3 今どこにいるの。

 かおちゃんと和久井くんは合流して、和久井くんとゼンくんで時々行く場所を探してくれることになった。

 本屋さんとか、ラーメン屋さんとからしい。

「あと学校も行ってみる。見つけたら連絡するし、そっちもなんかあったら教えて」

 かおちゃんはそう言った。

 和久井くんは少し困惑した顔のまま、探すだけ探してみる、と言ってくれた。

 れいちゃんにも連絡した。

 れいちゃんは相葉さんと一緒にFIRE*WORKSにいる。不安でおろおろしているみたいだったけど、相葉さんがちゃんと落ち着いて対応してくれているみたいで、お店は回っているらしい。

 れいちゃんから教えてもらって、マスターにも連絡した。

 マスターは警察にも連絡したらしくって、一緒にいろんなところを探しているらしい。

 さくらさんも一緒だと言っていた。

 そしてわたしは。

 FIRE*WORKSのある駅まできて、迷っていた。

 どうすればいいんだろう。わたし、ゼンくんが行きそうな場所なんて実際それほど知らないのかもしれない。それでも、探さないという選択肢はない。

 いつも遊んでいたのはこの駅の周りだ。時々は遠出したけれど、それはマスターに連絡して大人に回ってもらうことにした。わたしは、このあたりを探そう。

 ショッピングビルを周る。一緒に見た服屋さん。帽子屋さん。バッグ売り場。文房具売り場、雑貨売り場。土曜日のせいか、人が多くて酔いそうだった。そもそも今日のゼンくんはどっちの格好をしているんだろう。女の子の格好? 男の子の格好? どっちのゼンくんを探せばいいんだろう。

 ――ううん。どっちでもいい。どっちでもゼンくんだ。静かに吹き抜けるあの春の風は、どんな格好をしていたってきっと分かる。

 見つかりさえ、すれば。

 ショッピングビルは人でごった返していたけれど、ちょっといつもと毛色が違う気がした。少しして、ようやく違和感の正体に気付いた。浴衣だ。浴衣を着ている女の子がちらほらいる。

 そうだ。今日は花火大会だ。

 ゼンくんと行こうと思っていたのに。

 ――花火になりたい。

 LINEに残された文字を思い出して胃が痛くなる。

 あの後何度もLINEで呼びかけてみたけれど、既読もつかなかった。

 ゼンくん。今どこにいるの。どうしたの。

 声に出して、問いかけたいくらいだ。

 その時、スマホが鳴った。れいちゃんだ。

「もしもし、まりもちゃん?」

「れいちゃん。ゼンくんは」

「まだ。その様子じゃそっちもだよね」

 ごめんなさい、と絞り出すと、謝んないでと怒られた。そのまま、れいちゃんがため息を吐く。

「一回戻ってきて。さっき言ってたお友達も。ちょっと休憩しないと、こっちが倒れてちゃ意味ないから」

「……でも」

「でもじゃない。ちゃんとおいで。待ってるから」

 絶対だよ、と念押しして、れいちゃんからの通話が切れた。

 時計はもう14時を示していた。そんなに経った気はしなかったのに。

 ゼンくんはこの時間を、どう過ごしているんだろう。


 FIRE*WORKSに戻ると、相葉さんとれいちゃんが迎えてくれた。

「おつかれさま、まりもちゃん。ごめんね、頼っちゃって」

「ううん」

 れいちゃんが少しだけ悔しそうに笑った。分かっている。れいちゃんだってきっと自分で探したい。それをしないのは、車椅子だからだ。正確には、車椅子であちこち行くには、世間がちょっと優しくないから。段差とか、階段とか、いちいち遠回りしなくちゃいけないことが多いから。

「まりもっちおつかれちゃんねおつかれちゃん。ちゃんと水分とってたかい?」

 言いながらグラスを差し出してくれたのは相葉さんだ。今日もアロハシャツにサングラスでちょっと怪しいけれど、その上からエプロンも身に着けている。

「あ……忘れて、ました」

「だめ。すごくだめそれだめ。熱中症になるよ。飲んで」

 促されてグラスにささったストローに口をつける。スポーツドリンクなんだろうか。すっきりとして、ほんの少し酸味もあって美味しかった。

「相葉さん、あの」

「うんうん。お仕事のことならまた今度。今はそれどころじゃないからね」

 ぽんぽん、と頭を叩かれる。れいちゃんが伝えてくれたんだろうか。少しだけ苦しくて、ほっとして、頭を下げる。

 少しして、かおちゃんと和久井くんが一緒に来た。学校近くを探してくれたらしいけれど、全然その気配はつかめなかったらしい。

「さすがにおなかすいたっしょ」

 そう言って、相葉さんが全員分のお昼ご飯にパスタを用意してくれた。一階だと他のお客さんに気を使わせてしまう気がして、みんなで二階に上がって食べた。味は、正直分からなかったけれど。

「和久井くん、あの、ありがとう」

 わたしの言葉に和久井くんは少しだけ天井を睨んで、ぼそっと短く「俺も一応友達のつもりだからね」と言った。

 ゼンくんと和久井くんはどうして友達になったのかな。無事にゼンくんと会えたら聞いてみたいな、とちょっと思った。

 四時過ぎにマスターたちも帰ってきて、泣きはらした目のさくらさんがみんなに頭を下げた。

「マスター、あの、身体大丈夫ですか?」

 マスク姿のマスターに問いかけると、あは、とマスターは困った顔で笑った。

「大丈夫、熱は下がってる」

「パパ、ママは?」

「病院に送ってきた」

「えっ」

 れいちゃんとの会話に、思わず声を上げてしまった。一瞬きょとんとしたれいちゃんが、あ、と慌てた様子で手を振る。

「違う違う。ママね、医者なんだよ。外科医なんだけど、今日もシフトあったはず」

「もっと探すって駄々こねてたけどね」

 マスターが苦笑した。

「あのぉ……本当に、皆さん、すみません……」

 さくらさんだ。弱弱しく頭を下げている。

「さくらちゃん、顔上げて。ここにいるみんなはゼンのことが好きで心配で集まってくれてるんだよ」

 マスターがさくらさんを慰めている。その様子をみながら、かおちゃんがちょっとだけ居心地悪そうに身じろぎするのが見えた。かおちゃんはたぶん、野木は別に、とか思ってるんだろうけれど、それでもここにいてくれるのはかおちゃんの優しさだ。

「しっかしほんとに見つからないねぇゼンちゃん」

 相葉さんが腕を組んで息を吐く。

 二階には相葉さんの荷物がたくさん転がっていた。本当は今日、撮影をする予定だったから。綺麗でかっこいいゼンくんを、見れるはずだったから。

「なんかこう、ゼンちゃんから聞いてるやついないかい?」

 相葉さんの問いにみんなが首を横に振る。わたしも首を横に振りかけて、はたと気が付いた。LINE。

 慌ててスマホを取り出して、机の上に置いた。

「あのっ、こ、これ」

 ゼンくんとのトーク画面。

 そこに残されたメッセージ。

 たった一言の、メッセージ。


『俺も花火になりたい』


 はなび、と、誰かが呟いた。

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