第59話 園遊会

 プロバイダル王国女王セレスの誕生を告げる戴冠式の式典の後は、プロバイダル王国王都民に対してお披露目のパレードを実施することにした。

 このパレードは急遽、軍事力など国力を表すために行うことにしたのだ。

 パレードの先頭は、可愛いプロバイダル王国王立幼年学校の生徒でつくった軍楽隊が進む。

 可愛いだけで軍楽隊とは言い難い状況だった。・・・ラッパと言ってもほら貝のような

『プーゥオン』

というような単音だけしか出ない、トランペットのようなピストンもバルブも無い代物と太鼓の

『ダンダン』

と打ち鳴らしているだけだ。


 この世界にはなんと笛のようなものもないのだ。

 美術もそうだが音楽などの芸術もあまり発達していない。

 これは酷い何とかしなければならない!


 俺は芸術関係、高度な工芸品を生み出す工芸作家の育成、絵画や彫刻家の育成、宇宙エルフ族の音楽を聞かせて作詞家等の音楽家の育成、それに合わせて楽器の作製など思いつくこと全てを部下に命じてやらせてみた。・・・命じられた部下が教養も知識もないので呆然としていた。


 俺も前世は武道馬鹿で芸術関係には疎い。

 ただ憧れの宮本武蔵の五輪の書や宮本武蔵の絵を見て絵画においては努力したのだ。

 それで土産の皿の絵付け等は俺がした。

 確かにこの世界でも過去には名工と呼ばれる人はいたはずなのだが、いまは全く見かけないのだ。

 ゼロからの出発である。


 そんな手配をしながらパレードは進む。

 可愛いだけの軍楽隊の後ろを1個師団1万人が、国内を巡行した際に使ったプロバイダル王国の紋章が付いた馬車に乗る女王セレスや俺を守るように進んだ。


 現在のプロバイダル王国軍は王城の守備兵としての近衛兵以外で1個師団1万人が揃うようになった。・・・敗戦国から国の基盤である打ち捨てられた農地、農民に希望を与え見事に農業を建ち直させ人口が増えた結果なのだ。


 パレード自体が全くの初めてのことであり、告知もしないで行ったことから王都民は1万人もの兵が進むのを見て、何事だろうと恐れて家からそっと見ているだけだった。・・・告知しなかった事から、また戦争や内乱でも起きるのかと思い家に閉じこもってしまい、見学者がほとんどいなかったのだ。

 今回のパレードは失敗だったな!


 失敗に終わろうとしているパレードの間にプロバイダル王国王城内の戴冠式を終えた謁見の間と庭をつなぐ大きな窓が開かれて園遊会の準備が行われていく。


 この戴冠式や園遊会の式典の翌日には真正カンザク王国とプロバイダル王国の相互不可侵条約などが結ばれ併合の準備を進ませるのだ。

 これで名実共にヤマト帝国には、まだまだ比肩できるほどとは言えないが、大国の一つに仲間入りすることになる。

 その条約を結ぶ前に、戴冠式とパレードの後で園遊会が行われる。


 この園遊会もこの世界では初めての試みだ。

 今までの外交の場ではお互いに外交文書に署名して、握手をして別れてしまう。

 園遊会のような社交的な会は毒殺を恐れて設けられていなかった。

 常に友好を結んだ国同士でも、いつ敵国になるかもしれないという疑心暗鬼に苛まれ外交文書の取り決めを破って、いつの間にか敵対してしまうことが良くあるのだ。

 彼等は皆、寝首を搔かれないようにしているのだ。


 国内でも余程気心が知れていないとお茶会などにも誘わないものだ。

 信義の思想が無いのだ。・・・信義、約束を守り、義務を果たすという思いが無いのだ。

 これは教養の根本である識字率が低く、それによって精神的にも未成熟な為なのだろう。


 今回の園遊会も、お互いに毒殺を恐れて飲食物や料理は自国の持ち込みの品がほとんどである。

 それを思って調理場を謁見の間の近くの通路に調理場を設けている。

 自国の調理された食べ物を自国の女官達が運んでくる。


 運んでいる女官達の民族衣装が面白い、色々な国の訪問使節団の随行員の中の女官達が集まって衣装について話しをしている。

 ただ着ている民族衣装は模様も入っていない、単色の布で出来ており、染色技術等はあまり進んでいないようなのだ。・・・染色技術だけでなく服飾関係についても今後研究してみよう。・・・フッフッフ以前俺が作って着せた女性用の水着を思い出してしまった。

 他国の女官達の服装を見て急遽、女官達が気に入るような装飾品や模様の入ったカラフルな布も展示販売する事にした。


 民族衣装に比べて、調理されて出されてくる料理はどれも似通っている。

 塩をまぶして焼いたり燻製しただけの肉料理が多い。

 そのうえ集まった人々が皿から手づかみで食べ物を取って食べ、食べ残った骨や殻を床に投げ捨てる野蛮人の集団だ。

 各国とも識字率の向上による教養とマナーを身につけてもらいたいものだ。


 俺の妻達も俺と出会う前は、食べ残った骨や殻を床に捨てて美味しさを表す等と言っていたが、俺が露骨に嫌がったのでしなくなった。

 皿を取り替えることでそのような事はしなくなるのだが、真正カンザク王国のように陶器の技術は他国ではないようだ。

 それで、他国が持ち込んだ食器は良くて金属それも丸いだけの装飾の無い銀食器悪ければ木の食器を使っているのだ。


 陶器の売り出しも、この会場で行って見た。

 土産物の陶器の販売は好調だった。

 土産には俺とセレスの姿が描かれた陶器の飾り皿を渡すことになっている。

 同様なものは高級すぎるのと紋章師が今のところ俺だけで、購入までに時間がかかると不評だった。・・・興味を持ってくれる人もいたのだが。


 園遊会場で自国が生産した飲み物持ち込んで飲んでいる。

 飲んでいる酒はワインやビールが多いようだ。・・・俺は時々他国の酒を飲んでみる。

 耐毒性のスキルを身につけているのでいくら強力な毒が入っていても大丈夫だ。

 どれも冷えているようで、水魔法の氷魔法を使える者や、氷魔法の付与された移動式の冷蔵庫や冷凍庫がどの国にもあるようだ。

 ただ、これらの酒は美味しくない!


 俺はこのような社交的な場において自国の特産品を売れるような場所にすれば海外との貿易が出来るのではないかと思って、特産品の清酒や蒸留酒等のお酒の試飲のブース等を設けているのだ。・・・自画自賛になるが他国のまずい酒よりはるかに美味しさが上回っている。

 特産品のお酒の試飲の出来るブースでは、毒殺を恐れて使節団でも主要なメンバーは試飲する者はほとんどいなかったが、使節団の随行員としてついて来ている商人が味見をしていたのでこれで良しとしよう。


 やはり、他国と商いを求めたがる商人は多いようだ。

 盛況だったのは、後から急遽他国の女官達用に出した装飾品や布などのブースで他国の女官どころか自国の女官達も姦しく話しながら商品に群がっていた。

 後で聞いた話によると特に装飾品ばかりでなく、綺麗に彩られた装飾品を入れる鍵付きの小箱が人気だったそうだ。


 普通、今までは治安が極端に悪いために装飾品は貴金属のメダルや板・・・(これが全財産なのだ。)を身に纏い出歩いていた。

 それを持ち運びしやすい装飾箱にした事だ。

 それでも重そうなので、俺は前世における銀行で貴金属を預かる貸金庫を思いついたのだ。

 この事業は好評だった。


 園遊会という名称にしたが、ここでも優雅な音楽が演奏できる楽団も無いことから、社交の場と言うよりも、何処か得物を狙う者達の群れが動いているようだ。

 やはり楽団をつくり上げていかなければ、それに美術品も無い事から場に潤いが無い。

 園遊会中に真正カンザク王国やプロバイダル王国の隣国の国家の使節団が俺に挨拶に来る。


 当面の仮想敵国はヤマト帝国であるが、どうもヤマト帝国の豚皇太子とは生まれた時からの確執もあるためか、基本的に気が合わないのだ。

 お互いに顔を向け合っているが、心の中ではそっぽを向いて白々しく挨拶を交わしてしまった。

 ヤマト帝国の豚皇太子の姉、二人の義理姉の嫁ぎ先の国も来ていたが、付かず離れずの関係にしたかったのか二人の義理姉は出席していなかった。


 両国にも渡した土産の陶器の中央には、俺とセレスの姿が描かれているデザインになっているので、大きく育った・・・(身長2メートルもある大男)俺の顔位は覚えてもらえるだろう。

 紋章の効果で、この陶器は壊そうとしても壊れないのだ。


 仮想敵国のヤマト帝国の隣国の国々も我が国に隙があれば、ヤマト帝国と歩調を合わせて侵攻してくるかもしれない。

 特に挨拶に来たプロバイダル王国の隣国で不気味なのが、亜人族の国家であるオーマン国と、我が国の南カンザク地方で接する同じく亜人国でトカゲの亜人族が治める砂漠の国家であるヒアリ国の二国であった。


 オーマン国とヒアリ国は隣国同士であるが、亜人族でも人種問題があって哺乳類の亜人族とトカゲのような爬虫類とは仲が良くないのだ。

 特に砂漠に追いやられたと思っているトカゲの亜人国家の方がオーマン国を良く思っていないようだ。・・・人類も砂漠に追いやったと思って敵視している。

 人類と亜人は種族の違いから、昔から良く戦っている。

 人類は人とよく似た亜人の姿に恐怖を覚え、亜人は昔から人類に家畜や奴隷のように扱われた恨みを持っている。


 プロバイダル王国女王セレスの戴冠式の後に行われた園遊会で亜人国オーマン国とヒアリ国の二国が挨拶に来た。

 そのうちの、ヒアリ国の使節団の団長はトカゲの亜人族だが、普段は外見上は人族のような豊満な肉体を誇る美女としか見えない王女サマティーヌだ。・・・ただ目がどうしても爬虫類の目なのだ!

 副団長は宰相を名乗る大きな尻尾を持ったトカゲの亜人で二人とも何を考えているのか分からない。


 俺の妻達の精神感応の力をもってしてもヒアリ国の団長のサマティーヌや副団長の宰相どころか随行員の思考までもが読めないのだ。

 トカゲの亜人族の人種的、種族的特性で精神感応の力に耐性をもっているのかもしれない。

 ヒアリ国には悪い噂が二つ流れている。


 その一つが王女サマティーヌだ。

 普段外見上は人族の姿で豊満な肉体を誇る美女である。

 サマティーヌは、その豊満な体と蠱惑的に光る爬虫類の眼で男を誘惑し、寝床に誘いこみ性行為に及ぶと、その最中に性的興奮に我を忘れてトカゲの亜人族の姿に戻り、誘惑した男を頭から食べてしまうというものだ。

 カマキリの性行動と同じ共食いと呼ばれる行動が起こると、まことしやかに噂として流れているのだ。


 もう一つがヒアリ国自体が砂漠の盗賊団だという噂だ。

 幾十、幾百の隊商が砂漠の国家ヒアリ国の砂漠の中に消えたことからくる噂だ。

 特に今回、隣国亜人族の王国オーマン国からプロバイダル王国の女王セレスに送られる予定だった、オーマン国の紋章が入った曲刀の宝刀を携えた百人規模の隊商がヒアリ国の砂漠に入った途端、連絡が途絶え消えてしまったことが噂を強めているのだ。


 もう一つの亜人族国家オーマン国から来た使節団の団長をウサギ族の国王自らが勤め、副団長がキツネ族の宰相が勤めていた。

 ウサギ族の国王と談笑している際に、国王の娘が亜人狩りにあって行方不明になったので、その娘を探しているという話をしたのだ。

 国王の娘が亜人狩りにあった時期や特徴、

「ルウ」

と言う名前を聞いて、思わず俺は後ろにいる女官の

「ルウ」

を見るために振り返ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る