第33話 南カンザク王国の王の最後

 元南カンザク王国の王が馬車から降りて出てきた。

 俺が亡くなったカンザク王国の王太子を連れて、元南カンザク王国の王都で出会った時は、どことなくオドオドして人の良い小太りのおっさんだったが、今は額に出来た不気味な大きな瘤から黒い魔石の禍々しい気配が漂っているではないか。

 その禍々しい気配が実態となって真黒な霧が額の瘤から染み出して国王の体を覆っていく、禍々しい真黒な霧を纏った怪物になって、俺達に向かってくるのだ。


 その実態となった禍々しい真黒な霧が、倒れた敵の兵士に触れると、いきなり腐臭を放ちながら立ち上がり、ゾンビとなって大きく口を開けて、敵味方関係なく生あるものに食らいつていく。

 立ち上がった兵士の首から王と同じように真黒な霧が発生する。

 その霧に触れても、同様に倒れていた兵士をゾンビ化していくのだ。

 逃げようとした、兵士に王の真黒な霧が触れると、その兵士は首のネックレスと喉を押さえて苦しみ、もがきながら絶命する。

 その兵士もゾンビとして立ち上がってきた。


 よく見ると兵士の半数の者が同じようなネックレスをしているではないか。

 そのネックレスが真黒な霧に触れると反応して、禍々しい気を放つ真黒な魔石のネックレスとなり倒れた兵士はすぐゾンビとなった。

 生ある兵士は黒い霧に触れると、命をネックレスに吸い取られ、禍々しい気を放つ真黒な魔石のネックレスになってゾンビへとなっていくのだ。


 敵国、元南カンザク王国の王女と騎馬軍団長が父親である国王の異変や兵の異変に気付き武器を投げ出して降伏する。

 俺は、王女のネックレスを引きちぎる。

 俺に向かってきたゾンビの口にそれを押し込む。

 ゾンビは喉を押さえると崩れて倒れるが、しばらく苦しむが口の中にいれた王女のネックレスの禍々しい気を放つ真黒な魔石を取り込んだのか、ゾンビの胸のネックレスの禍々しい気を放つ真黒な魔石が大きくなる。

 騎士団長のネックレスも引きちぎり、今度は地面に投げ捨てると、黒い霧を発しながら消えていった。

 俺の行動を見て、敵、南カンザク王国の兵士達が自分のネックレスを引きちぎり地面に投げつけると、武器を捨てて降伏する。


 敵、南カンザク王国の兵士の半数がゾンビ化し、半数が降伏した。

 だが、ゾンビ化の流れが止まらない、ネックレスをしていないカナサキ村の住民の中にもゾンビ化する者が出てきた。

 真黒な霧が死臭を漂わせながら広がっていく。

 そのうち、近衛の見習いと女官見習いの子供達どころか、戦いのために残っていた皇后や宰相夫婦の随行員の中にもゾンビ化する者が出てくる始末だ。

 一頭の軍狼がゾンビ化して黒い牙を仲間の軍狼に向けてくる。


 そのうちに、南カンザク国王の周りにいたゾンビが集まり肉人形が出来上がりはじめた、肉人形の額には南カンザク国王の顔が覗いていた。

 その付近にいたゾンビもまた引き寄せられるように集まり始めた。ゾンビによる巨大な肉人形が出来上がっていく。

 その肉の塊の額の南カンザク国王が

「化け物の王女と騎馬軍団長よ敵を倒せ!喰らい尽くせ!」

と地の底から這いずり出るかのような不気味な声をあげている。

 顔に醜い火傷の痕が残った王女より、余程肉の塊となった元南カンザク王国の国王の方が化け物なのに!


 肉の塊の一部となったゾンビの持っている禍々しい気を放つ真黒な魔石が巨大な肉人形の額から生えたようになっている元南カンザク国王の額の瘤に向かって集まっていく。

 禍々しい気を放つ真黒な魔石が大きくなっているのだ。

 禍々しい気を放つ真黒な魔石によるとんでもない爆発を思い出した。

 モンが元南カンザク王国の王女と騎馬軍団長を連れて来た。

 モンを介して王女と騎馬軍団長の思念が流れ込む。二人の苦しみと後悔に彩られた思いが流れ込んだ。


 不思議な感じがして二人をよく見ると、二人の肩甲骨にも別の文化から考えられた付帯脳がついている。

 また別の文化のステータス画面も持っているではないか。

 その別の文化の言語が蜘蛛型生物の言語なのだ。

 俺は蜘蛛型生物の言語習得能力のスキルがあるので、ステータス画面の内容を見ることができる。

 これにより蜘蛛型生物も宇宙エルフ族と同様の技術力を持っているのがわかったのだ。

 俺のステータス画面と彼女達の持つステータス画面がリンクしてみる。王女と騎馬軍団長の二人が驚いて見ている。


 禍々しい気を放つ真黒な魔石の爆発を抑え込むことにする。

 いまいる俺やモン、王女と騎馬軍団長を含んだ、この四人ではとても無理だ。

 もっと必要だ。

 クリスがクリスティーナの部屋にある付帯脳の力を借りて割り込んできた。

 クリスは湖畔の館にいるユリアナとセーラの二人と付帯脳の力で意識をリンクして魔力を送れると言う。

 クリスは滝の裏に設置した蜘蛛型生物の乗る救命艇のウニのように飛び出した棘は優秀な魔力などの伝達機能を持っていると説明した。


 俺の意識の中にクリスとユリアナ、セーラの意識が流れ込んでくる。

 今度はモンを通じて元南カンザク王国の王女と騎馬軍団長の意識が俺に流れ込んでくる。

 ユリアナとセーラの意識と元南カンザク王国の王女と騎馬軍団長の意識が反発するが、俺が皆の意識を統一し魔力に変えていく。

 巨大な流れ込んでくる意識が魔力に転換されていく。

 ステータス画面の魔力量の分母が無限のマークになった。

 それでも魔力量の分子はまだ一杯になっていない。


 その間に、巨大な肉人形の元国王の額の瘤の皮膚がはじけて、瘤の中から巨大な禍々しい気を放つ真黒な魔石が顔を出す。

 まだゾンビが集まり巨大化している。

 巨大化をまず止めなければならない。


 俺は守り刀を抜くと、その刀に向けて集まった魔力量を流しこんでいく

『バ~リ』『バ~リ』『バ~~リ』

と刀身が稲光と稲妻で真白に輝く。

 その稲光と稲妻を巨大な肉人形へ向けて、稲妻の檻を作って放つ。

『バ~リ』『バ~リ』『バ~リ』『バ~リ』

と稲妻の檻が作られ巨大な肉人形を囲む。

 巨大な肉人形が逃げようと稲妻の檻を大きな手で掴む、

『バ~リ』『バ~リ』『バン』『バーシュ』

という大きな音と共に巨大な肉人形の手が燃あがる。

 今度は巨大な肉人形が稲妻の檻を殴りつける。

『バーシュ』『バーシュ』『バーシュ』

と殴る拳が燃え上がっていく。


 俺は稲妻の檻を小さくしていく。

 慌てたように巨大な肉人形が稲妻の檻に体当たりを狂ったようにはじめる。

『ドーシュ』『ドーシュ』

と稲妻の檻にぶつかる音と共に巨大な肉人形が焦げる嫌な臭いと音が混じる。

 俺は容赦なく稲妻の檻を縮める。

『ブス』『ブス』

と音を立てて巨大な肉人形が焦げながら縮まっていく。

 檻に入れた時に比べて半分ぐらいの大きさに縮まっていく。


 よく見ると、燃えて縮まったのではなく、奴の額の瘤から出てきた巨大化した禍々しい気を放つ真黒な魔石に巨大な肉人形が魔力に変えられて吸い取られていくのだ。

 マズイ!以前の禍々しい気を放つ真黒な魔石の爆発の兆候だ、思った以上に禍々しい気を放つ真黒な魔石が大きい。

 これでは一人二人が増えたところで抑えきれないマズイ、マズイ、マズイゾ‼


 俺は禁断の魔法、時の魔法を使う、次元のずれがおきる。

 俺は風魔法で、稲妻の檻を持って空に押し上げる。

 俺は稲妻の檻ごと奴を時の魔法の次元の狭間に押し込む事にしたのだ。

 その時、時の魔法の次元のずれの反対側から時計がついた黒い指が何本か這い出てきた。

 時の番人だ!時の番人によって次元のずれが反対側から押し広げていく。

 時の番人は、真黒な体に一杯時計がついた体を半分ほど外に出すと、その手で稲妻の檻を掴む。


 時の番人は砂時計で出来た時の牢獄を取り出すと稲妻の檻をその中に入れた。

 時の番人は一瞬、時計で出来た目で俺を見たが、稲妻の檻を入れた時の牢獄を持ったまま、次元のずれの中にズルズルと戻っていく。

 時の番人の身体が次元のずれの中に消えていく。

 時の牢獄の中で黒い爆発が起こったのか、次元のずれが少し揺れる。

 次元のずれが少しずつ消えていく。


 元南カンザク王国の国王が亡くなったというより消滅した。

 俺は空の上で魔力量が切れをおこして、頭から地面に落ちていく。

 モンも元南カンザク王国の王女も騎馬軍団長も魔力切れでひっくり返っている。

 空から落ちてくる俺を誰かが受け止めた。

 俺は受け止めた誰かに抱かれながら気を失ってしまった。

 翌日気が付いたら、俺は湖畔の館の地下室に設置してある医療用のポットの中で目を覚ましたのだ。

 医療ポットから外に出ると、モンとクリスとユリアナとセーラ、さらには元南カンザク王国の王女と騎馬軍団長の六人が待っていた。


 俺は六人に連れられて上にあがり、湖畔の館にある謁見室にいく。

 そこにはカンザク王国の皇后様と宰相夫婦達が待っていた。

 上座にいた皇后様と宰相夫婦が下座に下がる。

 俺をユリアナと元南カンザク王国の王女が皇后様や宰相夫婦のいた上座にひぱって来て玉座のような立派な椅子に座らされる。


 俺が椅子に座ると、ユリアナとセーラによく似た上品な顔つきの皇后様が俺に

「貴公に真正カンザク王国の国王になってもらいたい。なぜならカンザク王国国王と王太子、南カンザク王国国王が亡き今、カンザク王国と南カンザク王国の統一国家、真正カンザク王国をつくり、その初代国王になってもらいたいのです。」

と懇願された。


 元南カンザク王国の王女と騎馬軍団長は武器を後ろ置き、膝をついて臣下の礼を取ると、

「私達は貴方に忠誠を誓います。」

と言って、これまでの経緯いきさつについて話し始めた。

「私、元南カンザク王国の王女セレスティアと騎馬軍団長のクロアティアスは元南カンザク王国の国王の娘で、双子として生まれてきたのです。

 この国もまた双子は不吉であると、騎馬軍団長のクロアティアスは父王の弟前騎馬軍団長の家の前に捨てられて養女になったのです。


 その直後に魔王が元南カンザク王国にあらわれ、南カンザク王国の復興を約束する際、蜘蛛型生物の精子を王女に植え付けようとしたのです。

 それを嫌った王女が火魔法を放ち、蜘蛛型生物を燃やしたが、王女も顔の右半分にも醜い火傷の痕を残してしまったのです。

 何かの呪いか火傷の痕は治癒魔法では治らなかったのです。

 それ以降は表向きは騎馬軍団長のクロアティアスが、王女の代役をしていたのです。


 それで、カンザク王国の王太子と出会ったのは騎馬軍団長のクロアティアスだったのです。

 その頃に、また魔王があらわれたのです。

 魔王と父王と出会った翌日、父王の額に醜い瘤ができたのです。

 そして、その時に黒い魔石の付いたネックレスを南カンザク王国の精鋭部隊等に渡したのです。

 ただ精鋭部隊の隊員の中にはネックレスなど戦場で付けられないと半数以上がネックレスをしていませんでした。

 南カンザク王国の国王は魔王と出会った直後から人が変わったようになり、カンザク王国国王と王太子をあやめてしまったのです。


 セレスティア王女とクロアティアス騎馬軍団長は、父王の蛮行を止めようとしたのですが、南カンザク王国の国王の瘤に二人は一時、意識を飲み込まれてしまい。

 その瘤から意識を外に出された時には、その瘤の力でセレスティア王女とクロアティアス騎馬軍団長は国王に操られるようになってしまっていたのです。


 ただカナサキ村での戦闘となり、禍々しい気を放つ真黒な魔石によるゾンビ化が始まった際に、操られる力が弱まったのですが、まだ首に付けたネックレスを自力では取り外せなかったのです。

 貴公があの時、ネックレスを取り外してくれていなければ肉の塊となって、一生を終えたでしょう。」

と語ったのだ。


 この戦いで多数の人的資源が失われた。

 カンザク王国国王や王太子はもちろんのこと、万の数を誇った近衛の師団が失われ近衛の団長も行方不明である。

 南カンザク王国の精鋭部隊も半数がゾンビ化して亡くなり、カナサキ村の住人も半数以上が亡くなってしまったのだ。

 俺の近衛見習いや女官見習いの子供達のほぼ半数にのぼる者がゾンビ化して亡くなってしまった。


 俺達はカナサキ村の復興と亡くなった者の冥福を祈るため大きな碑を建てることにした。

 俺は真正カンザク王国国王として署名し、皇后様と宰相、元南カンザク王国の王女セレスティアが署名した

「終戦と統一国家誕生」

のビラを大量に真正カンザク王国の国中に配布したのだ。

 それが功を奏したのか、その噂を聞きつけて、近衛の師団の生き残りが集まって来た。

 その中に近衛の団長が戸板に乗せられ重傷を負って戻ってきた。

 怪我人はセーラとクリス、南カンザク王国の王女セレスティアが治療していく。さすがに近衛の団長の怪我は三人でも治療できず、俺も手伝って治療した。


 南カンザク王国の王女セレスティアの右頬の火傷の痕は古すぎて、医療ポットでも治せなかった。

 俺は滝の裏の家の図書館でクリフに聞きながら、火傷の痕の治し方を調べた。見つけた!

 王女セレスティアを医療ポットに入れて眠らせて、治療台に運ぶ。

 俺は王女の大きな火傷の痕を皮膚ごと切り取った。

 火傷がかなり深くまで及んでおり、骨の一部にまで及んでいたが、全て切り取ると、俺とセーラとクリスの三人で再生を始める。


 魔力量が足りない、モンが俺の背に手を乗せて魔力を送ってくる。

 それを見たユリアナがセーラの背中を、南カンザク王国の騎馬軍団長のクロアティアスがクリスの背中に手を置いて魔力を送り始めた。

 王女の右頬の傷跡が銀色に輝きはじめると、骨が再生され、肉が盛り上がり始めた。王女の右頬の筋肉が形成され、血管が形成され、神経が形成されていく。

 最後に顔の皮膚が形成されて銀色の輝きが消える。

 治療を終えるとほぼ魔力を使い切ったようだ。


 肉団子になった南カンザク王国の国王との戦闘以降、魔力量の分母が無限大になってしまった。ところが分子がなかなか無限大にならない。

 弱ったものだと思っていたら、ガーディアンゴーレムと白愛虎、アカネ、ヨウコが手分けして俺達を医療ポットやポットに入れていくのだった。

 俺が時の魔法を使った時に魔力切れで、空から落ちてくる俺を誰かが受け止めたのを思い出した。

 今俺は薄れゆく意識の中でアカネに抱かれていた。

 抱かれた感触から、落ちてくる俺を受け止めたのがアカネだったと判った。アカネに抱かれながら俺は気を失っていった。

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