作用が起きなかった。そのうえ紋章の真の作用ともいえる護符の作用もほんのわずかしか発動しなかった為に、また元の状態に戻ってしまったのだった。

 鎧に防御の魔法を付与した方がよっぽどましだったのだ。それで面目を失った聖魔法使いは紋章師の仕事を禁忌の魔法にしてしまったのだ。

 プロバイダル王国の戴冠式に伴う一連の行事がつつがなく終了したので、各国の訪問使節団が帰国の途に就き始めたのだ。

 ヤマト帝国の豚皇太子の訪問使節団が最初に我が国を出国することになった。

 その際ひと騒ぎがあったのだった。

 魔法生物のゴーレムを魔法で造りだすことは知られているが、これは失われた魔法であり、現在の魔法の力では造り出すことが出来ないもので、他国では古代の遺跡から発掘されたゴーレムを使っているのだ。

 それ故一体の掃除ゴーレム、形状は至って簡単であるが独立で思考が出来ることもあり兵器として改良出来る事から流出は絶対に避けたかったのだ。・・・無理に掃除ゴーレムの組成を探ろうと分解したり、壊そうとすると雷撃したり、自国で掃除ゴーレムを研究のため持って出ようとすると爆発する等、半分は魔法生物のゴーレム技術流出の防止、また半分はヤマト帝国に対する俺の嫌がらせだったのだ。

 ヤマト帝国の訪問使節団の随行員には、掃除ゴーレムの持ち出しを禁止して、無理に持ち出した場合の爆発実験までして見せて警告していたのだ。

 それにもかからわず豚皇太子の命令で、無理に掃除ゴーレムを持ってかえろうとしたヤマト帝国の随行員の蛮行により、掃除ゴーレムが自爆してしまった。

 その結果として持ち出そうとしたヤマト帝国の随行員を含めて多数の死傷者を出してしまったのだ。

 警告したのにもかからわず持ちかえろうとしたのだが、ヤマト帝国の豚皇太子は「こんな危険なゴーレムを置いてあるからだ。」

とこれを機会にして我が国の非を鳴らし始めたのだった。

 帰国しようとしている、大勢の他国の外交使節団の面前において、俺に対してヤマト帝国の豚皇太子が難癖をつけてきたのだ。

 ヤマト帝国は、このインドラ大陸最大で古より続く巨大な版図を有する国家であり友好国も多数存在する。そのヤマト帝国が帰国するためにセレモニーが行われ大勢の他国の外交使節団が集まっている最中においてだ。

 死者の残留思念の映像化は黒魔法で古くから使われていたが、精神感応能力の具現化で死者の無念の精神的なダメージが深刻であり、魔力量がものすごく必要なためもあり、これもまた失われた魔法であり、忘れられた魔法技術と言われているものである。

 この死者の残留思念の映像は犯罪捜査を推し進めるために、やはり王立幼年学校魔法分校や将兵学校の魔法学科の俺達教員によって研究されていたのだ。

 俺は膨大な魔力量を誇り、精神的にも強靭である事から、死者の無念として残る残留思念の映像化の魔法を復活させ使うことができるようになっているのだ。

 俺の妻達の中でも精神的にも武道にも優れた世界樹の守護者と青龍の融合体であるモンでさえも精神的なダメージが酷いようで、今のところ残留思念の映像化は俺だけが使うことが出来るのだ。

 そのうえ、豚皇太子が宿泊していた迎賓館の中に置いてあったガーディアンゴーレムでヤマト帝国の訪問使節団の動向を覗いていた等と暴露するわけにはいかないからだ。

 俺は掃除ゴーレムの自爆で亡くなり、棺に入って帰国しようとしている頭部は何とか無事であったヤマト帝国訪問使節団の随行員の死者の残留思念の映像をプロバイダル王国の王城の壁に大写しで映し出したのだ。

 その残留思念の映像を帰国しようとした大勢の外交使節団に見せている間に、ヤマト帝国の豚皇太子は棺の随行員の死体と俺が作った陶器の土産を残したままで、挨拶もそこそこに逃げるように帰国していったのだった。

 嫌がらせで亡くなった随行員には気の毒なので、見舞金と俺が作った陶器の土産を付けてヤマト帝国に送ったのだった。

 ヤマト帝国の帝王のもとに届いた俺が作った陶器の土産を見て、帝王はうなずき、皇后は怒り狂て投げつけ踏み割ろうとしたが、いくらやっても割れなかった為に宝物庫にお蔵入りされたそうだ。・・・帝王は時々宝物庫に入り俺が作った陶器の土産を見入っていたそうだ。

 その後も大勢の外交使節団や訪問使節団の帰国に合わせてセレモニーを行い次々と送り出していくのだった。その大勢の外交使節団や訪問使節団の随行員の中には大使館を建て、ついて来ていた商人が商館を建ててプロバイダル王国に残る者も現れたのだ。

 プロバイダル王国に残る者の中には、アンリケ公国使節団の団長を務めたアリサ公爵令嬢もその一人である。今回の目的の一つである内航海運業や港湾施設の知識や技術習得の為に、このまま真正カンザク王国やプロバイダル王国に残りることになったのだ。

 アリサ公爵令嬢は15歳になった事から、そのお披露目を兼ねてアンリケ公国使節団の団長としてプロバイダル王国に来ていたのだ。アリサ公爵令嬢は知識や技術習得の基礎となる、基礎的な学習能力の習得の為に王立幼年学校附属魔法分校に留学する事になっているのだ。

 いきなり15歳という年齢だけを考えて、前世の高校1年生にあたる士官学校に入学させるわけにはいかなかったのだ。

 アリサ公爵令嬢が留学としてのこる事から、数少ない外交使節団の随行員が、そのままほとんどアリサ公爵令嬢と共に真正カンザク王国に残ることになってしまったのだ。

 アンリケ公国に対する今回の外交結果等の報告は、外交使節団のうち二名の随行員がアンリケ公国の隣国で、アリサ公爵令嬢の叔父にあたるカボサン王国の外交使節団等小国の同盟国とともに同行して帰国することになったのだ。 

 大勢の外交使節団や訪問使節団を送り出した後に、最後に残ったのはアンリケ公国のアリサ公爵令嬢の他には、真正カンザク王国やプロバイダル王国に接する隣国の亜人国家オーマン国と砂漠の王国ヒアリ国の外交使節団の二国が残ったのだ。

 ウサギの国王が治める亜人国家オーマン国の外交使節団が国に戻ることになるのだが、・・・今回の騒動でキツネの宰相やその配下が捕らえられて随行員がほとんどいなくなってしまったのだ。

 オーマン国のウサギの国王と僅かに残った外交使節団の随行員とルウだけで、王位簒奪を目論んだキツネの宰相とその手の者の身柄を拘束してオーマン国に連れて行かなければならない。

 とても無理な状況から、俺達真正カンザク王国及びプロバイダル王国両国の者がオーマン国外交使節団を送ることになった。

 オーマン国に使節団を送るのは、俺と俺の妻達、巡検士部隊隊長をヤシキさんが勤め、巡検士部隊隊員男女合わせて30名を率いて送ることになったのだ。

 俺としては隣国の現状をこの目で確かめたかったのだ。

 巡検士の隊員の中には6人の忍者や三羽烏とシズル、白愛虎がいた。

 巡検士見習いに木こりのジャックやキャサリンとシンディがついてくることになった。・・・腕試しだ。すぐ正式に巡検士や色々な仕事についてもらうことになりそうなのだ、特にジャックは俺の影武者になってもらうこともあるからだ。

 アリサ公爵令嬢は、護衛のヤシキさんも亜人国家オーマン国に向かうことから、他国の状況把握と研修を兼ねて同行することになった。

 俺達が亜人国家オーマン国に向かうことを聞きつけた砂漠の王国ヒアリ国の外交使節団団長の豊満な肉体を誇る王女サマティーヌが同行を申し出てきたのだ。

 王女サマティーヌはプロバイダル王国に外交使節団として来訪した時から、種族の壁を越えて超イケメンのヤシキさんに秋波を送っている。

 ヤシキさんは前世の俺と同じで、少し朴念仁なところがある。それ故か、トカゲ種族の蠱惑の目で見られても王女サマティーヌにはなびかないのだ。

 最初は陸路のみで魔の森と接する亜人国家オーマン国に向かうつもりだった。

 ヒアリ国も同行を求めてきたことから、陸路を使ってプロバイダル王国に接する亜人国家オーマン国に向かい、続いて砂漠の王国ヒアリ国に向かうつもりであった。

 しかし陸路では時間がかかる事からカンザク大河や運河を利用して真正カンザク王国の隣国であるヒアリ国を通ってオーマン国に向かう事になったのだ。・・・ヤシキさんからも強い要望があったのだ。やはり王女サマティーヌの熱い眼差しに心が揺さぶられるようなのだ。

 運河を利用するということを聞いて、同行者である漁業国家のアンリケ公国のアリサ公爵令嬢は喜んだ。

 漁業国家といっても海は川の水生魔獣や水生動物よりも危険な事から跡継ぎでもあるアリサ公爵令嬢は船に乗ることを禁止され乗った事がないのだ。

 船に乗ると言う初体験が出来るうえに、内航海運業や港湾施設の実態を実際に見ることができるからだ。

 プロバイダル王国王城の近く港湾施設から船に乗り込みヒアリ国とオーマン国に向かうことになったのだ。

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