第26話 カンザク王国の男爵邸、蔦の絡まる我が家
俺達はカンザク王国から拝領した
「蔦の絡まる館」
幽霊の出る
「呪いの館」
と別名を持つ蔦の絡まった古びた洋館に着いた。
カンザク王国の王城の内から
カンザク王国の国王と宰相に結婚の宣言で面会するまでの一週間、いつものとおり宰相の別邸で泊まるわけにいかないので、この洋館に泊まることになったのだ。
古びた洋館の入り口を塞ぎ、洋館を覆った蔦はモンが手を触れると見栄えが良くなる形で小さくなり、洋館の周りの庭はアオイが男爵邸に
ところが洋館の中に入ると長年にわたり人が住んでいなかったのにもかかわらず、埃一つ落ちておらず、床板も磨かれ黒光りしているのだ。
入り口の重厚なドアを押し開けると広い玄関ホールがあり天井には大きなシャンデリアが下がっている・・・?ガラスを作る技術は宇宙エルフ族しか持っていなかったはずなのに。
玄関ドアの両脇と、玄関ホールの四隅に合計6体の全身鎧の戦斧(バトルアックス)を持った人形が飾られていた。
それは俺と同じ身長2メートルで銀色に鈍く光る全身が兜と鎧で覆われ、右手に戦斧をついて立っていた。
俺達が館内に入ると、兜の面頬の目の部分が赤く光ったと思うと戦斧を振り上げて俺達に向かって襲いかかってきた。
そいつらの動きは単調で一定のプログラムをされた動きで、一体一体が考えた動きではないようだ。
一定の位置まで行くと逆回転するようにして元の位置に戻り、しばらくするとまた動き出したが、二度目の動きは電池切れのロボットの様で動きが鈍い。
人を脅かすには十分だ。
どうやら、この洋館を守るために作られたゴーレムのようだ・・・?この技術も宇宙エルフ族の技術だが、ゴーレムの動きをもっと高度に出来たはずだが?
6体のゴーレムが戻る前にゴーレムの立っていた場所を見ると、金属の板が置いてある。これが充電板らしい。
ゆっくりと動いて戻ったゴーレム達が充電板の上に乗って動かなくなった。
どうやら、電池切れのようだ、地下に発電施設でもあるのかな?
一階や二階の室内を見るが、この時代の武骨なベットや衣装タンスが置かれているだけだ。ただ窓は、はめ殺しで窓ガラスがはめられている。
部屋は全て同じだが食堂や台所、風呂やトイレもない?
三階は広い屋根裏部屋で大きな机と椅子が並んでいる。
越屋根が作られ採光が入るようになっている。
採光のための窓は、ほとんどが窓ガラスがはめ殺しでできていた。そのはめ殺しの窓ガラスの一部が開くようになっていて、その窓まで
俺は、ためらうことなく梯子を登り、窓ガラスを開けて外に出る。
黒い屋根瓦の代りに何枚もの太陽光電池のパネルが並んでいる。これは完全に宇宙エルフ族の技術だ!
そのパネルの大半が蔦に覆われており発電が十分に行われないようだ。
モンを呼んで太陽光パネルの上を覆った蔦を取り払ってもらう。これで十分充電できるはずだ。
屋根裏部屋に戻ると、部屋の一角にある衣装ケースのようなものが開き丸い形のゴーレムが出てきて掃除を始めた。
俺達に気が付いたのか頭部が赤や青の光を点滅しながら衣装ケース(ゴーレムケース?)に隠れるようにして入った。
『カチ』
という音がしてケースの扉の鍵が閉められた。
ケースを押しても引いても開かなかった。
もう一度、一階にまで状況を確認しながら降りてみる、今までなかった地下へ降りる階段が開いており、その前に前世のメードのような白い割烹着と黒い服を着た顔のないゴーレムが立っていた。
そのゴーレムが俺の後ろにいたクリスを見つめる・・・?目が無いのだが見ているとしか思われなかった。
すぐに優雅にスカート裾を摘まんで
「お帰りなさいませ、御主人様。」
と膝を折って挨拶する。
メードゴーレムが先にたって地下へと案内する。
俺達が階段を降りて地下室に着くと、頭上の床板が滑るようにして階段に蓋がされていく、一瞬真暗になったがすぐに蛍光灯のようなライトが灯る。
滝の裏の家に入った時以来の驚きだ。
地下室には台所や食堂、風呂やトイレがあり、滝の裏の家の図書館顔負けの蔵書を持つ図書館がある。
その奥に立派な彫刻が施された両開きのドアがある。
メードゴーレムが両開きの立派な彫刻が施されたドアを静かに開く。
その部屋は書斎で三方を大きな本棚が天井まで続き、立派な背表紙を持つ大きな本が何冊も詰まっている。
何となくデジャヴュを感じる。滝の裏の家に入った時の感覚だ。
古風な大きなマホガニー材で出来た机がデンと鎮座している。
その机の天板が起きあがり、天板が画像になった。
そこにはクリスとよく似た女性が映っている。
その女性が
「ようこそ蔦の絡まるわが家へ、この部屋に来たということは、貴方は宇宙エルフ族の直系かそれに近い方なのですね。
私の作ったメードゴーレムには私とよく似た女性が来た時のみこの地下室への入室を許可するようプログラムしたのです。
私は宇宙エルフ族の元船長の孫娘で名を
『クリスティーナ』
といいます。
私の父はエルフ族の皇帝の4代目になります。エルフ族の皇帝の地位は2代目以降皇帝の地位を巡って争いが絶えませんでした。
初代様や2代様は純血の宇宙エルフ族でしたが、父は宿敵のヤマト帝国の初代帝王ヤマトの虎王と宇宙エルフ族との間に出来た子だと聞いております。
父や初代様や2代様はカプセルや医療用カプセルを持っておらず、その中に入っていれば千年の時を生きながらえることができたが、残念なことにそのようなものが無かったので、宇宙エルフ族の本来の寿命五百年近くで亡くなっております。
カプセルは持っておりませんでしたが、父には初代様や2代様と同様に不思議な力の一つ、もう一つの脳、付帯脳なるものを持っておりました。
ただ父の付帯脳もヤマト帝国の初代帝王ヤマトの虎王の守り刀
「ライジン」
が放った雷光によりデータなるものが破壊され、その刀により付帯脳は折られてしまったのです。
医療用カプセルなるものがあれば治せたようなのですが・・・。
私は、父の遺言により折れた付帯脳を体から取り出して、やはりヤマト帝国と対抗して台頭してきたカンザク王国に内戦に疲れた私は庇護を求め亡命したのです。
私はこの地で父の付帯脳を解析研究しながらこの館を作り、静かな余生を送ったのです。私が残したのはこの館だけです。
ここまで来た、宇宙エルフ族かエルフ族の娘よこの屋敷を貴方に授与します。
この館を受領する際は、この机の天板の下に父の付帯脳があるのでそこに血を一滴たらして下さい。それで授与は完了します。」
と言って映像が止まった。
古風なマホガニー材の書斎の大きな机の天板が画像投影のために立ち上がっており、その天板の下を見てみる。
プラスチックの箱の中に、ひび割れ折れた肩甲骨が何本ものコードに繋がれて置いてあった。
クリスはプラスチックの箱の蓋を開けると、左手の人差し指の先を小刀で突き刺して血を一滴、肩甲骨に落とした。
肩甲骨が輝く、しばらくすると天板の女性が
「登録が終了しました。画面にタッチして氏名を入力してください。」
女性が消え入力画面に変化する。
クリスが
『クリス』
と打ち込むと、また女性に変わり、
「これより、この館をクリス様に譲渡します。」
といって、画像が消える。
クリスは、俺を呼んでプラスチックの箱の中の肩甲骨を掴んで聖魔法を使いながら魔力を一緒に流して欲しいと頼まれた。
俺が肩甲骨を掴む、その手にクリスが手を添える。
俺の聖魔法で肩甲骨のひびが消えていき、骨折箇所もだんだんと治っていく。
添えられたクリスの手からも聖魔法ではあるが別系統の魔法が流れ込む。その魔法に乗せて数式が流れていく。
どこかで見た数式だ。そうだ、俺が付帯脳をもらった時のデータと同じだ。骨折箇所も修復が終わり、クリスから流れる数式を援助しながら肩甲骨に魔法を流す。
最後の数式を流し終えた。俺とクリスは思わず顔を見合わせてニッコリと笑った。
画像に再びクリスティーナが現れる。
クリスティーナが
「付帯脳を完全に修復してくれたのですね。欠損していた知識や新しい知識が私の中に流れ込んできます。ありがとうございます。
私もこれにより一部自我が形成されたようです。
これよりしばらくの間、書斎デスクのコンピュータを自己修復機能で性能向上させます。
クリス様、誠に申し訳ございませんが、画像の資材庫からAからDまでの物資を運んでください。
現在書斎デスク上に私の目を作成しています。」
光が机の上を行き来して、3Dプリンターが物を作るように、玩具の戦車の上に双眼鏡を載せたような物体が作られていく。
その玩具の戦車の双眼鏡がグルグルと回転しながら周りを見回している。
玩具の戦車の上の双眼鏡が、俺とモンを見つけてしばらく俺達を見つめると、クリスティーナが
「初めまして、エルフ族の大男さんと青色の髪をした美人さん、まだ音声認識機能が無いので大男さん、美人さんの順番で画像に名前を入力してください。」
クリスティーナが消え入力画面に変化する。俺が
「ヤマト スグル」
モンが
「セイリュウ モン」
と打ち込むと、画面がクリスティーナに戻り
「お顔を認識しました。今後この館の地下室には自由にお入りください。別の方が入る際は、同様の手続きを地下に降りる階段で出来るようにいたします。」
クリスが資材庫から荷物を積んだキャスターを押してくる。AからDまでの資材をクリスティーナが指定した場所に俺達が手分けして置いていく。
今度は、クリスティーナが俺に資材庫にあるFの棚の資材を全部持ってくるように頼んできた。
資材庫Fの棚には、ステータス画面を作ろうとしたのか何枚ものプラスチックの板やテレビ画面や入力操作板が置いてあった。
丁寧にキャスターの上に乗せて書斎に運ぶ、書斎に入るとクリスとモンとクリスティーナが会話をしている。
クリフさんとクリスティーナのアンドロイド音声認識機能が付いたそうだ。
俺が書斎に入るとクリスティーナが
「ありがとうございます。クリスとモンの旦那様。それでは資材をこの棚の上においてください。」
書斎のデスクの一部が小さな棚状になり部品を置いていく。
この後クリスティーナが作った物品を言われた場所に取り付けていった。
例えば玄関ホールの6体の全身鎧の置物は
『ガーディアンゴーレム』
と呼ばれており、その頭部のコンピュータ脳に作り上げた部品を取り付けたり、地下階段入り口に顔認証機能を取り付けたりしていった。
玄関ホールのガーディアンゴーレムの頭部に部品を取り付けているときにガーデニングを終えたアオイが入って来て、それを見咎めた修理済みのガーディアンゴーレムがアオイを排除しようとした。俺が中に入り何とか事なきを得た。
しばらくの間アオイが震えて俺の肩から離れなかった。
アオイも登録を終えて地下の食堂で昼食兼用の夕食をとる。
アオイが少し大きめのガラスのコップを持って来て
「ピイユルル、ピイユルル(あなたの精液で私の子供を作って)。」
と言いながらお腹から6個の種子を取り出しコップに入れて俺に押し付けて渡す。
クリスとモンが興味津々で俺の方を見ている。アオイは腕?葉を合わせてお願いのポーズでウルウルした黒い目で俺の方を見ている。
クリスとモンが減るもんじゃ無し精子入れてあげたら。何なら手伝ってあげようかとにじり寄ってきた。
四面楚歌⁉いやいやいやいや・・・!
しょうがないのでトイレにコップを持って駆け込む。
後ろから笑い声が追いかけてきた。
何となく後ろめたい気持ちで、俺はコップの中に精液に浸かった種子を持ってきた。それを見てクリスとモンが腹を抱えてまた笑っている。
俺は部屋の一角に魔法の袋で持ってきた医療用ポットを出して、その中でふて寝をした。
朝自動的にプシュという音とともに良い目覚めの香りがして、医療ポットの蓋が上がる。俺が医療ポットから出ると、医療ポットに寄りかかるようにしてクリスとモン、アオイも種子の入ったコップを抱えて寝ていた。
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