12 テストが、終わったら。

 さすがに一週間前になると勉強に集中せざるを得ない。

 少しの間、スケッチブックもお化粧道具もマニキュアたちもしまい込んで、教科書ノートとお友達になっていた。

 FIRE*WORKSもお預けにしている。どうしても気持ちがそわそわしてしまって、勉強どころではなくなってしまう気がしたから。

 だから今日は、かおちゃんの部屋だ。かおちゃんのおうちにお邪魔して、ふたりで勉強会をしていた。

「ふあー、つっかれたー」

 テーブルにかおちゃんが突っ伏す。

「やばくない? 英語範囲広すぎくない?」

「広いね……」

 苦笑しながら頷く。そもそも授業スピードが英語は早くて、それの一学期分と考えれば当たり前なんだけれど、範囲が広くて面倒くさい。

「はーっ、あっそびたーい、絵描きたーい。テストはよ終われー」

 じたばた、とかおちゃんは足をばたつかせた。

「かおちゃんも描いてない?」

「さすがにね。まりもも? いまどんな感じなの?」

「あ、うん。ほとんど終わってて」

「え、マジかー!」

 驚いた顔のかおちゃんに、照れながらちいさく頷く。

 そう。絵はほとんど出来上がっている。あとはいくつかの手直しと、最後の仕上げにラメを入れたいところがあるくらい。それくらいならやっちゃってもいいかな、と思ったのだけれど、テスト期間でちょうどいいから、いったん描いていた絵を封印している。頭を冷やして、もう一度見て、それでちゃんと仕上げをしたくて。

「はー。すごいね、まりも」

「あ、ありがとう」

「なんか、変わったよね」

 目を細めて、かおちゃんが覗き込んでくる。

「やっぱなんか、あったんだよね」

 うん。あった。

 ホントは言いたい。お化粧、教えてもらったんだよ。ゼンくん、すごいかわいいんだよ。教室でふわふわと寝ている野木くんだよ。とびっきりの笑顔を見せてくれるんだよ。それなのに綺麗でかっこいい写真の被写体で、その写真を撮っているおじさんはちょっと変だけど面白い人で、それからその写真を飾ってる場所は、FIRE*WORKSという名前のアートカフェで、そこには車いすのVtuberがいて――

 いろんなことが、わたしを少しだけ、前に進ませてくれているんだよ。

 そう、言いたい。だってかおちゃんは、あんな暗い中学時代のわたしの、唯一の友達で、今もこうして友達でいてくれている大事な人だから。

「ちょっと、待っててくれる……?」

 ゼンくんに。れいちゃんに。今度、訊いてみよう。どこまでなら、はなしていいのかな、って。かおちゃんに秘密を持ち続けているのは、やっぱりちょっと、しんどいから、って。

「――分かった」

 ぽんっと、かおちゃんの手がわたしの頭に触れた。ぐしゃっと乱暴にかき回されてあわあわしているうちに、かおちゃんが立ち上がる。

「飲み物取ってくるね」

「あっ……かっ、かおちゃん!」

 部屋の扉に手をかけたまま、振り返ってくる。

「か、かおちゃんは……なんで、わたしと一緒にいてくれるの?」

 かおちゃんはみんなと仲がいい。華やかだし、明るいし、人気がある。それなのに。

 いじめられていた中学の時のわたしにも、物おじせずに声をかけてくれた。

「――まりもはさ」

 少しだけ困ったように、笑って。

「基本的にうじうじしてるし、下向きっぱなしだったじゃん。とくに中学の時」

 そう告げるかおちゃんの言葉には、そうです、としか言いようがない。

「でも、絵を描く時だけはその目がまっすぐ絵に向かうでしょ。きりっとしてて、ちょっと冷たさを感じるくらいの目になって、それが、なんかすごく好きだなぁって思ったの。この子は、絵に対してめちゃくちゃ真面目だなぁーってさ」

 だから、とかおちゃんは続けた。

「絵を描くまりもが好きだし、まりもの絵も好き。でも今は、いっぱい話していろんなまりもが見えて来てるから、どんなまりもでも全部好きだよ」

 さらさらの、かおちゃんの髪の毛が揺れている。

「わたし、かおちゃんに恥ずかしくないひとになれるように……頑張りたい」

「なにそれー」

 アハハハと、声をあげてかおちゃんは笑った。

「まりもを恥ずかしいなんて思ったこと、一回もないからね。――じゃ、待っててね」

 ひらりと手を振って、扉を出ていくかおちゃんの背中を見送る。

 うん。そうだね。

 絵が、出来たら。かおちゃんにも絶対見てもらおう。

 ゼンくんたちのこと、どこまでかは分からないけれど、話せたらいいな。せめて、FIRE*WORKSのことだけでも、話したい。

 そう。

 テストが、終わったら。

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