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「――まあ、この旅行に来て良かったって思わせてくれたら、利用されてあげても良いわ。……あくまで、仲良くなりたいというのが嘘じゃなかったらの話よ」


「――うん! もちろんホントに決まってる! ――ありがとう」


 そして二人は、最終的に照れながらよく分からない事を言って話を閉めた。なんだったんだろうこの会話?


 さて、美少女はこの二人だけにあらず。俺は、これまた隣り合って体を洗っている帆風と川上の姿を確認したので、名残惜しみつつもそちらへ向かった。

 さあ、帆風と川上の側まで来ると二人の体を隅々まで観察する。

 西城と城ケ崎に負けず劣らずのナイスプロポーションに、興奮を超えて最早感動してしまう。こんなん最早芸術品やで。こんなカラダした美少女が、同じ教室で授業受けてたとか嘘だろ。まあ、川上のは見たことあるけどね。よくこのカラダを目の前にして手を出さなかったよな、あの時の俺は偉い!


 いやまあ、今回も見るだけで手を出すのは我慢しないといけないんだが、せめてもっと近づいて大迫力を楽しみたいということで、俺は手を伸ばせば届くくらいの距離にまで接近した。

 かなり危険な行為だが、俺の反射神経ならうっかり二人と当たってしまうなんてヘマは避けられるはずだ。

 そうやって近くから二人の体をカメラに収めていると、二人は会話を始めた。


「川上さんがこの旅行に参加するの意外だったなあ。他意は無いんだけど、一人が好きなんだって思ってたから」


「……う、うん。でも、このままじゃいけないと思って」


「やっぱりみんなと仲良くしたいって思うの?」


 帆風の問いに川上は恥ずかしそうな顔をする。

 以前は人間より本が第一って感じのあいつにも、何らかの心境変化があったのだな。ようやく真実の愛とか心中とかが、下らないって分かってくれたんだなと俺は安心する。……もう一回口説こうかな?

 俺がいろいろ想像していると川上は口を開いた。


「違います。やっぱり警察に通報されたくらいで、心中を諦めるのはおかしいと思って」


「……はぁ!?」


 ……はぁ!? おっと、思わず帆風とシンクロしてしまった。まだ諦めてなかったのかよ。それで俺が参加するこの旅行に自分も、ということか。やっぱり口説くの止めます。


「いやいや、警察に通報されるって相当だと思うけどね。『くらい』で済ませられないとは思うけどね」


「確かに警察に指導もされました。カウンセリングも受けさせられて、今も通院しています。けど、やっぱり諦められないんです。……こんな障害だらけでも諦められないって、これこそ私が求める真実の愛だと思うんです。そう思うと余計に諦めきれなくなって――」


 いやいや、こっちの身にもなって欲しいんだけど、愛ってそんなに一方通行なものだったっけ? えーっと、精神科は119番ではないよな……何番だろ……?

 ……心中したら119番かって、やかましいわ。


「あ、そうなんだ……。頑張ってね」


 帆風は川上の話を聞いて、超テキトーな返事をしやがった。そして、さっきまで川上の方に顔を向けていたのを正面に向き直して、髪の毛を洗い始める。

 これで会話は打ち切りらしい。おい、学級委員長ならクラスメイトの安全のことはもっと考えてくれよ。帆風の顔を覗き込むと、ドン引きという顔をしていた。帆風のこんな顔始めて見たわ。カメラに収めとこ。




 はあ、と俺はため息をついた。ホント、黙ってたら美少女なのになんで心中心中ってしゃべっちゃうかなあ。と思いながら俺は帆風と川上の裸体を録画する。

 しばらくして、かなり良い画が撮れ一段落した俺は、ふと水島と中野のことが気になった。あいつらは上手く撮れてるだろうか。そんなことを思った矢先、


「きゃー! 覗きよー!」


 甲高い女性の声が風呂場に響き渡った。

 しまった、バレた。とりあえず辺りを見渡して状況を把握する。

 女たちは叫びに動揺する者、風呂場を出て脱衣所に逃げ込む者、逆に風呂につかる者、様々な反応をとる。

 中には少数ながら、我関せずといった感じの女も居たが、誰一人俺の方を見る女は居ない。ということはバレたのは水島か中野か。あいつらヘマしやがって、後で一発殴ってやるからな。

 だが、バレたのはあいつらであって俺ではない。もう少し粘れるか?


 しかし帆風、川上も脱衣所に避難とまではいかないものの、その素晴らしいカラダをタオルを巻いて隠してしまった。くそっ、なんて勿体ないことを!

 でもまあ、これはこれで趣があるかと凝視していると、帆風はきょろきょろしだした。


「覗きって最悪。どこ、誰? もしかして永井君?」


 いやなんでそこで俺を疑うの? 酷くない? 他にも旅行客はいくらでもいるだろ? まあ、俺なんだけど。

 するとこれを聞いた川上は、鼻をクンクンいわせ辺りのニオイを嗅ぎ始めた。ニオイで犯人を特定しようって? 犬じゃあるまいし。


「うーん、確かに近くに永井君の匂いがあるような……」


「え、うそ!?」


 え、うそ!? まーた帆風とシンクロしてしまったぜ。こんなに気が合うなんて良い夫婦に成れるんじゃないか?


 いや、それにしても川上の身体能力には毎度驚かされるぜ。目にも止まらない速さで動く、十五階から落ちても死なない、ニオイで人の居場所が分かる。……本当に人間?





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